第24話 うん、見ての通り私達は大丈夫だよ
そんな事を考えながらシャワーを浴びてプールの入り口に向かう俺だったがゴーグルが無い事に気付いた。
「更衣室に忘れてきたっぽいな、シャワーを浴びた後で面倒だけど取りに戻るか」
待ち合わせ場所である入り口にはまだ二人の姿が無かったためまだ時間的な余裕はあるはずだ。一旦更衣室に戻った俺はリュックサックの中からゴーグルを取り出す。
そして改めてプールの入り口に向かう俺だったがそこに近づくにつれて男女数人の争うような声が聞こえてくる。
「だからさっきから一緒に来てる相手がいるって何回も言ってますよね。私も里緒奈もあなた達と遊ぶつもりは一切無いですから」
「いい加減しつこい」
「えー、いいじゃん。そんな奴ほっといて俺達と一緒に行こうよ、楽しませる自信があるからさ」
「そうだよ、君達みたいなめちゃくちゃ可愛い女の子を待たせるような男なんて絶対ろくな奴じゃないって」
どうやら玲緒奈と里緒奈は大学生くらいに見える二人組からナンパされているらしい。金髪で耳たぶにピアスの穴が複数あいたそいつらはまさにチャラ男という風貌だった。
普段なら絶対に関わりたくないような輩だが明らかに二人とも嫌がっている様子なのでひとまず助けに入る事にする。
「すみません、玲緒奈と里緒奈をナンパするのは辞めて貰っていいですか?」
「えっ、ひょっとしてまさか待ち合わせの相手ってこいつ?」
「いやいや、 流石にこんなダサい奴はないでしょ。多分正義の味方気取りで出しゃばってきた関係ない奴じゃね?」
「なるほど、こんな冴えない奴が彼氏とか絶対あり得ないもんな」
俺の姿を見た二人組はニヤニヤしながら好き放題言い始めた。うん、こいつらなんてまともに相手にしてやる必要はない。
俺は玲緒奈と里緒奈の手を取ると無視してそのままプールサイドへ行こうとする。しかし立ち塞がって進路を妨害してきたせいで進めない。
流石にこんな人目の多いところで暴力沙汰を起こすほど馬鹿ではないと思うがここまでしつこく絡まれると面倒だな。
「お前がいなくなるのは自由だけどさそっちの上玉二人を連れて行こうとするなよな」
「てかさ、今気付いたけどこいつの背中キモくない?」
「うわ、本当だ。なんか刺されたような跡あるじゃん、そんな汚いものを見せてくるなよ」
俺の後ろに回り込んできたチャラ男の片割れがそう声を上げるともう一人もそれに同調して馬鹿にし始めた。その瞬間、俺とその周りの温度が下がるような錯覚とともに激しい寒気を覚える。
「……ねえ、今なんて言いました? 涼也君の背中の傷を見てキモいとか汚いって言ったように聞こえた気がするんですけど」
「だ、だって本当の事じゃん。なあ?」
「あ、ああ」
鬼のような形相をした玲緒奈に詰めよらてたじろぐ二人だったがこの期に及んでまだ強がっていた。だが里緒奈の表情を見た瞬間チャラ男達は黙り込む。
いつも通りの無表情に見える里緒奈だったが何も映っていないその瞳には今にも吸い込まれてしまいそうな闇を孕んでおり上手く言葉では言い表せない恐怖がそこにはあった。多分小さな子供が今の里緒奈をみたら号泣してしまうに違いない。
「涼也の背中の傷は私とお姉ちゃんを命懸けで守って出来たもの、それを悪く言う事だけは例え誰であっても絶対に許さない」
そんな言葉を里緒奈が口にした瞬間チャラ男達は揃って震え始める。まるで肉食動物を前にした無力な草食動物のようだ。
このまま玲緒奈と里緒奈が二人に襲い掛かるのではないかと心配になり始める俺だったが幸いな事に騒ぎを聞きつけてやってきたプールの屈強な男性スタッフがやってきた事でそうはならなかった。
そのままチャラ男二人はどこかへと連行されていく。完全に戦意喪失している様子であり全く抵抗していなかった。
「二人とも大丈夫だったか?」
「うん、見ての通り私達は大丈夫だよ」
「涼也、ありがとう。助けようとしてくれて嬉しかった」
先程までとは打って変わって二人はいつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。さっきまで激しく怒り狂っていた彼女達とはまるで別人のようだ。
一つ分かった事は絶対に玲緒奈と里緒奈を怒らせてはならないという事だろう。特に玲緒奈以上に里緒奈は恐ろしいオーラを出しており、正直通り魔と対峙した時以上のプレッシャーを感じさせられていた。
「いきなり大きなハプニングもあったけど、今度こそ三人でプールを楽しもうぜ」
「うん、今日はいっぱい遊ぼうね」
「楽しみ」
俺達は三人並んでそのままゆっくりとプールサイドに歩き始める。さっきの一部始終は目立っていて結構多くの人に見られていたため玲緒奈と里緒奈をナンパしようとする不届な輩は多分もう現れないだろう。
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