第20話 このまま二人でベッドインしたら一生忘れられない思い出が出来ると思う

 それからしばらくして五時間目の授業も無事に終わり休憩時間に入る。六時間目の体育が終われば今日の授業も終わるため少し気が楽だ。

 先週から引き続きバレーボールの授業だったわけだが俺は練習試合中にボールをトスしようとした瞬間盛大に突き指をしてしまう。

 練習試合そっちのけで考え事をしていた事が良くなかったのかもしれない。保健室へと向かう俺だったが入り口で見知った顔の人物に遭遇する。


「涼也どうしたの?」


「実は体育でバレーをしてたら思いっきり突き指しちゃってさ、里緒奈こそどうしたんだよ?」


「家庭科の授業の裁縫中に針が刺さったから消毒と絆創膏を貰いにきた」


 そう口にした里緒奈は人差し指を見せてきた。確かに少しだけ赤くなっている。里緒奈がミスをするイメージなんて無かったため正直意外だ。とりあえず中に入る俺達だったが中には誰もいなかった。


「保健室の先生はいないみたいだな」


「用事か何かでどこかへ行ってるのかもしれない」


「待っててもいつ戻ってくるか分からないし、勝手に応急処置させて貰おうぜ」


 ひとまず俺は棚を適当に漁って中からテーピングテープとキズパワーパッドを取り出す。


「涼也、指出して。私がテーピングしてあげる」


「いや、自分で出来るから大丈夫」


「涼也のためにやってあげたい、駄目?」


 里緒奈から目を見つめられて断れなくなった俺はテーピングして貰う事にした。俺は里緒奈にテーピングテープを巻いてもらいながら気になっていた事を聞く。


「何でも完璧そうにこなすイメージがある里緒奈でもそんなミスをするんだな」


「実はおっちょこちょい」


「へー、そうなのか。かなり意外だ」


「その辺はお姉ちゃんの方がしっかりしてる」


 そんな話をしているうちに俺のテーピングは終わった。かなり手際が良かったため慣れているのかもしれない。


「じゃあ今度は涼也の番」


「ああ、と言っても指に貼るだけだけど」


 俺は里緒奈の手をそっと取ると人差し指にキズパワーパッドを貼り付ける。里緒奈の白くて細長い指を握っていると変な気分になりそうになった事は内緒だ。


「せっかくだからベッドで少し休んでいく?」


「突き指したくらいで大袈裟過ぎるからパスで」


「このまま二人でベッドインしたら一生忘れられない思い出が出来ると思う」


「いやいや、それは駄目だろ!?」


 とんでもない事を口走る里緒奈に対して俺は思わずそうツッコミを入れた。学校の保健室で男女がベッドインするとか完全にエロ漫画の世界だけの話であり、現実世界ではまずあり得ないだろう。


「良いリアクションありがとう」


「……俺の男心を弄んだな」


「私だけ抜け駆けはお姉ちゃんに悪いから」


 里緒奈はいつも通りのクールな表情でそう口にしたがどこか悪戯が成功した子供のようにも見えた。そんなやり取りをした後里緒奈と別れて俺は体育館に戻る。

 あと少しで授業時間も終わりという事で後片付けの最中だった。適当に片付けに参加した後更衣室で着替えて教室に戻る。

 そして中に足を踏み入れた瞬間教室の中が異様な雰囲気に包まれている事に気付く。明らかに俺に対して敵意を向けているクラスメイト達も大勢いるが状況がよく分からない。


「八神、あんたがを盗ったの?」


「……えっ?」


「だから私の財布を盗んだのかって聞いてるのよ」


 俺に対して強い口調で詰め寄ってきたのはクラスの陽キャ女子の一人、白銀美鈴しろがねみすずだった。かなり頭に血が昇っているらしくその表情からは強い怒りが読み取れる。


「ちょっと待て、何で俺が疑われてるのかよく分からないんだが……」


「八神が怪しいって皆んな言ってるけどそこはどう説明するつもりかしら?」


「怪しいって一体何を根拠に言ってるんだ?」


 俺がそう疑問の言葉を口にするとクラスメイトの誰かが声を上げる。


「体育の授業中八神だけいなかったじゃん、多分その時に盗ったんだよ」


「保健室へ行くふりをして盗んだに決まってる」


 なるほど、あの時に体育館の外に出た事が疑われる要因になってしまったらしい。だが俺はあの時里緒奈と一緒に保健室にいたアリバイがある。それを説明する俺だったがクラスメイト達からの疑いは全く晴れそうにない。

 悲しい事に人望が無さすぎて誰も信じてくれなかったのだ。最初は怪しいというレベルだったが次第に俺が犯人と決めつける空気になり始めた。

 正直この流れになるのはかなり不味い。当然犯人は俺ではないためどれだけ調べられても証拠なんて出るはずないが、それだけでは無罪までは証明できないのだ。今までは一部の輩だけだったが今後はクラスメイト全員から後ろ指を刺される事になってしまう。

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