第19話 流石にそれはちょっと気が早すぎるんじゃないか?

 玲緒奈と里緒奈が泊まりに来た日から六日が経過して期末テストの直前になっていた。いよいよ来週の月曜が期末テスト本番であり教室内はいつもよりピリピリしている。

 先週の土曜日に東京インクルージョンスクエアで遊んで以降はずっと里緒奈から勉強を教えてもらっており明日から始まる土日もほぼ付きっ切りの予定だ。

 ここしばらく里緒奈から勉強を教えてもらったおかげで入院中の遅れはだいぶ取り戻せており、恐らくこの調子で頑張れば赤点は回避できると思う。


「里緒奈がいなかったら夏休みが間違いなく減ってたか本当に助かった、マジでありがとう」


「涼也君から褒められて良かったね」


「涼也の役に立てて嬉しい」


 俺と玲緒奈の言葉を聞いた里緒奈はちょっとだけ嬉しそうな顔で反応した。無表情と思われがちな里緒奈だが人よりも感情表現が苦手なだけでちゃんと表情はある。

 最近では里緒奈の表情が少しずつだが分かるようになってきていた。ちなみに言うまでもなく玲緒奈は一卵性の双子という事もあって里緒奈の表情を完璧に判別できるらしい。


「あっ、そうだ。テストが終わったら打ち上げをしようよ」


「お姉ちゃんに賛成」


「流石にそれはちょっと気が早すぎるんじゃないか?」


 まだテスト前だというのにすっかりやる気満々の玲緒奈と里緒奈に対してそうツッコミを入れた。すると玲緒奈は楽しげな顔で口を開く。


「終わった後に楽しい事が待ってたらより一層やる気がでそうじゃない?」


「なるほど、確かにそれは一理あるな」


 確かにテスト後に打ち上げという楽しいイベントが待っているとなればモチベーションアップにつながるだろう。まあ、赤点を取れば台無しになってしまうリスクはあるが。


「じゃあ決まりだね、詳しい話はまた後で話そう」


「オッケー、分かった」


「それで大丈夫」


「今から楽しみだね」


 俺と里緒奈の返事を聞いた玲緒奈は満足そうに頷いた。それから俺達は座っていた段差から立ち上がって教室に戻り始める。


「俺はトイレに行ってから教室に行くわ」


「分かった、先に戻ってるね」


「涼也、また後で」


 本当は別にトイレなんて行きたく無かったが玲緒奈と一緒に教室へ戻るとクラスメイト達からヒソヒソされる可能性がある。

 いや、玲緒奈と一緒ではなかったとしてもヒソヒソされるか。とにかくここ数日間で俺はあまりにも目立ち過ぎてしまったのだ。

 玲緒奈と里緒奈と仲良くすればするほど俺にヘイトが向いてしまう。だが二人に悪気はないと思うため邪険に扱えなかった。

 このままでは何か事件が起こりかねないため何とかしたいのだが特に良い方法も思いつきそうにない。そんな事を考えながら少し時間をずらして教室に戻った俺だが問題が発生する。


「あれ、英語の教科書が見当たらない……」


 トイレを終えて教室に戻った俺は昼休み明けの授業である英語の準備をしようとしていたがなぜか教科書がどこを探しても見当たらなかった。


「……もしかして忘れたパターンか?」


 そう言えば昨晩予習をする際にリュックサックから出していたため家に忘れてきたかもしれない。かなり面倒な事になったため俺は焦り始める。

 ぼっちの俺には教科書を貸してくれるような友達がいないのだ。だから今まで細心の注意を払っていたのだがついにやらかしてしまったらしい。教科書がないと全く授業にならないため非常に困る。


「不味いな、どうしよう……」


 教科書を忘れた事を正直に教師に打ち明けようかとも思ったが内申点が下がってしまう。入院していた関係で元々マイナスになっているためこれ以上下げるのは避けたい。俺が一人で焦っていると玲緒奈から話しかけられる。


「ねえ、涼也君。困った顔してるけど何かあった?」


「……実は英語の教科書を忘れてきたみたいでさ」


「ちなみに誰かから借りる当てとかは?」


「ぼっちの俺に貸してくれるような友達がいるわけないだろ」


 玲緒奈の言葉を聞いた俺はそう答えた。自分で言っててめちゃくちゃ悲しくなってしまったが事実である以上受け入れるしかない。


「そっか、なら私が里緒奈から借りてきてあげるようか? あの子のクラスも午前中英語の授業あったはずだから教科書持ってると思うし」


「えっ、マジで!? 死ぬほど困ってるから頼んでもいいか?」


「オッケー、ちょっとだけ待っててね。すぐ里緒奈のクラスに行って借りてくるから」


 そう言い残すと玲緒奈は急ぎ足で教室から出ていく。 今の状況に陥っている俺にとって玲緒奈はまさに女神様だった。

 そんな俺達のやり取りは当然クラスメイト達にも見られていたわけだが面白くなさそうな表情をしている奴らも一部存在している。まあ、俺と玲緒奈が仲良くする姿を気に入らないと感じるような奴らなのでいつも通りだが。

 でも今回忘れたのが英語の教科書でまだ良かった。もしこれが六時間目につかう体育の体操服だったなら最悪だ。いくら里緒奈と身長がほとんど変わらないとは言え借りる事なんて出来るはずがない。

 体育教師はかなり面倒なタイプなので体操服を忘れたなんて話した日には吊し上げられそうだ。そんな事を思っていると手に教科書を持った玲緒奈が教室に戻ってきた。


「お待たせ、里緒奈から借りてきたよ。放課後返してくれれば大丈夫だって」


「ありがとう、本当に助かる」


「いいよ、また里緒奈にもお礼を言っておいて」


 玲緒奈はにこやかな顔で俺に教科書を手渡すとそのまま自分の席に座る。そしてすぐにチャイムが鳴って授業が始まったわけだが里緒奈の教科書には色とりどりのマーカーが引かれていてかなり見やすかった。

 これが学年トップを走り続ける秘訣かと思いつつ多分俺が同じ事をやっても一位を取れるとは思えないため里緒奈の実力が大きいに違いない。


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