第18話 ちょ、ちょっと急に何を言い出すの!?

「次はこれで遊ばない?」


「これは女子がするゲームじゃない気がするんだけど」


「私とお姉ちゃんはストレス発散でたまにやってる」


 玲緒奈がやりたいと言い始めたゲームはパンチングマシンだった。てか、玲緒奈はともかく里緒奈がやるイメージはないのでめちゃくちゃ意外だ。

 そんな事を思っている間に里緒奈はパンチングマシンにお金を入れて手にグローブ装着し始めていた。そしてパンチングマシンの中央にあるサンドバッグ殴りつける。


「やっぱりスッキリする」


「へー、結構良いスコアだな」


 里緒奈のスコアは壁に張り出されていた平均より少し上だった。男女混合の平均スコアと考えれば女性の中ではかなり強い方だと思う。


「よし、今度は私だね」


「お姉ちゃん頑張って」


「二人とも見ててね」

 グローブを装着した玲緒奈は深呼吸をした後サンドバッグを綺麗なフォームで勢いよく殴りつける。


「うーん、ちょっとイマイチかな」


「いやいや凄まじいスコアじゃん」


 平均を遥かに上回るハイスコアでありスコアランキングの五位に匹敵する結果だったのだ。多分玲緒奈と喧嘩したらボコボコにされそうな気しかしない。


「涼也もやってみて、絶対スカッとする」


「全然やった事ないけど上手くできるかな?」


「大丈夫だよ、何も考えずに思いっきり目の前にあるサンドバッグを殴りつけるだけだから」


 玲緒奈からグローブを受け取った俺はその場で軽く準備運動をしてからパンチングマシンを殴りつける。だが画面に表示されたスコアは平均にすら届いていなかった。


「思ってた以上に難しいな……」


「パンチのフォームを見直せばもっとスコアは伸びると思う」


「じゃあ特別に私達が涼也君に正しいフォームを教えてあげるよ」


「おい!?」


 なんと玲緒奈と里緒奈は後ろから俺に密着してきたのだ。そのまま二人は俺の体を動かしながら説明を始めるが思いっきり胸が当たっているせいで全く集中なんて出来ない。


「肩幅は大体このくらいで腕の構え方はこんな感じで、足幅は……って涼也君ちゃんと聞いてる?」


「心ここにあらずって顔をしてる」


「も、勿論聞いてるぞ」


 嘘だ、胸の感触が気になり過ぎて説明を聞くどころではない。言うまでもなくその後の説明に関しても全くと言って良いほど頭に入ってこなかった。

 そして玲緒奈と里緒奈もそれを分かった上でわざと聞いてきているに違いない。結局二回目のスコアも最初とほとんど変わらなかったが二人は満足した表情を浮かべていた。


「次は三人でプリクラを撮りたい」


「プリクラか、実は撮った事ないんだよな」


「じゃあ私達が涼也君のプリクラ童貞を卒業させてあげるよ」


「……さらっと童貞卒業とか言うな、びっくりするだろ」


「ごめんごめん」


 そんなやり取りをしながら三人でプリクラ機の中へと入る。正直プリクラを撮る事には少し抵抗もあったが玲緒奈と里緒奈がノリノリだったため断れなかった。二人は手慣れた様子で機械を操作し始め、あっという間に撮影画面まで進んだ。

 そしてすぐに撮影のカウントダウンが始まったので指定されたポーズを取ろうとしていると突然左右から玲緒奈と里緒奈に抱きつかれる。


「ちょっ!?」


 突然の事に驚く俺だったが、その瞬間カウントがゼロになりシャッター音が鳴り響いた。何とかして引き剥がそうとする俺だったが二人は離れてくれない。結局五回撮影されたわけだがその全てで俺は抱きつかれていた。


「涼也君凄い顔になってるね」


「かなりレアな表情」


「急に抱きつかれたら誰でもこんな顔になるだろ」


 俺は抗議するような視線を送るが二人はどこ吹く風といった感じだ。それから二人は画面を操作して目を大きくしたりタッチペンを使って落書きしたりしていた。


「なあ、そんなに目を大きくする必要ってあるか? 俺にはちょっとよく理解できないんだけど」


「えっ、でもこれがプリクラの醍醐味だよ?」


「女子の間ではこれが普通」


「……玲緒奈も里緒奈もめちゃくちゃ美人だから別に今のままでも全然良いと思うんだけど」


 俺が思った事をぼそっと口にすると玲緒奈と里緒奈は顔を赤く染める。


「ちょ、ちょっと急に何を言い出すの!?」


「……いきなりそんな不意打ちは卑怯」


「ご、ごめん。まさか聞こえるとは思わなくて」


 ゲームセンターの中は結構うるさいため騒音て俺の声などかき消されると思っていたのだがそうはいかなかったらしい。


「涼也君がそこまで言うなら目とかはそのままでいいかな」


「今回は落書きだけで我慢する」


 そう言い終わると玲緒奈と里緒奈は相変わらず顔を真っ赤にしたまま黙って落書きを再開した。そして制限時間がやってきたため俺達はプリクラ機から出る。


「はい、涼也君の分」


「ありがとう……ちなみに二人はそのプリクラはどうするつもりなんだ?」


 ハサミで切ったプリクラを玲緒奈から手渡された俺はそう尋ねた。


「私達は貼るつもり」


「うん、やっぱりプリクラは貼るものだと思うし」


 二人はそう口にしながら先程撮ったプリクラを手帳やスマホの背面など自分の持ち物に対して次々にペタペタと貼り始める。


「……プリクラを貼るのは二人の自由だと思うから一旦そこは目を瞑るけどさ、せめてあんまり目立たないところにして貰えないか?」


「えっ、何で?」


「だって俺に抱きついてるプリクラじゃん、どう考えても恥ずかしいだろ」


 ただでさえ普通のプリクラでも恥ずかしいというのに、それが抱きつかれているなら尚更だろう。


「私とお姉ちゃんは大丈夫」


「うん、だからどんどん皆んなに見せつけていこようよ」


「いやいや、玲緒奈と里緒奈が問題なくても俺は一ミリも大丈夫じゃないから」


 俺は思わずそうツッコミをいれた。しかし二人が貼り直しをしてくれそうな気配は無い。どれだけ説得しても時間の無駄にしかならない事を悟った俺は諦める事にした。


「よし、じゃあそろそろ買い物に戻ろうか。次はどこに行く?」


「新しい下着を見たい、涼也に選んで欲しい」


「良いね、そうしようか」


「いやいや、全然良くないだろ。てか、さらっと凄まじい要求をしてくるなよ」


 女性用下着売り場なんかについて行ったら絶対周りから好奇の目で見られるに決まっている。そんなやり取りをしながらゲームセンターを出た俺達は再びショッピングに戻った訳だが、結局その後半日以上は付き合わされるはめになった。

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