第15話 私も里緒奈も純愛だと思ってるけど?

「……もう朝か」


 いつの間にか眠っていた俺だがカーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。玲緒奈と里緒奈はまだ眠っていたが相変わらずがっちり挟まれていたため圧迫感が凄まじい。

 俺はひとまず気持ちよさそうに寝ている二人を起こさないようにゆっくりと起き上がる。その瞬間とんでもない事に気付く。


「えっ!?」


 なんと俺の隣で眠っていた玲緒奈は下着姿だったのだ。よくよく見たらベッドの下に玲緒奈が着ていたパジャマが脱ぎ捨ててあった。すると俺の叫び声で目を覚ましたらしい二人がゆっくりと起き上がる。


「んー、騒がしいな。朝から一体どうしたの?」


「もう少し寝させて欲しい……」


「いやいや、何で玲緒奈が下着姿になってるのかを説明して欲しいんだけど」


「……お姉ちゃんは寝ながらパジャマを脱ぐ癖がある」


「そうそう、昔からついついやっちゃうんだよね」


 朝から元気そうな玲緒奈に対して里緒奈はめちゃくちゃ眠そうな様子だった。恐らく里緒奈は体質的に朝が弱いのだろう。


「と、とりあえずパジャマを着てくれ」


「でも昨日お風呂の時に私と里緒奈の裸を見たんだから下着姿くらい今更じゃない?」


「そういう問題じゃないだろ」


 俺と玲緒奈がそんなやり取りをしている間に里緒奈は二度寝をし始めていた。二人ともめちゃくちゃマイペースだな。それから里緒奈が目覚めるのを待ってからそれぞれ朝のルーティンを済ませたタイミングで玲緒奈が口を開く。


「今日は土曜日だし勉強会は無しにしない?」


「ああ、別に構わないぞ」


 休日まで二人に付き合って貰うのは流石に申し訳ないと思っていたためむしろ俺から提案しようと思っていた。週明けの月曜日から期末テスト一週間前となるためこの土日は二人も好きな事をしたいはずだ。


「これからどうする?」


「久々にショッピングがしたい」


「オッケー、そうしようか」


 どうやら玲緒奈と里緒奈はこれからショッピングに行くつもりらしい。二人ならただショッピングをしているだけでも絵になりそうだな。


「楽しんでこいよ」


「あっ、言い忘れてたけど涼也君も一緒だから」


「別に俺は行く必要ないだろ」


「私もお姉ちゃんも涼也を仲間外れにするほど薄情な人間じゃない」


「別に仲間外れとかこれっぽっちも思ってないんだけど」


 せっかくの姉妹二人の時間を邪魔するのは悪いと思って断る俺だったが結局説得されて一緒に行く事になった。気が済むまで付き合うしかないようだ。

 家を出発した俺達はしばらくバスと電車で移動してお台場にある複合商業施設の東京インクルージョンスクエアへとやって来た。


「とりあえず何か食べない? 朝ごはんもまだだしさ」


「そうだな、ちなみにどこかおすすめはあるか?」


「それなら行きたいところがある」


「じゃあ里緒奈の行きたいところにしようよ」


「分かった、そうしよう」


 目的地が決まったため俺達は歩き始める。里緒奈が行きたいというくらいだからお洒落そうな気がするな。そんな事を考えているうちに目的に到着した。


「着いた、早速入ろう」


「へー、中々雰囲気の良いお店だね」


 予想通り見るからにお洒落な雰囲気が漂っており、はっきり言って俺のようなモブキャラBには場違い感しか無い。


「……せっかく連れてきて貰ったのにこんな事を言うのは申し訳ないんだけどさ、ここは辞めて別の場所にしないか?」


「どうして?」


「ほら、周りがカップルだらけでめちゃくちゃ浮きそうだし」


「じゃあ私達も三人でカップルのふりをする?」


 里緒奈に理由を聞かれたため正直に答えるとニヤニヤした表情の玲緒奈が無茶苦茶な事を言い始めた。


「いやいや、三人でカップルって俺が二股かけてるクズ野郎みたいになるじゃん」


「私も里緒奈も純愛だと思ってるけど?」


「だから二股にはならない」


「それはそれでもっとたちが悪いだろ……」


 何とかして二人を諦めさせられないかと思ったがこの様子だと絶対に無理だ。仕方なく店内に入り席に案内されたわけだが中は予想通りカップルだらけだったためもう既に出たい気分になっている。


「ここは私と里緒奈が奢ってあげるよ」


「いや、二人に奢らせるのは流石に気が引けるなら別に大丈夫だ」


 それに女子である奢らせるってなんかクズ男っぽくて嫌だった。むしろお弁当を作って貰ったり勉強を教えてもらったりしている俺が奢るべきではないだろうか。


「命の恩人の涼也にはまだ全然恩を返しきれていない、だから私とお姉ちゃんに奢らせて欲しい」


「女の子にだって格好を付けたい事もあるからさ」


「……分かった、そこまで言うなら奢って貰う事にするよ」


 玲緒奈の格好を付けたいという言葉を聞いて俺は奢って貰う事にした。確かに俺も逆の立場だったら同じ事をしたいと思ったはずだ。


「ありがとう。あっ、一応確認だけど私と里緒奈の頼みたいものを注文しても良いよね?」


「別にここの代金は二人が払うんだから好きなものを注文するのは全然自由だと思うけど」


 自分達が奢って貰う側ならまだしも、逆に奢る側なのになぜわざわざそんな確認を俺にしてきたのか意図がよく分からなかった。

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