第14話 だから私も里緒奈もエッチどころかキスすら未経験なんだよね

「……じゃあ気を取り直して恋バナをしよう」


「分かったよ」


「とりあえず初恋について話してもらおうか、私も里緒奈も気になってるし」


「確かに初恋はあったけどさ、片思いで終わったから何も面白くなんてないぞ」


 初恋について話す事にあまり気乗りしなかった俺はそう口にして何とか回避出来ないか試みる。


「それでも良いから聞きたい」


「涼也君の初恋の相手は具体的にはどんな人だったの?」


 だが玲緒奈と里緒奈は聞く気満々だった。どうやら俺の初恋について根掘り葉掘り聞くつもりらしい。それを聞いて何かメリットでもあるのだろうか。そんな事を思いつつも俺はゆっくりと話し始める。


「初恋は小学生六年生の頃で相手は近所に住んでる幼馴染だったな。しばらく片思いを続けてたけど、中学二年生の時その子に彼氏ができたから何も無く終わった」


 幼馴染と恋に発展するような物語はラノベでもよく見かけるが正直あまり現実的ではないと思う。そんな事を思っていると里緒奈が口を開く。


「初恋が幼馴染ってのは結構あるあるだとは思う、残念ながら結ばれるとは限らないけど」


「確かにそうなんだよな。幼馴染なんて所詮は子供の頃の顔馴染みに過ぎないし、それ以上特別な要素はあんまり無いから」


「うちのパパとママは幼馴染同士で結婚するパターンは本当にレアケースだろうね」


「へー、玲緒奈と里緒奈の両親って幼馴染なのか」


 俺的にはちょっとその話が気になってしまう。ちなみに二人の両親とは入院している時に一度だけあった事が会っていた。

 玲緒奈と里緒奈を助けた事についてめちゃくちゃ感謝された事はよく覚えている。個室に入院できたのも二人の両親のおかげだ。


「涼也君にだけ恋バナをさせるのは不公平だと思うし、今度は私達が話すよ」


「いや、別に俺は聞かなくてもいいけど……」


「遠慮はいらない」


 正直玲緒奈と里緒奈の恋バナについてはあまり聞きたくない。何故なら俺は二人の事を好きになり始めていたからだ。

 俺のような全くモテない低スペック男はちょっと優しくされただけですぐ好きになってしまうため本当に厄介だと思う。

 そんな二人の恋バナを聞くという事は過去の男の話を聞かなければならないため絶対に嫌だった。だが玲緒奈と里緒奈はそんな俺の思いなど知るはずもなく喋り始めてしまう。


「まあ、私と里緒奈も恋バナ出来るほど話すような内容なんてないんだけど」


「……えっ、そうなのか」


「私もお姉ちゃんも彼氏を作った事はない」


 その言葉は完全に予想外だったためかなり驚かされた。てっきり二人ともそれなりに恋愛経験はある方だと思っていたし。


「涼也は意外に思った?」


「ああ、めちゃくちゃびっくりした。玲緒奈も里緒奈も結構告白されてるのは知ってたから」


「だから私も里緒奈もエッチどころかキスすら未経験なんだよね」


 ぶっちゃけ玲緒奈と里緒奈のどちらかは処女ではないと思っていた。それが蓋を開けてみれば二人とも処女だったため驚くなという方が無理に違いない。


「ちなみに何で今まで彼氏を作らなかったんだ?」


「好きになる相手がいなかったからかな」


「好きでもない相手と付き合うのはお互いに時間の無駄」


 どんな大層な理由があるのかと思いきやどうやら純粋に好きになる相手がいなかったらしい。あれだけ告白されまくっていて誰一人恋愛対象にならなかったのか。今まで撃沈した奴らが少し哀れに思えてきた。


「でも私と里緒奈は好きになった相手に対してはめちゃくちゃ一途だから」


「うん、髪の毛の一本すら誰にも渡したくない」


「そ、そうか」


 さらっと激重な発言した里緒奈に俺は少しだけ寒気を覚える。万が一玲緒奈や里緒奈と付き合えたとしても大変かもしれない。まあ、悲しい事にそもそも俺なんかが付き合えるような相手ではないが。


「ちなみに涼也の好きな女の子のタイプは?」


「えっ、まだ続けるのか?」


「当たり前じゃん、本番はこれからだよ」


 それから俺は玲緒奈と里緒奈から根掘り葉掘り好きな女の子のタイプを聞かれ始める。俺が答えるたびに詳細な理由を求められたため取り調べを受けているような気分になった事は言うまでもない。

 結局二時間近く付き合わされるはめになった。果たしてさっきのあれは本当に恋バナと言えるのだろうか。絶対に違う気しかしない。


「もう良い時間だしそろそろ寝ようぜ、澪の部屋を使ってくれて大丈夫だから」


「もうそんな時間なんだ、今日も一日色々あったから疲れちゃった」


「おい、ちょっと待て!?」


 何の躊躇いもなく俺のベッドに寝転ぼうとする玲緒奈と里緒奈に対して俺はそう声をあげた。


「そんなに大きな声を出してどうしたの?」


「どうしたもこうしたも何で二人してナチュラルに俺のベッドへ入ろうとしてるんだよ」


「勿論寝るため」


「……いやいや、それは駄目だろ」


 玲緒奈と里緒奈があまりにも堂々としていたため一瞬自分の感覚が変なのかなと思ったがやはり二人の方がおかしいに違いない。


「ちゃんと涼也も一緒に寝られるスペースは作る」


「だから安心して」


「安心できる要素が一ミリもない件」


 てか、二人とも俺と一緒に寝る気なのかよ。他人のベッドを使おうとする時点で理解できないが、付き合ってすらない男と一緒に寝ようとしている事はもっと理解できなかった。


「じゃあ俺は父さんの部屋で寝る」


「えー、せっかくだから涼也君も一緒に寝ようよ」


「きっと良い夢が見れる」


 玲緒奈と里緒奈は部屋から出て行こうとする俺の手を掴んで引っ張ってくる。どちらか片方だけなら男の俺の方が強いため多分勝てただろうが二人相手は分が悪かった。頑張って抵抗したが力負けしてベッドに引きずり込まれてしまう。


「捕まえた」


「これでもう逃げられないね」


「わ、分かったからあんまりくっつくな」


 玲緒奈と里緒奈に両脇からしっかりと挟まれてしまった俺はあまり身動きが取れない状態になっている。おまけに二人は俺の体に胸を押し当てておりその柔らかさがダイレクトに伝わってきていて下半身的な意味でまずい。


「じゃあおやすみ」


「涼也また明日」


「マジかよ……」


 あっという間にすやすやと眠ってしまった玲緒奈と里緒奈に対して俺は一向に眠れそうになかった。

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