第13話 神に誓って童貞だから

「ラノベならこの後二人が風呂場に乱入とかしてきそうな気がするけどそれは無いか」


 いくら何でも流石にそれはラブコメ展開過ぎるしありえないだろう。湯船に浸かりながらそんな事を考えていると突然脱衣所の方から物音が聞こえてくる。


「まさか……いや、脱衣所に何か取りに来ただけかもしれないし」


 俺が必死に否定材料を探しているのも束の間扉が勢いよく開かれ玲緒奈と里緒奈が浴室に雪崩れ込んできた。一瞬何が起こったか理解できない俺だったが、とんでもない状況になっている事にようやく気付く。


「お、おい。一体何のつもりだよ」


「さっきは色々と申し訳ない事をしちゃったからお詫びに涼也君の背中を流してあげようと思ってさ」


「私達に任せて」


 どうやら勝手に俺の部屋の中を勝手に物色した事については一応悪いと思っているようだ。だが二人はタオルすら巻いておらず水着なども身に付けていない。

 つまり完全に生まれたままの姿であり全てが丸見えだった。言うまでもなく母親以外の女性の裸を生で見るのはこれが初めてだ。

 体の色々な部分が元気になりそうな俺はとりあえず心の中で素数を数えて落ち着く事にする。2、3、5、7、11、13、17……あれ19って素数だっけ?

 数学が苦手な俺が素数で乗り切ろうとするのは無謀だったらしいが一応落ち着いてきたためひとまず目的は達成された。


「それは駄目だから」


「えっ、何が駄目なの?」


「私とお姉ちゃんが理解出来るように具体的に教えて」


 激しく慌てふためく俺に対して玲緒奈はニヤニヤしており里緒奈は相変わらず無表情だったがどこか楽しげに見える。二人とも分かってる癖にわざと聞いて来ているに違いない。

 絶対俺の反応を見て楽しんでいるに決まっている。玲緒奈と里緒奈が想像以上にドSだった事に驚きつつ俺は抵抗を諦めない。


「とにかく出ていってくれ」


「えー、別にいいじゃん」


「涼也は嫌?」


 童貞の俺にはあまりに刺激が強過ぎたため何とか二人を追い出そうとするが、玲緒奈と里緒奈はそんな事を言って中々浴室から出て行こうとしない。


「じゃあ俺が風呂から出る、代わりに玲緒奈と里緒奈が入ってくれて大丈夫だから」


 動こうとしない二人に対して俺が出ていけば全て解決する事に気付いたため早速行動に移る。浴槽から立ち上がって浴室入り口の扉に向かって手を伸ばしてそのまま出ようとする俺だったが当然黙って見逃してくれるはずがなかった。


「あっ、涼也君待ってよ」


「残念ながらここは通行止め」


「ちょっ!?」


 玲緒奈から腕を掴まれた事に驚いた俺は濡れた床に足を滑らせて盛大にバランスを崩してしまう。そのまま二人を巻き込んで一緒に床へと倒れ込んだ。倒れる瞬間思わず目を閉じてしまった俺だが、瞼を開くと目の前にはピンク色と肌色の双丘が広がっていた。

 どうやら玲緒奈の胸と俺の顔がちょうど重なってしまったらしい。さらに右手に柔らかい感触がしたためそちらを見ると俺は里緒奈の胸を鷲掴みにしていた。


「涼也中々大胆」


「このまま三人で大人の階段を登っちゃう?」


「ま、間に合ってるから」


 俺はそのまま逃げるようにして浴室から出る。今の状態だと玲緒奈と里緒奈の顔をまともに直視できる気が全くしない。


「……この後どんな顔して二人に会えっていうんだよ」


 片や胸に顔を埋め片や胸を鷲掴みにしてしまったのだ。普通の神経をしていたらしばらくまともに会話すら出来ないに違いない。そう思っていた俺だが部屋に戻ってきた玲緒奈と里緒奈は何事もなかったかのように話しかけてくる。


「やっぱりお泊まりの日の夜と言ったら恋バナだよね。ってわけだから三人でやろうよ」


「涼也の話、気になる」


「……なあ、さっき風呂場で何があったか二人とも覚えてるか?」


「何って涼也君が私の胸に顔を埋めて、里緒奈の胸を鷲掴みにした事だよね?」


 もしかしたらショックのあまり記憶喪失になってしまったのではないかと一瞬思ったが別にそんな事はなかったらしい。


「覚えてるなら何でそんなに平然としてるんだよ」


「えっ、逆に何かショックを受ける要素なんてあったかな?」


「別に私は無かったと思う」


 うん、こんな事を聞いた俺が馬鹿だった。多分玲緒奈と里緒奈は特殊な感覚を持っている人間なのかもしれない。


「それで恋バナはどうする?」


「せっかくだからやりたい」


「……いやいや、そもそも俺なんかに恋バナを求められても話せる事なんて一つもないぞ」


「童貞で彼女出来た事ない涼也君でも流石に初恋とかはあるでしょ?」


「さらっと酷い事を言うよな、もしかしたら童貞じゃないかもしれないだろ」


 童貞だと断定されて悔しくなった俺は思わずそう口にした。すると二人の顔から表情が一瞬にして抜け落ちる。


「ねえ、一体どこの誰が涼也君の初体験の相手なのかな」


「そこについて詳しく教えて欲しい」


 虚な目をして迫ってくる玲緒奈と里緒奈の姿を見て俺は本気で命の危機を感じた。嘘をついたら殺されるのではないかとすら思い始めている。正直通り魔と対峙した時以上のプレッシャーだ。


「ど、童貞だから」


「その言葉に嘘偽りはない?」


「もし涼也が嘘をついてたら私もお姉ちゃんも何をするか分からない」


「神に誓って童貞だから」


 見栄を張ろうとしたせいで童貞だと二人の前で告白させられるはめになったためふんだりけったりだった。もう背伸びしようとするのは辞めよう。


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全力で旧版から追加修正+加筆をしているため現在22話辺りまでストックがあります。来月中旬までには10万文字である50話辺りまで増やす事を目標にしています。

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