第12話 いやいや、その時点で俺に勝ち目がないだろ……

 それから昼休みも終わり午後の授業がスタートしたわけだが特にトラブルは起きなかった。相変わらず俺に対してひそひそしている奴らもいたがそれは全て無視している。

 玲緒奈と里緒奈に迷惑と思われているかもしれないと思い午前中は少しナーバスになっていたか二人の本心を聞けたため今やダメージはゼロに等しい。

 帰りのホームルームも終わり放課後となった現在、クラスメイト達のテンションはいつもより少し高かった。それもそのはず、今日は金曜日であり明日が土曜日なのだ。

 だからクラスメイト達は放課後やこの土日で何をして遊ぶかという話題で盛り上がっている。

 俺はというと今日の放課後も玲緒奈と里緒奈と一緒に勉強会だ。今日も俺の家で勉強会をするわけだが昨日と違う事がある。


「えー、今日は澪ちゃんいないの」


「ああ、澪は友達の家に泊まりに行くから帰ってこない」


「会いたかった」


 どうやら澪は玲緒奈と里緒奈の心を奪ってしまったらしい。まあ、本当に俺の妹とは思えないくらい可愛いため当然だろう。


「ちなみに父さんも出張で帰ってこないし、母さんも親友に会うために倉敷の実家に帰ってるから今日は俺一人なんだよな」


 いつもは基本的に澪がやってくれていた食事の準備などを自分一人でやらなければならないため少し憂鬱な気分にさせられる。

 だが家に自分一人だけという環境は誰にも邪魔されず自由にできる事も意味しているためそこは楽しみでもあった。


「へー、そうなんだ。それなら今日は涼也君の家でお泊まり勉強会にしない?」


「お姉ちゃんに賛成」


「じゃあ決定で」


 何と玲緒奈と里緒奈は俺の家に泊まるつもりらしい。当然俺は認められないため抗議の声を上げる。


「ちょっと待て、俺は反対だぞ!?」


「えー、でも多数決っていう民主主義的なルールで決定したんだけどな」


「こういう重要な事は多数決じゃなくて全会一致で決めるべきじゃないか?」


「なら、全会一致にするかどうかをまず多数決で決める?」


「いやいや、その時点で俺に勝ち目がないだろ……」


 何とか抵抗を試みる俺だったが結局二人には勝てなかった。最後の抵抗として親は何も言わないのかと聞いてみたが、放任主義のため大丈夫と答えられてそれ以上何も言えなくなった事は言うまでもない。

 ひとまず勉強会はお泊まりの準備をしてからになったため俺達は一旦別れて家に帰る。そして俺は部屋の片付けを始めた。


「とりあえず二人に見られたらまずそうなものは今のうちに全部隠しとかないと」


 泊まりとなると入浴などで俺が部屋をあけるタイミングが出来てしまう。そうなると俺がいない間に部屋の中を見られてしまう可能性も十分考えられる。

 エロ本を見つけられるくらいならまだ全然マシで、万が一オナホールやローションなどを二人に見られたら本当に最悪だ。隠し場所をどこにするか迷う俺だったが結局ベッドの下にした。

 勿論ただ隠す訳ではなく昔買ったゲーム機の空き箱の中に入れて偽装もしている。それにベッドの下は物を隠す定番の場所過ぎて逆に見られないのではないかとすら思う。

 見られたくないものをちょうど全て隠し終わったタイミングで玲緒奈と里緒奈が家にやってきた。二人は大きな旅行バッグを手に持っており完全に準備万端の様子だ。俺達は昨日の続きを始めた。



「マジで疲れた……」


 俺は風呂場で湯船に浸かりながら一日の出来事を思い出してそうつぶやいた。朝から玲緒奈と里緒奈に家まで押しかけられたり、突然泊まりの勉強会が決定したりとにかく色々あったのだ。

 ちなみに風呂に入るまでの間にも事件が起こっており先程までその対応に追われていたりもする。その事件というのは玲緒奈と里緒奈にオナホールとローションを発見された事だ。

 二十時過ぎまで勉強会をしていた俺達はそこで切り上げて夕食を食べる事にしていた。三人で話し合った近所の弁当屋さんでお弁当を注文する事になったわけだが、俺が受け取りで十五分ほど外出したタイミングで事件が起きてしまう。


「何で見つかったのか本当に謎なんだけど」


 お弁当を受け取って部屋に戻るとベッドの下に偽装して隠していたはずのオナホールとローションが机の上に置かれており玲緒奈と里緒奈が腕組みをして待っていた。

 それを見た瞬間、さっと血の気が引いた事は言うまでもない。そしてあろう事か二人はそれを何の目的で具体的にどうやって使っていたのかを細かく追求してきたのだ。

 最初はぼかして説明しようとしたがそれを許してくれなかったため事細かに説明させられるはめになって顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。


「同級生の女子に自分の下半身事情を話すってどんな羞恥プレイだよ……」


 多分生まれてから今までの中で一番恥ずかしかったかもしれない。ご褒美に感じる特殊な人々も世の中にはいるらしいが俺はただただ恥ずかしかったため多分素質はないと思う。

 結局部屋に居づらくなってしまった俺は大急ぎで自分の分を食べ終えそのまま逃げるように風呂場までやってきたというわけだ。

 それにしても通り魔事件に巻き込まれて入院する前からは考えられなかったような事ばかり起きている気がする。まるで自分がラノベの主人公になったような気分だ。

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