第11話 なあ、ひょっとして俺と一緒にいたら迷惑だったりするか……?

 それから一時間目の授業を普通に受けた俺だったが休み時間になった途端玲緒奈が話しかけてくる。それは二時間の休み時間も同様だった。


「……なんかクラスの居心地がめちゃくちゃ悪いんだけど」


 四時間目前の休み時間の現在、俺は教室に居づらくなったため自動販売機のスペースに避難していた。居心地が悪い原因は単純でクラスメイト達からの視線が凄まじいためだ。


「ぶっちゃけ昨日から悪目立ちし過ぎてた時点でこうなりそうな気はしてたけど、実際にその状況になると結構きついな」


 今まで目立たないモブキャラBでしかなかった俺がクラスの陽キャ達を差し置いてアイドル的な存在である玲緒奈と関わっている状況はどう考えても悪目立ちしないはずがなかった。

 俺が玲緒奈や里緒奈と関わるようになったのは通り魔事件がきっかけだが、そんな経緯があった事を知る人間はほとんどいない。だから周りからはある日突然俺が彼女達と仲良くなったように見えているはずだ。


「なんか俺の陰口も周りから聞こえてくるしどうにかならないかな」


 ちなみに俺に対する陰口を叩いている層は言い方は悪いがあまりパッとしない男子達が中心だった。多分自分よりも下だと思っていた俺がクラスのアイドルである玲緒奈と仲良くしている事が気に食わないのだろう。

 そういう意味では陽キャ達はある意味優しかった。まあ、単純に俺の事など視界にすら入っていない可能性もあるが。

 そんな事を考えながら俺は四時間目が始まるギリギリまで待ってから教室に戻る。教室に入った瞬間誰かが俺に対して剣城さんに付き纏って迷惑をかけるなという言葉を掛けてきた。

 なるほど他人からはそういうふうに見えてしまっているのか。それから四時間目の授業も終わり昼休みに突入したわけだが俺の心はモヤモヤしたままだ。


「なあ、ひょっとして俺と一緒にいたら迷惑だったりするか……?」


 昨日と同じようにベストプレイスに押しかけてきた二人に対して俺はそう尋ねた。すると玲緒奈と里緒奈は驚いたような表情になって口を開く。


「えっ、急にどうしたの?」


「涼也、何かあった?」


「いや、もしかしたら二人からそう思われてるんじゃないかと思ってさ」


 玲緒奈と里緒奈から理由を聞かれた俺はそう答えた。四時間目が始まる前にかけられた誰かの言葉がいまだに引っかかっていたのだ。すると二人の顔からすっと表情が消え失せる。


「私と里緒奈が迷惑してる? そんな事あるはずないじゃん、だって私達姉妹を命懸けで守ってくれた救世主なんだから。私も里緒奈も涼也君と一緒に居たいからこうやって過ごしているんだし、迷惑に感じる要素なんてはっきり言ってゼロだよ。むしろ私達が迷惑かけてるんじゃ無いかって心配なくらい。それと涼也君は自分が思ってるよりも魅力的な男の子なんだからもっと自信を持っても良いと思う、そしたら迷惑かけてるなんて考えにはならないと思うし……」


「一緒にいて迷惑なんて思うはずがない、私もお姉ちゃんも涼也の事を心の底から信頼してるんだから。命を救ってくれた涼也に迷惑なんて思う方が絶対おかしい、あんまり自覚は無いかもしれないけど涼也はそれだけすごい事をしたんだよ。もしあの時涼也がいなかったら私達姉妹は今頃死んでたかもしれないし、はっきり言って感謝してもしきれないくらい。これから一生かけてお姉ちゃんと一緒に恩を返していくつもりだから、覚悟しておいてよね……」


 玲緒奈と里緒奈はめちゃくちゃ早口でそんな事を話し始めた。その姿はちょっと、いやかなり怖かったがそれと同時にそこまで俺の事を信頼してくれているんだと分かって安心した気持ちにもなっている。


「……オッケー、二人の気持ちはよく分かった。やっぱり俺の勘違いだったみたいだ」


 先程の言葉は二人の本心としか思えなかった。もしあれが本心ではなかったとしたらきっと玲緒奈と里緒奈は天才詐欺師になれるに違いない。


「じゃあ一件落着って事でお昼にしようか」


「今日も朝からお姉ちゃんと二人で一生懸命作った」


「ありがとう、今日も美味しそうだな」


 玲緒奈と里緒奈のお弁当を食べるのはこれで二回目になるがもう既に楽しみで仕方がなかった。恐らく俺は二人に胃袋を掴まれかけているのかもしれない。

 ちなみに今日のお弁当はウィンナーとゆで卵、生姜焼き、ミニトマト、白米という中身だった。ウィンナーにかかっていたケチャップからは鉄のような変わった味がしたものの、それ以外はめちゃくちゃ美味しかったため箸がどんどん進んだ事は言うまでも無い。

 それから昼休みも終わり午後の授業がスタートしたわけだが特にトラブルは起きなかった。相変わらず俺に対してひそひそしている奴らもいたがそれは全て無視している。

 玲緒奈と里緒奈に迷惑と思われているかもしれないと思い午前中は少しナーバスになっていたか二人の本心を聞けたため今やダメージはゼロに等しい。

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