第10話 大丈夫、涼也には私がついてる

「……もう朝か」


 部屋中に鳴り響く大音量のアラーム音で目を覚ました俺はゆっくりとベッドから起き上がる。朝にめちゃくちゃ弱いためいつもこの時間は本当に憂鬱だ。

 寝癖を直してパジャマから制服に着替えた俺はダイニングへと移動してテーブルの上に用意されていた朝食を食べ始めた。

 それと同時にソシャゲのアプリを開きログインボーナスを受け取ってから適当なダンジョンを周回し始める。寝ていた間に全回復したスタミナを消費するのが毎朝のルーティンだ。

 いつも朝からこんな事をしているせいでいつも学校に着くのがギリギリになってしまっているわけだが、どうせ早く行っても雑談する友達なんていないため別に良かった。

 ちなみに父さんや母さん、澪は既に家を出てそれぞれ職場や学校に行っているためこの時間帯まで家にいるのは俺だけだ。


「へー、やっぱり今年も水着ガチャやるのか。そう言えば夏休みが近いもんな」


 ダンジョン周回後に運営からのお知らせを見て俺は夏休みが近い事を思い出した。きっとリア充達は楽しい夏休みを過ごすに違いないが、俺のようなぼっちにとっては長い土日くらいの感覚しかない。

 実際に去年の夏休みは基本的に普段の土日と変わらないような事しかしておらず、夏休みらしいイベントなんてほとんど無かった。

 強いて言えばお盆の時期に岡山県倉敷市にあるおばあちゃんの家に家族四人で行った事と澪に誘われて近所の夏祭りに行った事くらいだ。

 勿論俺も友達と海や山で遊んだり彼女と花火大会に行ったりするような夏休みに憧れはある。だが残念ながらぼっちな俺には縁のない話だ。

 そういうSNS映えするきらびやかな夏休みを過ごせるのは玲緒奈や里緒奈のような一部の特権階級だけに違いない。


「どうせ今年の夏休みも去年とそんなに変わらないだろうし、多分適当に課題をやりながらラノベを読んでソシャゲの周回でもして過ごすんだろうな」


 そんなネガティブ発言をしていると突然玄関から鍵を回す音が聞こえてくる。もしかして澪が何か忘れ物でもして取りに帰ってきたのだろうか。

 いや、それなら俺に持って来て欲しいと言いそうな気がするし。そんな事を考えているとダイニングの扉が開き玲緒奈と里緒奈が入ってくる。


「涼也おはよう」


「迎えにきてあげたよ」


「おい、ちょっと待て。何でうちの鍵を持ってるんだよ!?」


「それは昨日帰る間際に涼也のママが合鍵を渡してくれた」


「うん、涼也君を朝迎えに行きたいって言ったらどうぞって」


「……おいおい、母さんも数回しか会った事がない相手をよくそこまで信用できるな」


 母さんがチョロ過ぎるのか玲緒奈と里緒奈が凄いのかは分からないが、とにかくこれで二人は俺の家への出入りが自由自在になってしまった。

 それから俺達は三人で並んで歩いて学校へと向かい始める。流石に家まで迎えに来てもらっておいて悪目立ちするのが嫌だから別々に通学したいとは言えなかった。


「それにしてもマジでちょうどいいタイミングで俺の家に来たよな、もう少し遅かったらもう家にはいなかったしさ」


「……そこは女の勘って奴かな」


「うん、たまたま……」


 俺の言葉を聞いた二人はほんの一瞬だけばつが悪そうな表情を浮かべて黙り込んだがすぐにそう答えてくれた。その様子を見て俺は何か違和感を覚える。だが結構眠かった事もあってあまり深くは考えなかった。


「涼也って前の中間テスト順位はどのくらいだった?」


「えー、言うのはちょっと恥ずかしいんだけど」


「昨日私も答えてあげたんだから涼也君も教えてよ」


 玲緒奈に聞いた手前自分だけが答えないのは流石に卑怯だろう。仕方なく俺は恥ずかしさを必死に我慢して小声で答える。


「……百八十位くらい」


「ふーん、涼也君って真面目そうに見えるのに順位は意外と低いんだ」


「だから言いたくなかったんだよ」


 第一印象が真面目だとよく言われるのに成績があまりよくないと知られるといつもこんな感じの反応をされるのだ。

 まあ、天木高校自体がそれなりにレベルの高い高校のため全国模試の偏差値では五十を下回った事など一度もないが、学内の偏差値に換算すると何とも言えない結果が多かった。


「大丈夫、涼也には私がついてる」


「うん、里緒奈がいれば学年トップだって目指せるから」

「それは頼もしいな」


 そんな話をして盛り上がっているうちに気付けば学校の校門が見え始める。学校の近くという事もあって周りには俺達と同じように登校する生徒の姿が多く見られた。

 そして昨日同様多くの視線を向けられている。これは言うまでもなく玲緒奈と里緒奈と一緒にいるからだ。何であんな奴が隣にいるんだという視線を向けられておりめちゃくちゃ居心地が悪かった。


「……ごめん、ちょっとトイレ我慢できそうにないから先に行くわ」


 プレッシャーに耐えらなくなった俺は一方的にそう言い残すと靴箱に向かって全力疾走する。そして一時間目開始のチャイムがなる直前までトイレで時間をつぶした。

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