第9話 あっ、もしかして私と里緒奈をどこかに連れ込んでエッチな事をする気?

 俺は里緒奈の用意した小テストの問題を解き始める。ちなみに玲緒奈も俺と一緒に勉強を教えて貰うらしく、同じ問題を隣で解いていた。一時間かけて全ての問題を解き終わった俺と玲緒奈は小テストを里緒奈に手渡す。


「涼也君、手応えはどう?」


「分かってたけど全然駄目だな。ちなみに玲緒奈は?」


「私は英語以外微妙かな」


 口ぶり的に玲緒奈は里緒奈とは違いあまり勉強が得意ではないようだが絶対に俺よりは成績が良いに違いない。それから少しして里緒奈の採点が終わったようで小テストを返却される。


「うわっ、こうなる事は分かってたけどやっぱり酷い結果だな……」


 採点結果を見ると七割以上が不正解であり、はっきり言ってボロボロだった。そして予想していた通り数学と物理の結果が特に酷く、その二つに関しては正答率が一割を切る始末だ。


「私も思ったよりできてなかった」


「……いやいや、俺とは比べ物にならないくらいできてるじゃん」


「個人的にはもっと解けると思ってたんだよね」


 玲緒奈の答案を見ると八割近く正解していた。てっきりもっと悪い結果だと勝手に思っていたがこの出来ならむしろ勉強が得意な側だろう。


「ちなみに玲緒奈ってこの前の中間テストは何位くらいだったんだ?」


「えっと……確か三十位くらいかな」


「いやいや、全然勉強苦手じゃないじゃん」


「里緒奈と比べると苦手ってだけだから」


「学年一位と比べたら皆んな苦手になるだろ」


 俺達の学年が三百人くらいという事を考えると三十位という順位は上位層だ。騙された気分になっていた俺だったが里緒奈基準で考えると確かに苦手とは言えるため一応納得はした。


「涼也は理系科目が苦手みたいだし、今日はそれを中心にやろう」


「分かった、お手柔らかに頼む」


「私もそれで大丈夫」


 俺と玲緒奈の言葉を聞いた里緒奈はカバンから数学と物理の教科書を取り出して問題の解説を始める。めちゃくちゃ丁寧に教えてくれたためかなり分かりやすかった。



「もう遅くなってきたし、今日はそろそろ終わりにしよう」


「もうこんな時間か」


「集中するとあっという間だったね」


 里緒奈の言葉を聞いてかなり長い時間が経過していた事に俺と玲緒奈はようやく気付いた。多分それだけ勉強に集中していたのだろう。


「もう外も暗くなり始めてるし家まで送っていくよ」


「涼也ってそんな事はしないイメージがあったけど、その辺はちゃんとしてくれるんだ」


「あっ、もしかして私と里緒奈をどこかに連れ込んでエッチな事をする気?」


「おい、勝手に俺を送り狼にするな」


 ニヤニヤしていた玲緒奈に対して俺はそう突っ込みをいれた。言うまでもなく俺のようなビビりが女の子に手を出せるはずなんてない。そんなやり取りをしながら部屋を出て玄関に向かっているとエプロン姿の澪から呼び止められる。


「もし玲緒奈先輩と里緒奈先輩が嫌じゃなければ一緒に晩御飯どうですか?」


「えっ、良いの?」


「はい、元々結構多めに作っているので」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらう」


 そのまま四人でダイニングに入るとカレーの良い匂いが漂ってきた。ちなみにうちの家庭は両親が共働きのため料理関係は全て澪が担当しており、その他の家事は俺がやっている。そういう理由もあって俺と澪は部活に入っていない。

「今日はカレーライスか」


「そうそう、最初はクリームシチューを作ろうと思ってたんだけどルーがなかったからカレーライスになったんだ」


「美味しそうな匂いだね」


「楽しみ」


 それから俺と澪は協力してカレーライスと付け合わせのサラダを準備する。玲緒奈と里緒奈も手伝おうとしてくれたがお客様なので座って貰っていた。


「母さんはまだ帰って来てないのか?」


「うん、多分もう少ししたら帰ってくると思うから先に食べてようよ」


「涼也君のママが帰ってきたら挨拶しなくちゃ」


「前はあまり話せなかったから涼也のママと今度こそゆっくり話したい」


 そう言えば以前二人は俺の入院している病院を家族に教えて貰ったと言っていたな。多分その時に母さんと話したのだろう。盛り付けが終わり席についた俺達は全員でカレーライスを食べ始める。


「部屋に三人だけでしたけど玲緒奈先輩と里緒奈先輩にお兄ちゃんが変な事しませんでした?」


「残念ながら涼也君は何もしてこなかったんだよね」


「指一本触れてこなかった」


「まあ、お兄ちゃんは昔からヘタレですし」


「……何で責められてるのか一ミリも理解出来ないんだけど」


 むしろ美少女二人を前にして何もしなかった事を褒められるべきとすら思うのだが。その後も四人でわいわい盛り上がっていると玄関の方から物音が聞こえてきた。多分母さんが仕事から帰ってきたに違いない。


「ただいま。あら、あなた達って確か……」


「涼也君に命を助けてもらった剣城玲緒奈と里緒奈です、その節はお世話になりました」


「今日は涼也にあの時のお礼をするために来ました」


「あらあらそうだったのね」


 玲緒奈と里緒奈は母さんと喋り始める。しばらく母さんと話しているうちに玲緒奈と里緒奈はすっかり気に入られてしまったらしい。

 流石スクールカーストの頂点に君臨しているだけあって二人とも他人の心を掴むのが非常に上手かった。ぼっちの俺としてはその辺りを見習わなければならない気がする。


「玲緒奈ちゃんか里緒奈ちゃんが涼也のお嫁さんになってくれたら助かるんだけどね」


「お母さん、残念だけどそれは無理だと思うよ。お兄ちゃんなんかじゃ玲緒奈先輩と里緒奈先輩には絶対釣り合わないから」


「おい、あんまり現実を直視させるな。めちゃくちゃ悲しくなるだろ」


「だって事実だもん」


 結局一時間ほど盛り上がった後に今度こそ玲緒奈と里緒奈は帰る事になった。勿論夜道を二人だけで帰らせるわけには行かなかったため俺が家まで同行している。


「今日は楽しかったね」


「一日で色々あり過ぎて疲れたけど確かに楽しかった気はする」


「勉強会は明日もするから涼也もお姉ちゃんもそのつもりで」


「ああ、分かった」


「うん、明日も頑張ろう」


 こうして朝から色々なイベントがあった退院一日目は無事に終わりを迎えた。

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