第8話 妹は無理かもしれないですけどお兄ちゃんと結婚してくれたら義妹にはなれますよ

 それから俺達は教室を出て靴箱で上履きから靴に履き替えると家に帰り始める。朝と同様周りからの視線が相変わらず凄まじかっため俺は全く落ち着かなかった。


「ところで涼也は何に悩んでたの?」


「二週間近く休んだせいで授業の内容が全く分からなくてさ」


「やっぱりそうなるよね、物理とか数学の授業中も頭抱えてたし」


「えっ、何で知ってるんだ?」


「だって授業中ずっと涼也君を見てたから」


「いやいや、ちゃんと授業を受けろよ」


 玲緒奈からずっと見られてたって想像しただけで中々ホラーなんだが。


「とにかく今のままだと夏休みに補習を受けないといけなくなるから何とかしたいんだけど良い方法が何も思いつかなくてさ」


「なら私が涼也に勉強を教えてあげる、それなら赤点くらい回避できる」


「えっ!?」


 里緒奈の口から飛び出した突然の提案に俺は驚く。自分のテスト勉強もあるというのに果たして俺に教える余裕なんて里緒奈にあるのだろうか。そんな事を思っていると玲緒奈が得意げな顔で話し始める。


「里緒奈はうちの学校に入学してからずっと一位だしピッタリだと思うな、私も英語以外はあまり得意じゃないからよく教えて貰ってるし」


「だから涼也に勉強を教えるくらい朝飯前」


 俺は里緒奈に対して頭が良いインテリキャラなイメージを勝手に持っていたが、どうやらそれは間違っていなかったらしい。


「だから私に任せて」


「……本当に良いのか?」


「うん、涼也の力になりたい」


 俺が改めてそう尋ねると里緒奈はそう答えてくれた。そんなやり取りの様子を横から見ていた玲緒奈が嬉しそうな顔で口を開く。


「よし、決まりだね。テスト本番までもうあんまり時間が無いし、早速今日から始めよう」


「えっ、今日から!?」


「善は急げって事で」


「じゃあこのまま涼也の家に行こう」


 いくら何でも急すぎるが里緒奈がやる気満々になっている様子を見て断る事なんて俺には無理だ。しばらく三人で歩き続けて俺の家の前に到着した。


「ただいま」


「お兄ちゃん、おか……えっ!?」


 家に帰ると先に帰っていたらしい澪から出迎えられたわけだが俺の後ろにいた二人を見てめちゃくちゃ驚いたような表情になって動きを止める。


「こんにちは、ちょっと涼也君を借りるね」


「お邪魔します」


「ごめん、突然なんだけど今日はお客さんがいるんだ」


「……お兄ちゃん、ちょっとこっちに来て」


 再起動した澪に手を引っ張られて俺はダイニングへと連れて行かれる。


「天木高校のアイドル双子姉妹を家に連れてくるって急にどうしたのよ!?」


「いやっ、二人がどうしても来たいって言うから」


「お兄ちゃんが通り魔から玲緒奈先輩と里緒奈先輩を助けたって話は聞いてたけどさ、家に来たがるなんてちょっと信じられないんだけど」


「ぶっちゃけ俺が一番信じられない、とりあえずあんまり二人を放置しても悪いから戻るぞ」


 澪はまだ何か言いたげだったがひとまず玲緒奈と里緒奈を残してきた玄関に戻る事にした。


「二人とも待たせて悪い」


「大丈夫だよ、突然家に来たのは私と里緒奈だし。それより澪ちゃんにはまだ自己紹介してなかったよね? 涼也君のクラスメイトの剣城玲緒奈です、よろしくね」


「私は里緒奈、よろしく」


「お、お兄ちゃんの妹の八神澪です、よろしくお願いします」


 澪はかなり緊張している様子だ。ちなみに澪は天木高校の中等部である天木中学校に通っているが、剣城姉妹はそこでも有名らしい。だから二人に憧れを持っている生徒もかなり多く実は澪もその一人だ。


「澪ちゃんってめちゃくちゃ可愛いね」


「うん、涼也の妹とは思えない」


「私達の妹になって欲しいくらいだよ」


 玲緒奈と里緒奈は澪を気に入ったらしくそんな言葉を口にしていた。澪は嬉しかったようで表情がかなり緩んでいる。


「勝手に人の妹を盗るな」


「妹は無理かもしれないですけどお兄ちゃんと結婚してくれたら義妹にはなれますよ」


「なるほど、それは名案」


「よし、じゃあ今から役所に婚姻届を取りに行こうか。私か里緒奈の名前を書いてくれたらすぐ出しにいくし」


 三人は好き勝手に話しまくっており俺は頭が痛くなってきた。そもそも俺達の年齢的だとまだ結婚なんて出来ないだろ。

 てか、そんな理由で結婚を決めて本当に良いのか。色々と突っ込みどころが盛りだくさんだったが疲れそうだったので何も言わなかった。


「良い感じに澪ちゃんとも打ち解けられたし、そろそろ本題の勉強に入ろうか」


「あっ、そこはちゃんと覚えててくれたんだな」


「勿論、私もお姉ちゃんも今日はそのために来たから」


 ひとまず俺の部屋に移動をして二人を中に招き入れる。女子が見慣れた自分の部屋の中にいるのは違和感が凄まじい。


「……女子を部屋にあげるのは生まれて初めてだからちょっと落ち着かないな」


「へー、そうなんだ。じゃあ私達がまた涼也君の初めてを貰っちゃったんだね」


「この調子で涼也の初めては全部私とお姉ちゃんのものにする」


 俺なんかの初めてを奪ったところで別に大した価値なんてないとしか思えないのだが。そんな事を思っていると里緒奈がリュックサックの中から何かを取り出す。


「涼也の今のレベルを確認したいからこれを解いて欲しい、二年生に入ってから習った範囲を五教科からピックアップした自作の小テストだから」


「えっ、何でそんなものがもう準備されてるんだ!?」


 そもそも今日の勉強の話は放課後に決まりそのまま俺の家に直行したため、どう考えても準備する時間なんてなかったはずだが。


「これは元々勉強が苦手なクラスメイト用に作ったもの、それをたまたま持ってた」


「なるほど、そういう事か」


「里緒奈は学年一位だからよく勉強を教えて欲しいって皆んなから頼まれてるんだよ」


「とりあえずこれを一時間で解いてみて」


「分かった」


———————————————————


旧版を読んでいた方なら既にお気付きとは思いますが、澪の設定が大幅に変わっています

ブラコン属性が消えて高校1年生から中学2年生になりました


変更理由としては中途半端な立ち位置で扱いに困った事と、旧版で当初想定していたエンディングだと澪は賛否両論ありそうな結末を迎える予定だったため思い切って変えました


そのため旧版では玲緒奈と里緒奈に対して向けていた敵意はなくなり逆に憧れの対象に変化しています、その影響で夏休みのエピソードが旧版と変わります

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