第6話 それは我が家に伝わる秘伝の味だから秘密って事で

 その後は特に何事もなく一時間目から四時間目までを過ごした。ようやく午前中の授業が終わり昼休みの時間になっていた。

 久々の授業だったせいかめちゃくちゃ疲れてしまったため三時間目くらいから昼休みが待ち遠しかった事は言うまでも無い。


「とりあえずいつもの場所に行くか」


 俺はぼっちのため当然一緒に食べる相手なんていない。だから昼休みの時間は基本的に教室の外で過ごすようにしている。最初は堂々と教室でぼっち飯をしていたが哀れみの視線を向けられ過ぎて耐えられなくなった。

 朝コンビニで買ったパンとジュースを持って席から立ち上りそのまま中庭へと向かう。中庭で昼食をとってから図書館でラノベを読んで時間を潰すというのがいつもの流れと言える。


「やっぱり落ち着くな」


 ここは景色が綺麗な割に人があまりいない穴場的なスポットだ。昔よく読んでいた某青春ラブコメが間違っている系ラノベ主人公の言葉を借りるなら、ここは俺にとってベストプレイスに違いない。

 段差に腰掛けた俺がパンの袋を開けようとしていると、誰かの足音がゆっくりとこちらに近付いてくる。顔を上げるとそこには手に弁当箱と箸の入った袋を持った里緒奈が立っていた。


「涼也、こんなところで何やってるの?」


「誰かと思ったら里緒奈か、見ての通りぼっち飯だよ」


「そっか、涼也はぼっちだから一緒に食べる相手もいないんだ」


「だからナチュラルに俺のメンタルに会心の一撃……いや、痛恨の一撃を放ってくるのは辞めろ」


 そもそもなぜこんなところに里緒奈がいるのだろうか。もしかして偶然通りかかっただけの可能性も十分考えられる。そんな事を思っていると里緒奈は俺の隣に腰掛けてきた。


「……えっと、里緒奈さんは何してるのかな?」


「私もここでお昼ごはん食べる事にした」


「いやいや、里緒奈は一緒に食べる相手くらいクラスにたくさんいるだろ」


 里緒奈のクラスでの立ち位置はよく知らないが多分玲緒奈と同じく上位カーストに所属しているはずだ。だから俺なんかと昼食をともにするメリットなんて全く無い。

 いや、むしろ俺というスクールカーストがぶっちぎりで最底辺の人間と一緒にいる姿なんて誰かに見られたらマイナスまである。


「もう決めたから、それにもうすぐお姉ちゃんも来る」


「えっ、玲緒奈も来るのか!?」


「うん、もうこっちに向かってる」


 里緒奈はスマホを操作しながらそんな事を口にした。確か玲緒奈はいつもクラスのグループメンバー達と食べていたはずだがそれを抜けて来ても大丈夫なのだろうか。

 まあ、クラスの女王様と言える玲緒奈の決定に逆らうやつがいるとは思えないが。そんな事を考えているうちに玲緒奈が到着した。


「二人ともお待たせ。じゃあ早速食べようか」


「なあ、玲緒奈も里緒奈もマジでここで食べる気?」


「うん、勿論だよ」


「もう決定事項」


 俺の言葉を聞いた玲緒奈はニコニコしており里緒奈は相変わらずクールな表情を浮かべている。うん、多分二人に対してこれ以上何を言っても無駄だわ。

 まあ、ここなら人通りが少ないため見られる心配もあまり無いから良いか。俺が気を取り直してパンの袋を開けようとしていると玲緒奈から止められる。


「あっ、涼也君の分のお弁当も作ってきてるあげてるからそのパンは食べなくてもいいよ」


「えっ!?」


「私とお姉ちゃんで一生懸命作った」


 俺はてっきり偶然ここを通りかかった里緒奈が完全なる思いつきで玲緒奈を呼び出して一緒に昼食を取るという流れになったのだと思っていた。だがそれなら俺の分のお弁当が初めから用意されているというのは明らかにおかしい。

 最初から俺と一緒に昼休みを過ごす気だったとしか思えないのだ。そもそも俺がここで昼食を取っている事は誰にも話した事が無かったはずなのになぜこの場所が分かったのだろうか。どれだけ考えても答えは出そうに無くむしろ謎が深まるばかりだった。


「そんなに驚くくらい嬉しかったのかな? まあとにかく食べてみてよ」


「美味しさは保証する」


「……ありがとう」


 気になる事は色々とあったが俺はひとまず玲緒奈から弁当箱を受け取る。そして蓋を開けると中身はハンバーグと卵焼き、唐揚げ、ブロッコリー、白米が目に飛び込んできた。シンプル内容のお弁当だったがめちゃくちゃ美味しそうだ。とりあえず俺は卵焼きを一口食べる。


「めちゃくちゃ美味しい」


「でしょ、私達の自信作なんだから」


「お姉ちゃんと一緒に朝から頑張って作った」


 見た目に関してはなんの変哲もない卵焼きだったが、なんと味はびっくりするくらい美味しかったのだ。ちなみに玲緒奈と里緒奈のお弁当箱の中にも同じおかずが入っていた。俺は次々と他のおかずにも箸を伸ばしていく。


「うん、どれもこれも全部美味しい……ただハンバーグのケチャップだけはちょっと変わった味がする気がするのはどうしてだ?」


「ああ、ケチャップには追加で隠し味を入れてるからね。もしかしたら口に合わなかったのかも」


「そこはごめん」


「ちなみに隠し味って?」


「それは我が家に伝わる秘伝の味だから秘密って事で」


 まるで鉄のような味がしたため隠し味が気になった俺だったが二人とも頑なに教えてくれなかった。一応愛が関係しているというヒントだけは教えてもらえたが余計に分からなくなったためひとまず考えるのは辞めよう。

 三人で雑談しているうちにあっという間に完食してしまった。俺は箸と弁当箱を洗って返すつもりだったので一旦預かろうとする。


「あっ、箸と弁当箱は私と里緒奈が責任を持ってちゃんと洗うから涼也君はわざわざ気を使わなくもいいよ」


「作って貰った上に洗い物までさせるってめちゃくちゃ申し訳ないんだけど」


「いい、私達がやるから」


「そこまで言うならお言葉に甘えさせて貰うよ」


 なぜ二人がそこまでやってくれるのかは分からないがこれ以上追求したとしても無意味な気がしたため辞めておいた。

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