第3話 だからもし君が死んでたら私もお姉ちゃんも自分を許せなくなってた

 剣城姉妹を庇ってナイフで刺されてから数日が経過していた。本気で死ぬかもしれないと思っていた俺だったが運が良い事に命に別状はなかったらしい。


「まあ、通り魔にエンカウントした挙句刺された時点で運なんて全く良くないけど」


 ちなみに臓器を傷つけられていたら死んでいた可能性も十分あったと聞かされた時は本当にぞっとした。ちなみに犯人は違法薬物の中毒者だったらしい。だから様子がおかしかったのだろう。


「……それにしても暇だな」


 念の為にしばらく入院させられる事になった俺だが基本的に病室で過ごす必要があるためとにかく退屈だった。おまけにぼっちのため会いに来てくれるような友達もいない。

 面会に来てくれそうなのは父さんと母さん、三歳歳下の妹であるみおくらいだ。そんな事を考えながらベッドの上でラノベを読んでいると、突然扉をコンコンとノックされる。


「どうぞ」


 俺は来訪者が看護師だと思っていたため部屋の中に入ってきた二人組を見て驚く。なんと俺の病室にやって来たのは剣城姉妹だったのだ。


「突然二人で押しかけちゃってごめんね。どうしても私と里緒奈から八神君に直接お礼が言いたくてさ」


「君のおかげで助かった、あの時は助けてくれて本当にありがとう」


「わざわざお見舞いに来てくれたのか、とりあえず二人が無事で良かったよ」


 二人から感謝の言葉をストレートに伝えられて照れてしまった俺は顔を緩ませながら話し始める。こんな美少女がお見舞いに来て喜ばない男なんているはずがない。


「八神君の方こそ元気そうで安心したよ、ずっと心配してたんだから」


「私もお姉ちゃんも気が気じゃなかった」


「まあ、自分が原因で同級生が死んだら絶対寝覚めが悪いもんな」


「だからもし君が死んでたら私もお姉ちゃんも自分を許せなくなってた」


 そう口にした瞬間二人の体から何かドロッとしたようなものが出ているような錯覚に陥ったが多分気のせいだろう。とにかく俺は彼女達からめちゃくちゃ心配されていたらしい。


「しばらく様子見で入院だけど見ての通りピンピンしてるし、特に障害が残るような事も無いらしいからそこは心配しないでくれ」


「そっか、それなら大丈夫そうだね」


「私達のせいで君が苦しむのは嫌だったから」


 俺の言葉を聞いた二人は明らかに安心したような顔になった。やはり俺の容態についてはかなり気にしてくれていたようだ。


「よく俺の入院してる病院が分かったな」


「ああ、それは八神君の家族に教えてもらったんだよね」


「直接お礼を言いたいってお願いした」


「なるほど」


 それから俺達は三人で雑談を始める。剣城さん達とはクラスメイトである姉の方とも今までほとんど話した事が無かったため最初はかなり緊張していたが、二人の雰囲気のおかげで気付けば自然体で話せるようになっていた。


「面会時間も終わりだから私達はそろそろ失礼するね」


「……もうそんな時間か」


 面会時間は三十分までだが俺の体感的には五分くらいだったような気がする。多分それだけ楽しかったということだろう。残念ながら二人とは今後はもう話す事なんてまず無いと思うため結構名残惜しかった。

 だが剣城姉妹は俺のようなモブキャラBなんかとは本来まともに話す事がないような相手に違いない。だから今回の件は宝くじにでも当たったと思う事にしよう。そんな事を考えていると妹の方が手を伸ばしてくる。


「ねえ、ちょっとだけスマホ貸して?」


「別に良いけど一体何に使うんだ……?」


「君のスマホに私とお姉ちゃんの連絡先を登録したい」


「えっ!?」


 完全に予想外のお願いだったため俺はここが病室の中という事も忘れて思わず声を上げてしまった。ここが個室ではなかったら周りから睨まれていたに違いない。

 どうやら人生初の女子との連絡先交換という、下手したら二度と起こらないかもしれないと思っていたイベントが発生しようとしているようだ。


「……八神君、もしかして嫌だった?」


「嫌じゃないなら私とお姉ちゃんを追加したい」


「そ、そんな事はないぞ。ほら、遠慮なく登録してくれ」


「ありがとう」


 元々断るつもりなんてなかったが悲しそうな表情を浮かべた二人を見て激しい罪悪感を覚えた俺は画面のロックを解除して剣城姉妹の妹にスマホを手渡す。すると凄まじい速さで俺のスマホを操作し始める。


「はい、電話番号とLIMEに私とお姉ちゃんを友達登録をしたから」


 返却されたスマホを見ると確かに電話帳アプリとチャットアプリであるLIMEの友達に剣城玲緒奈と剣城里緒奈が登録されていた。


「ありがとう、女子と連絡先を交換するのは生まれて初めてだからちょっと嬉しい」


「へー、私と里緒奈が初めてなんだ」


「君の初めてを奪っちゃった」


 先程までとは打って変わって二人は嬉しそうな表情を浮かべていた。一瞬だけ興奮したような顔にも見えたが多分気のせいだろう。てか連絡先を交換してくれたって事は今後も関わってくるつもりなのかもしれない。


「また明日も学校が終わったら面会に来るから楽しみにしておいて」


「また明日」


 二人はそう言い残すと俺の病室から出て行った。俺はしばらく現実を認識できず固まっていたがようやく状況を読み込み始める。


「女子と連絡先の交換って都市伝説じゃなかったんだ」


 今まで俺のスマホの中に女性の連絡先は母さんと妹の澪しか無かったわけだが、今回剣城姉妹という超絶美少女二人が新たに追加された。

 あまりにも非現実的すぎて夢ではないかと疑い始める俺だったが頬をつねったところちゃんと痛かったため少なくてもそれは違うようだ。

 俺はウキウキなテンションのまま読みかけだったラノベを手に取る。今の俺を周りから見たら相当ご機嫌な様子に見えるだろう。しばらくラノベを読み続ける俺だったスマホの通知音で画面を見た瞬間違和感を覚える。


「あれ、スマホの充電がもうこんなに減ってるんだけど……」


 九十パーセント以上あったはずの充電が気付けば五十パーセントほどまで減っていたのだ。先程連絡先の交換して以降は一度もスマホを触ってないはずなのになぜここまで急激に減っているのだろうか。


「このスマホも使い始めてから結構長いしバッテリーが劣化してきてるのかもな。そろそろ機種変更した方がいいか」


 色々考えた結果、他に理由が思い浮かばなかったためひとまず俺はそう結論付けた。

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