第10話 野球観戦

「ねえ、みんな。みんな忙しいからたぶん無理かもしれないけど、野球行かない? 実はチケットがたくさん余っていて。人数分はあると思うんだけど」



 それはゴールデンウィークに入る前日の部活動のことであった。化神が各々思い思い過ごしている部活動のメンバーに、提案するように話しかけたのが始まりだった。俺はすぐに反応した。だって化神からのお誘いだもんな。



「野球! プロ野球か! いく! はーい! 行きまーす!」


「千木野くん、すごい食いつき……。ゴールデンウィークだけど大丈夫?」


「ああ、休みの日はテレビかラジオでの野球観戦が趣味なんだ。球場に見に行けるなんて、そんなありがたいことはない!」


「はーい、はーい、俺も俺も、俺も行きたい行きたいと言っていたら足の関節技決められてそのままノックダウン!! ダウン!! また暴力! 暴力反対!」


「なんでお前まで行くんだよ! 化神との初デートが台無しじゃないか! ふんぬ!」


「あはは……僕、男の子なんだけどな」


「ねえ、それ、私たちも行ってもいいですか?」


「もちろんだよ、知花さん。予定が合えばだけど、今度の土曜日だよ」


「私も予定が空いているわ。このまま仲間はずれにされるのは嫌だし……一緒に行こうかしら」


「うん! みんなで行こう!」



 こうしてゴールデンウィークの土曜日の日はみんなで野球観戦をすることになったのだった。





 ※ ※ ※










 球場であるエスコンフィールド北海道までは電車で駅まで行き、そこからバスで移動する。メンバーとは駅で集合して、みんなで同じ電車、バスに乗って移動した。移動中は人の山盛りで超人混みに押されまくって大変だったけど、立っている時つり革とかなくて揺れてバランス取るの大変だったけど、しかしそれ以上にわくわく感というか、高揚感があった。楽しみで仕方なかったと言えよう。久しぶりなのだ、球場は。この球場もできて二年目だし、去年も親に連れて行ってもらったのが一回だけだったから、久しぶりなのだ。



「いま、注目している選手は誰かいるの?」


「そうだな……個人的には加藤豪将のバッティングが好きだから彼に期待したいけど、一般的には田宮裕涼が今は一番ブレイクしていると思う。ほとんど首位打者だからな。打てる、走れる、盗塁も差す、そんなキャッチャー、いるだけで優勝に近づいたようなものだ。打てない捕手とかは下位打線に組み込まれる方が多いけど、彼は中軸、五番。クリーンナップを打つからな。去年の暮から、目覚ましい大飛躍、大活躍だよ。野手は不動の四番打者マルティネス、万波、野村、清宮、中日から去年移籍の郡司、課題だったショートのレギュラーを掴み取った水野、セカンド上川畑、中島、加藤豪将、忘れちゃいけない水谷、代走なら任せた五十幡、と、豊富な選手層、幅広い起用に応える選手のレベル、質が上がってきた今年は強いと思うよ。あと、投手といったらやっぱり大エース伊藤大海かな。上沢がメジャーに行ってエースがいなくなったところに、これまでの実績と、それにメンタルも大人になって向上して、日ハムの勝ち柱、大エースだからね。田中正義も抑えの守護神として昨年から定着、安定したよね。今年はどうなるか分からないけど、球場で流れる専用演出、あれ好きなんだよな。かっこいいよ。すごくかっこいい。ずっとスマホの待ち受けにしているんだ。赤極太文字の黒背景。今日の試合でもぜひとも流してほしいな。それにリリーフ! 中継ぎといえばね……」


「わ、わかったよ。ありがとう。すごいたくさん喋ってくれて、ありがとう。そっか、千木野くんは本当に野球好きなんだね。なんか嬉しいよ。僕も野球はすごく好きだから」


「ああ! いいよな、野球。駆け引きとか、魂こめた全力プレーとか、球際のスライディングキャッチ、一撃夢を込めたホームラン、雄叫びが聞きたい奪三振、頭脳明晰捕手のリード、六四三の併殺プレーとか。決まるとすごくいいし、決められると、舌を巻く。熱くなれる、熱くなる価値のある、スポーツに違いはない!」



 やがてバスは揺れながら球場へと辿り着き、そして 俺たちは球場の地を踏んだ。いよいよである。いよいよ試合だ。手荷物検査とチケットの読み取り経て、入場。しかし、その前に、まだ少し時間がある。俺は化神を連れて球場内のグッズ売り場へと足を向けた。


「なあ、ユニフォームを買おうと思うんだけど、誰かいいかな」


「え、それは究極に困る質問だね。ええと、難しいな。好みによるんじゃないかな」


「加藤豪将選手のはもう買ってあるんだ。それとは別にもう一着買っても良いと親からお許しをもらったので、買いに来たのだけど、いざ目の前にすると決意揺らぐな。誰にしようかなと、迷い始めてしまった。どれもいい。良すぎる」



 困った、困った、こまどり姉妹。



 ……うーん、どうしようね、本当に。



「僕はこれにしようかな」


「えっ、どれどれ……あー! 松本剛選手会長か! くぅー、それもいいな。いいよなぁ……」



 俺は悩みに悩んだ挙げ句、山崎福也投手のユニフォームにした。やっぱり、十八番ってかっこいいよな。エースの番号だよ。新天地でもぜひとも縦横無尽に活躍してもらいたい。がんばれ! 応援してます!



 それから二人で昼飯を買いに球場内を散策した。バカもウロウロしていたので、捕獲して、連れてきた。



「あ、寿司がある。寿司にしようぜ。テイクアウト用のやつを買って、席で食べよう。外野だけど、わりと近い席だから、いい景色かもしれない」 



 昼飯は寿司になった。しかし、野球場で寿司が食べられるなんて驚きだよな。しかも本格的な、超一流の味が。うまい、うまいと、三人でアホみたいに食べまくっていた。



「おまたせー。千木野くん、ホットドッグ食べますか?」


「ホットドッグ?」



 どうやら知花さんは二本買ってきたようだった。俺のためにか、わざわざ。それは愛がこもっていそうだなと思って、ありがたく受け取った。



「……千木野くん。申し訳ないんだけど、私も、その、二本買ってしまって……頼んだつもりじゃなかったんだけど、間違って来ちゃって……その……」



 風川もか? 間違いとは、まあ、仕方ないな。誰だって間違いはするし、ミスもエラーもする。それは責めるんじゃなくてみんなでカバーすることが、チームプレーってやつになるわけさ。



「じゃあ、それも食べるぜ。いただきます」



 むしゃむしゃむしゃ。



 俺は二人の女の子から受け取ったホットドッグを二本、ふがふが言いながら頬張って食べた。太っちまうぜ、まったく。



 試合開始は午後二時からだった。それまで、選手たちの練習の様子を見ていた。持参した双眼鏡で覗いてあの選手だ、あの選手だ、と言いながらみんなで回しながら見ていた。それにしてもグラウンドとの距離、近さがすごく近い。本当に手で触れられるんじゃないかってくらい近い。選手が目の前だ。ライト側の外野指定席だったけれども、これはなかなか、楽しめそうで、チケットを用意してくれた化神には感謝だ。



 さてそろそろ時間だ。楽しんでいこうぜ。



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