第25話  エラドーラ大統領暗殺事件

 僕とマーク・エロイーズは、風の精霊の大将が作ってくれた風の絨毯で一路、南西のエラドーラ共和国を目指していた。


 何故二人かというと、本来清楚で大人しい性格のエロイーズだが、本妻の子であるというプライドを持って、アン・ローズのことを妾の子だと蔑んでいたのだ。


 それで、人の心が読めるアン・ローズは、何かにつけて父親を味方につけて、エロイーズに突っかかって来ていたそうだ。

 家もどちらが継ぐかで、水面下で争っていたという。

 でもマーク・エロイーズが、あっさり引き下がったことで、姉妹の仲たがいの障害は無くなった訳だ。


「本当に、良いのですか? そんなにあっさりお家の跡取りの権利をあげて」


 マークは僕をチラリと見て言った。


「家名なんていらねえよ。俺は自由な冒険者だったんだぜ。前にも言ったろ。カザーラには帰らないってさ」


 風の絨毯の先端の席で、妖刀ムネヒラを抱えて気持ち良さげにしているマーク・エロイーズは、何処か満足げだった。


「でも、君が聖女だと分かれば、神殿も君を放っておかないと思います」


「何度でも、何処までも逃げてやるさ。今度こそ、の人生を送るんだ」


 に大分、強調が入っていたぞ……。

 マークの人生って、そんなに波乱万丈だったのかな?


「俺は、今生の人生にお前がいれば満足だ!!」


 マーク・エロイーズは、高らかに宣言をする。


 僕は、赤くなってしまった。


「何だよ、嫌なのか?」


「そうじゃな無くて……僕は、銀の森の次期三賢人の候補でもあるんです。それから、僕の予知夢の力は、君の奇跡の力と同じで神殿は、離さないと思うよ。僕も神殿の外の世界は知らないんだよ」


「な~~る お前、次の賢人の一人なんだ~ あの神殿で育った生粋の世間知らずの坊ちゃんか~~」


 その言い方には、少々ムカついたけど本当の事なので言い返せなかった。


「でも君だって、今の世の中のことを分かってないじゃないか」


 対抗するように言うと、マーク・エロイーズは、ムネヒラを抜いて僕に詰め寄り「そうだな」と言って、口づけてきた。

 なんでキスをするのに、妖刀を抜くんだよ!!


 などと、僕らが大将の絨毯の上でいかがわしい事を始める前に、エラドーラ共和国に着けたことは不幸中の幸いだった。


 首都に着いた途端、「ダーン!!」「ダーン!!」と二発の発砲音が。


 やっぱり、僕の予知夢は当たってしまう。


「頭と心臓に着弾してやがるぜ。腕の良いスナイパーだな」


 マークには、今の射撃が見えていたみたいだった。


「犯人の顔を見たと言ったな? 後はどうするか任せる。大統領は殺したらいけないんだろ?」


「神殿の名誉のためです」


 マークは、納得のいかない顔をして風の絨毯を降りていった。 



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