第12話  賢者、レナ-ド

 西域随一の大きさと、規模を誇るサントスの神殿は、歴史こそルナシエ歴になってから建てられたものだが、歴代の賢者様(神殿のトップ)が人格者で、昔のアルテア王国の城塞の外にあった小さな町は、今は、隣のディナーレ共和国並みには発展している。


 昔は、王国が多かったが、だんだんとお金を持つ商人や、技術者が頭角を表し、王家の多くは姿を消していった。


 ただ僕には、この神殿にはあまり近付きたくなかった理由が別にある。


「アル君。パパに黙って帰る気だったのかな?」


 早速見つかった!! 僕は、悪寒をおぼえながら振り返ると、淡い金髪の若々しいのに髭をたくわえてる男がいた。


「気色悪い呼び方するな。レナ、それでも、サントスの賢者かよ?」


 神殿の入り口で、僕を待っていたのは、僕の父のレナ-ド・マーロウだ。

 最高位の神官グレイス・ルーストの銀糸の刺繍の入った真紅の腰ひもをしていた。


 そう……僕の父、レナ-ドは、この西域を統べる神殿の賢者だったのだ。


 元々レナ(父)は、僕と共に光の神殿にいた。

 だけど、先の賢者様の引退で次代の賢者に選ばれてしまって、三年前からここで賢者をしている。

 レナにとって僕は、いつまでたっても子供らしく、銀の森にいた頃は、毎日のように付いて回られた。だから僕も抵抗して、父の名前の愛称が女みたいな『レナ』になることを承知で、そう呼んでいる。


 まだ、大きな問題は起きてないから良いけど。息子を溺愛してやまない奴を賢者になんかしておいて良いのかと思う。


「アル君、この銀髪美女は誰?」


 興味丸出しで聞いてくる。勘弁してくれ。


「訳あって光の神殿で預かってるエロイーズ・リッヒだよ。エロイーズ、父のレナ-ド・マーロウです」


 僕は、エロイーズに父を紹介した。


「レナ-ド・マーロウ様と言ったら、ミズーリ湖畔の住民のために、用水路の建設を許可してくださった賢者様ですわ!

 父が、領民が喜んでいると言ってましたもの」


「ふーん? 銀髪だから東方の子かと思ったら、カザーラ公国の子なんだね?

 不思議な気配のある子だ。もしかして、光の神殿が探してるっていう噂の聖女候補の子?」


 僕は、ドキリ!! この直感力こそ父の得技。そして、この力で人々の心をガッツリ掴みここまで上り詰めたんだ。

 

「アル君、この子が良いの?」


 父が言った。どう見てもエロイーズを値踏みしている顔で。


 僕は、またドキドキした。エロイーズのことを良いなと思ってることを当てられた。


「な、何言ってんの? レナ」


「すごーく変わった二つの気配を感じるけど、新しい人格が強くなってる。遅いかな~ もう結ばれちゃってるし~ 君は、まだ16歳なのに……。今の神殿の推奨は20歳以上なのにね~」


 僕がエロイーズと事におよんだことまで、見抜いてる~ こんな父親はいらないぞ~


「エロイーズは、何も覚えてないんだ。変なこと言わないでくれ」


「もう、遅いよ。アル君は、もう一人の彼女に愛されてしまったよ」


 僕には、父の言うことが分からなかった。

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