第8話  脱走したエロイーズ

「三賢人様に申し上げます!!」


 中位の巫女エル・リーア、リサルディが、僕らがいた部屋へ大変慌てで入って来た。


「ここを何処だと思っているのです? 光の神殿の中枢ですよ」


 賢人の一人、ミリア大巫女グレイス・リーアが窘める。


「すみません……でも、あの……!!」


 三賢人の筆頭でもあるテイラー様が、リサルディの慌てた様子に何かを察したようだ。


「まあまあ、ミリア殿……。リサルディ・エル・リーア何があったのか言いなさい」


「は、はい」


 リサルディは、三賢人の筆頭に声をかけてもらって驚いている。

 息を整えると、チラリと僕の方を見て言った。


「今、お着替えをエロイーズ様に届けに行ったのですが、お部屋がもぬけの殻でした!!」


 一同どよめく。当然だ。ほとんど世間を知らないお嬢さんが急に知らない土地に来て……?? あっ!! もしかして……


「リサルディ、君、エロイーズに何かお酒飲ませた?」


「朝ごはんの前に食前酒を果実酒を少し……」


 僕の問いにリサルディは、ほんの少しだけと手で合図を送ってきた。


 ああ……それだ。エロ―イーズはまた、マークとやらの人格になってしまったのだ。

 これは、もう話さなければいけないことになってしまった。




 ▲▽▲




「なんと、酒を飲むと人格が変わるだと?」


「およそ、千年前に活躍した勇者だと言ってます」


「勇者が自分から勇者だと名乗らんと思うがな」


 酷い~~!! 僕だって信じたくないけど、目の前で別人格になったんだぞ~~!!


「冒険者ギルドでSランクなら勇者では?」


 僕は悔しくなって、ギイラス様に噛みついてやった。


「冒険者ギルドなど、前時代の遺物だ。悪しき時代の名残だ。そんなものに振り回されるより、未だ、エロイーズ様が『グレシャス』を宿しているか分からないのだ。それより、お前の得意なカードなり予知夢なりで探しなさい」


「そうね、ここは一番年の近いアルに任せた方が良いかも」


 おい、おい。カザリーン姉さんまで。さっき助けてあげたのに~~


 ――ということで、脱走したエロイーズを探す役目は僕に押し付けられてしまった。

 僕には、予知夢の他にもカードという占いが出来るのだ。

 神殿にいなかったら、カード占いでも16歳なりに稼げていけただろう。


 僕は、最高枚数の50枚の手札を使って、彼女の行ったであろう方角を占った。向こうには風の精霊が付いているのだ。

 それから、期間か限られていた。すなわち彼女が『マーク』のうちに探さなければならない。

 エロイーズは、マークの存在も風の加護があることも知らないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る