第5話  前世を思い出したエロイーズ

 リア草……光をいっぱい受けた花を、芋から作った酒で漬けて三年から五年おく。民間療法よりも一段高い、魔法酒なんだな。

 リア草が、もともと精神安定、眠気を誘う催眠効果がある。これを酒によって成分を抽出させているんだ。

 かなり危ないものだし、市井には出ていない。

 でもなんで、こんなに危ないものがここにあるかというと、時々、僕みたいに光の神殿の荷が重すぎて眠れなくなる奴がいるんだ。


 僕は、リサルディが部屋まで持ってきた、カップを覗いて溜息をついた。


とてもじゃないが、眠れる量じゃない……


 それでもとベッドに入り、アナピス(黒羊)を88匹まで数えても眠れなかった。

 起き出して、そっと窓を開けた。「ひゅう」と顔にあたる夜風が冷たい。


 目の前で、何かが通り過ぎた。

 ????


 僕は、眼鏡をかけて、改めて外を見た。


 長い銀髪の女の子が、池のほとりの木によじ登ろうとしている??


 何事??


 僕は、慌てて神殿の外に出ていった。


「何をやってるんですか!!? エロイーズ」


 そう……夜中に光の神殿を抜け出して、池のほとりの木に登っていたのはエロイーズだったのだ。

 僕は、慌ててエロイーズのところに駆けつけた。


「ん? なんだ? 兄ちゃん」


「何だじゃありません!! 降りてきてください。寝間着が破れてますよ」


「関係ねえな。ここに俺の精霊がいたのが見えたから、契約しに来たんだ。邪魔するな」


 俺?? 精霊?? どうしたんだ? エロイーズは……!?

 

「君は、魔法使いだったかなぁ?」


「俺は、冒険者クラスSランクのマークだぞ。風使いだ」


 ????


 何が何だか分からないが、冒険者~~?? 

 冒険者ギルドが、この世界に存在したのは、もう三百年以上は昔のことだぞ。

 昔は、この世界にも魔族や、魔物、半妖、果ては魔王なるものまでいた。


 だから当時は、有名な勇者もいたし、伝説の剣士もいた。

 魔法使いだって、今よりもずっと地位が高かった。


 今は、魔族も魔物もいない人間だらけの世の中なんだ。


「おーい!! そこにいる風の精霊、大将なんだろ? セネガルドだろう?」


 エロイーズは、声の高さも変っている。


<如何にも我が名は、セネガルドだ。我の名を知るお前は誰だ?>


 僕には、魔法の力はない。強いて言うなら、大地の魔法に入るんだろうか? 木の葉がこすれ合う音とともに、こんな言葉が聞こえてきた。


「俺は、マークだ。お前の主だったマークだ。もう一度、契約しよう」


<たしかにマークと呼ばれし者と契約はしていた。が、それはまことの名前ではない。我と契約したければ、真の名前でしろ>


「知らねぇよ!! 覚えてねぇんだ。 気が付いたらにいたんだ。ここは好きじゃねぇ! 大将!! 早く俺を連れて逃げてくれよ」


 ここにいるのは間違えなく、昼間会ったエロイーズとは別人だ。 

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