第4話  エロイーズの過去

 エロイーズ……エロイーズリッヒは、昔の光の神の血族で、古くは聖女も輩出した家柄の娘なんだとか。


「でも、わたくしは、先祖返り《ティ・ファーレ》の銀髪で生まれて、外にも出してもらえず、家族には荷物扱いでしたわ」


 ああ……と僕は、溜息をつく。今は神殿の威厳も無くなり、神の血筋だ、魔法使いだ。本家だ、分家だのと威張り散らしていた連中が、銀の森を追われて、完全に実力主義の世の中になっている。


 そうか……リッヒ家といえば、本家の分家筋の名前だ。百年くらい前なら、エロイーズは銀の森で良い暮らしができていただろうが、逆に現代では、その家名が生きにくくしているんだろうな……。


 エロイーズは、落ち着きなくソワソワしていた。


「どうかした?」


「ここは……落ち着きません……」


「あなたが、光の精霊の『グレシャス』を宿していることが分かれば特別な存在になりますよ」


「光の精霊……? グレシャス……」


 エロイーズは、独り言のように言った。ピンとは来てないようだ。


「ここの眩しい銀の葉は、逃げ出したい気分になりますわ……」


 聖地、銀の森で心が安らげない、なんて……変わってるな。


「直に慣れるでしょう。と、いっても、予見師たちには聖女判定のために観察されるでしょうけど」


「聖女?」 


 エロイーズは、青白い顔をしていた。本当に気分が悪いみたいだ。


「光の精霊『グレシャス』を宿す聖女の事ですよ」


「早く、帰りたいですわ」


 エロイーズは、か弱い声で言った。

 困ったな……。こんなに繊細な女の子だったとは……。

 僕は、ハンカチーフを彼女に渡してあげた。


「ここにいると、逃げ出したくなります」


「そんなに嫌わなくても……ずっと長い間、世界の聖地だった所ですよ」


「 ならわたくしは、聖地や神殿を嫌う気質みたいですわ」


 エロイーズは、顔を上げて言った。何故だか断言している。


「でも、その銀の髪は神の一族の名残でしょう?」


「心までそうとは、限りませんわ!!」


 僕は、嫌がるエロイーズを誘って、光の神殿の客間まで案内した。

 彼女の荷物は、リサルディの手で運ばれていた。

 ずっと、その部屋で僕たちの到着を待っていたようだ。


「アル!! 遅い!! エロイーズ様を口説いてるんじゃないわよ」


「変な事言うなよ!! リサ!! 僕は、気分悪そうにしていたから……」


「エロイーズ様も疲れたのですしょう。あんたも不眠症だっけ? 本家の庭で採取したリア草を漬けた酒を手に入れたの。薄めて飲んで飲んでごらんなさいよ。これを飲んでぐっすり寝れば、鬱症状なんて吹っ飛ぶわ」


 僕は、驚いた。

 本家は今は無人だが、中庭の薬草園は、今では珍しくなった魔法治療に効く薬草も多く植えられていて、ここの世話は、大地の魔法の力を持つ巫女リーアたちに任されているのだが。

 リサルディの奴、僕の為か……?


 

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