第17話 霞(4)

颯くんがシャワーを浴びている間、私は机に突っ伏していた。

「う〜……!」

 私は呻き声を出してしまうほど、言葉にならないほどの嬉しさと幸福感で満たされていた。それでも抑えきれない私は、その幸福感を体現するように何度も何度も拳を握り優しく机に打ちつけた。まさか、好きな人と恋人になれたことがこんなにも嬉しいことだなんて思いもしなかった。

 どうしよう……、今、めちゃくちゃ幸せだ、私…………。

 本当に数十分前までの負の感情が嘘のようだ。

 瑠美に電話をかけるか迷い中

「これって、本当に現実なのかな……? 夢だったりしないよね?」

 私は念の為、自分の頬を引っ張ってみる。うん、ちゃんと痛い。だとしたら、本当に願いが叶ったんだ。颯くんと恋人関係になりたいという願いが。もちろん、最終着地点ではないけど。

「瑠美ちゃんに報告しなきゃ」

 私はずっと応援してくれていた瑠美ちゃんに報告するため電話をかける。

『もしもし?』

「もしもし、瑠美ちゃん」

『どうしたの? 霞。もしかして、また颯に泣かされたとか』

「ちがうちがう! その……、颯くんと付き合うことになりました……」

『本当⁉︎ おめでと!』

 私の報告を聞いた瑠美ちゃんは自分のことのように喜んでくれる。

「ありがと、瑠美ちゃん。それと……、明日いきなりデートに誘われた……。それも、颯くんが私のために服を選んでくれていて取り置きしてくれてるんだって」

『よかったじゃない!』

「うん」

 どうしよう、嬉しすぎて涙が出ちゃいそうだよ……。

「ねえ、瑠美ちゃん。恋人関係になったってことは、登下校中に手を繋いでもいいってことだよね? 腕を組んで歩いてもいいってことだよね? 家にいるときも、遠慮せず近づけるってことだよね? イチャイチャできるってことだよね? 甘えてもいいってことだよね? それに――」

『ちょっとストップ! ストップ!』

 捲し立てるように欲望が口から出てしまっている私に瑠美ちゃんが制止をかける。

 あっ、あまりの嬉しさについ考えていたことが口から出ちゃった。

『霞。あんた、付き合う前までは奥手なのに、恋人関係になると積極的になるのね……。まるで、別人だわ……』

「だってぇ……」

 ずっと、恋愛感情を気付かれないように距離を取ってた分、縮めたいんだもん。意識させるために近づいたりはしたけど、それでも引かれないように遠慮してたし。それに加えて、この間から今日まで顔を合わせていなかった分、颯くんを感じたいんだもん。今までの時間を取り戻さなきゃ。

それに、キスや添い寝、なんかも……。

 私は想像して頬が一瞬で熱を帯びるのを感じる。

 颯くんはどうなんだろう……。キスとか、その先のこととか興味あるのかな……? 

 ちなみに私は、颯くんが求めてきたら受け入れるつもりです。颯くんとの子供が欲しいから。私の願望は、生涯を遂げるまで颯くんと年齢関係なしにイチャイチャすること。年齢を重ねれば重ねるほど、少しずつ愛が減っていくなんて聞くけれど、私はそうはならないです。断言できます。颯くんに対するこの熱烈な愛情は、歳を重ねても冷えることはないです。颯くんはわからないけれど。

『霞。やりすぎて、引かれないようにしないと、すぐに別れを切り出されるかもよ?』

「そんなこと言わないでよぉ……。せっかく付き合えて嬉しいのに……」

『ごめんごめん! でも、気をつけなさいよ?』

 でも、瑠美ちゃんの言うとおりだ。スキンシップが多すぎて、面倒臭い女と思われたら嫌だ。何より、付き合って一ヶ月も経たずに別れるなんてことになったら、私は部屋に篭ってしまうかもしれない。

「……わかった。気をつける」

『でも、本当におめでと』

 改めて、瑠美ちゃんが労いの言葉をくれる。

『そうだ! 前に言ってた衣装完成したんだけど……って、もういらないか……』

「ううん、一応もらっとく。瑠美ちゃんが、私のために時間を削ってまで作ってくれた物だもん。それに、もしかしたら、使うことがあるかもしれないし」

 ハロウィンの時とか。颯くんにご褒美をあげる時とか。

『じゃあ、明後日の放課後に渡すね』

「うん」

 すると、浴室の方から物音がした。多分、颯くんが上がったんだと思う。

「今更だけど、ずっと応援してくれてありがと」

『友達の恋だもん。応援するに決まってるでしょ』

「ありがと。じゃあ、また明後日ね」

『うん、また』

 そうして、瑠美ちゃんとの通話が終わった。

 とりあえず、控えめにイチャイチャしようと思います。まず手始めに、颯くんの膝に座るとか、颯くんの肩に頭を乗せるとかかな。

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