第3話 芽生える欲求
夕食を食べ終わり、風呂も入ったあと、俺は自室でベッドに腰掛けながらゲームをしていた。ゲームの内容は普通のRPGである。自分以外のパーティーメンバーはもちろん、全員、可愛い女の子である。理由はいくつかあるが、一番は親密度を上げれば、その女の子とのイベントが見られるからだ。そうやって、夢中になってゲームをやっていると、部屋の扉をノックされた。
「颯くん、起きてる?」
部屋の外から声をかけてきたのは、もちろん霞姉だ。
「起きてるよ」
「部屋、入っていい?」
珍しいな……。ここ最近、というか、俺が中学一年生のあたりから、部屋に訪れに来たことなかったのに……。まあ、別に問題はないけど。別に見られて困るものがあるわけでもないし。
「別に構わないけど」
「じゃあ、お邪魔します」
そう言って、扉を開けて入ってくる霞姉。そこまでは問題なかった。ただ、霞姉の姿に問題があった。今し方、風呂から出たばかりなのであろう、少し火照った体に、肌に張り付いた濡れた髪。そして寝間着は、偶然なのか、俺の大好物であるモコモコパジャマだった。色っぽさの中に可愛さもあって、正直、言葉にならない。俺はその姿に見惚れ、ゲームのリモコンを落としてしまう。
「颯くん、リモコン落としたよ?」
霞姉はリモコンを拾って俺に渡してくる。
「あ、ありがとう……」
これも、何かのアプローチなのか? だとしたら、思春期の俺には刺激が強すぎる! いや、でも、霞姉時々抜けてるところあるからな……。
俺はできるだけ、霞姉を意識しないようにもう一度、テレビ画面に顔を戻す。
平常心、平常心……。
しかし直後、
「お邪魔します……」
そう言って、俺の隣に腰掛けた。
うおぉぉぉい! ちょっと待ってくれ! なんで、こんなに距離が近いんだよ! いや、わかってるよ! アプローチなんだろ! だからって、近すぎる!
「か、霞姉……?」
「ん? どうしたの?」
俺はテレビに視線を向けたまま、気になることを聞いてみる。
「距離、近すぎない……?」
「そんなことないと思うよ。だって、アプローチしにきたんだもん……」
やっぱり……。
「だからって……」
「だって、その方が颯くん、意識してくれるし、ドキドキしてくれるでしょ……?」
あまりの可愛い発言に俺は隣にいる霞姉を見てしまう。それにより、霞姉と視線が合ってしまう。その瞬間。俺の中でドクン! と心臓が跳ねた。そして、少しずつある欲求が生まれてしまう。
これが、漫画やアニメでよくあるキスしたくなる瞬間、なのか……?
多分、義理の姉弟ってわかっていなかったら、こんな欲求は生まれなかっただろう。だけど、告白され、自分に好意を抱いてくれていると思うと、何故かキスしたくなる。今、目の前にある潤いのある小さな桜色の唇に。
駄目だ! 相手は霞姉だぞ! 義理とはいえ、十四年間、一緒に暮らしてきた家族だぞ!
俺は欲求を抑えるように自分に言い聞かす。しかし、目の前の唇から目が離れない。
互いに見つめること、どれくらいの時間が経っただろう。そんな俺たちを現実に戻したのが、
プルルルル! プルルルル!
俺の携帯だった。
俺たちは突然の着信に肩を跳ねた。
「ご、ごめん、霞姉! ちょっと電話に出るわ!」
「う、うん……」
危なかったぁ……。俺は何をしようと考えてたんだ……。自分から断ったくせに……。
俺は内心ホッとしながら、机の上に置いてある携帯を手に取り電話に出る。
「もしもし? どうした、陽介?」
『あっ、颯? 悪い、明日の漢字の小テストの範囲どこまでだった? メモし忘れてよ』
「確か、十九ページから二十四ページ」
『おぉ、ありがと!』
「いや、別にいいよ」
それに、俺も助けられたしな。
『じゃあ、また明日!』
「おう」
電話を切ると、すぐに気まずい雰囲気になった。とりあえず、何か話題を振らないと。
「そ、そういえば、霞姉って、昔料理苦手じゃなかったっけ? 何かきっかけってあったのか?」
今は美味しい料理を作っている霞姉だが、昔は大の苦手だった。それこそ、家庭科で調理実習がある日は、休みたいというぐらいには。まあ、そんなことを言いつつも霞姉は絶対に学校に行くんだけど。真面目だから。
「きっかけは、颯くんだよ。ほら、よく言うでしょ? まずは好きな人の胃袋から掴みなさいって」
可愛い理由だった。まさか、そこにも俺に対する好意が関わってるなんて。
「そ、そうなんだ……」
少し照れくさい気持ちになる。でも、それだけじゃないだろう。霞姉の努力できる力もあって、こうして、克服したに違いない。
「ねえ、颯くん。颯くんはこういう女の子たちが好みなの?」
霞姉は、俺が部屋に至る所に掛けてあるポスターを見て尋ねてくる。
「まあ」
「ふ〜ん……」
俺の返答を聞いた霞姉はどこか不服そうにする。これは、もしや……!
「もしかして霞姉、嫉妬してる?」
「しないほうがおかしいでしょ! 好きな人が、他の女の子のポスター飾ってたりしたら!」
ぷく〜っと、両頬を膨らます霞姉。その姿がまた可愛らしく、何より、二次元のキャラにも嫉妬してくれるのがたまらなく嬉しい。思わずニヤけてしまうぐらいに。
「そ、それよりも霞姉。部屋に戻らないのか?」
「うん。もう少し颯くんと一緒にいたいから……」
また男心を燻るようなことを! モジモジしながら言っているのが、また心に刺さる! それこそ、狙ってやってるかのようだ。でも、霞姉は抜けてる部分もあるし、それはないだろう。誰かの入れ知恵がない限りは。
「そういう颯くんは、ゲームの続きしないの? ずっと、ゲームオーバーの画面だよ?」
しまった! 完全に霞姉の方に意識が向いてゲームのことを忘れていた!
俺はリモコンを手に取り、霞姉から少し距離を取った位置に座る。そして、改めてゲームを再開しようとしたのだが、
「なんで、そんなに離れるの?」
霞姉が距離を詰めてきた。髪の毛から、女の子特有の甘い香りが鼻腔を燻る。
アプローチするためとはいえ、いくらなんでも近すぎる!
「霞姉、アプローチするためとはいえ、近すぎない?」
「そんなことないと思うけど? だって、好きな人に近づきたいのは当然でしょ? それに、私の場合、何年も想いを伝えるのを我慢したんだよ? 告白のタイミングが見つかるまで、颯くんに私の想いを悟られないように家族としての距離も保ってきたんだよ?」
上目遣いで、そんなことを言ってくる霞姉。こんなことを言われては拒絶することができない。
「だから、いいでしょ……?」
潤んだ瞳で懇願するように俺を見つめる霞姉。もう、これは断れない。
「わ、わかった……」
「やった!」
いくら好きな人相手でも距離感がおかしくないか? もしかして、本当に誰かに入れ知恵されてたりして? 入れ知恵じゃなくても、助言は受けてるんじゃないか?
そう思うほどに、いつもの霞姉ではなかった。まあ、告白できて、我慢していたものが解き放たれたのかもしれないが。それよりも、これだけ好意を向けてくれているのだから、俺も、身内としてしか見れない、で済ませるんじゃなくて真剣に向き合わないと。これだけ好意を向けてくれている霞姉に申し訳ない。
俺は、隣で幸せそうな笑顔を浮かべている義姉の顔を横目で見ながらそう思うのだった。
現状の俺の霞姉に対する気持ちは、家族愛3、異性としての恋愛感情7といったところだ。多分……。
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