第2話 義姉の告白
「ただいま〜」
「ただいま」
学校が終わり、俺は霞姉と一緒に夕飯の買い出しをして家に帰ってきた。普段は、それぞれで帰るのだが、今日みたいに買い物があったりすると、一緒に下校している。
俺は食材が入った袋をテーブルの上に下ろす。今日は何故か豪華な食事のようだ。
何か記念日だっけ?
「荷物持ってくれてありがと、颯くん」
「別に家族だし、これぐらい当然だろ」
家族の買い物の手伝いなんて普通のことだ。別にお礼を言われるほどのことをしたわけではない。
「それでもだよ。何事も当たり前だって思ったらダメだから。ちゃんと、お礼を言わないと」
「だったら、俺の方こそだろ。毎日美味しい弁当作ってくれてありがとう、霞姉」
気恥ずかしいが、霞姉の言うことは正しいと思ったので、俺も言葉足らずではあるが感謝を伝える。
「どういたしまして。まあ、これは私のためでもあるから」
「霞姉のため?」
「うん」
どういうことなんだ?
全くわからない答えに首を傾げる。そんな俺の反応に霞姉は苦笑を漏らす。
「まあ、あとで答え合わせしてあげるよ」
そう言う霞姉の声はどこか弾んでいるような気がした。まるで、この後が楽しみだとばかりに。
「じゃあ、夕飯できたら呼ぶね」
「わかった」
俺は自室に行き、制服から部屋着に着替える。そして、ベッドにダイブし寝転がりながらゲームを始めた。
ちなみに、父親も母親もこの家には住んでいない。もちろんだが、死んでもいない。両親は二人とも俺が高校生になるのと同時に海外に転勤した。俺も霞姉も誘われたが、霞姉はともかく俺は海外でやっていけるはずがない。その理由は簡単。英語がまともに話せないから。そんな俺の英語のテストの点数だが、なんと十点だ! フフン、すごいだろ! 自慢することじゃないって? わかってるよ! なので、家事は全て霞姉がやってくれている。俺は時々手伝う程度だ。
「あ〜、くっそ! 仲間のせいでまた敗北だ! これだからチームプレイは嫌いなんだ!」
と言いつつも、このゲームにハマってるのでやめない。
ゲームを始めておよそ一時間が経った頃(体感では三十分も経ってない)。霞姉が夕飯の準備が終わったことを教えてくれる。俺は篭っていた自室から出て、食卓のあるリビングへと向かう。リビングに入ると、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。食卓には、美味しいそうな料理が五品ほど並んでいた。
「颯くん、ご飯よそってくれる?」
「わかった」
俺は食器棚から俺と霞姉の茶碗を取り出し、ご飯をよそう。それを食卓に置いた後、お茶をコップに注ぎ、お箸と一緒に食卓に置く。これらが、俺のご飯の時にできる手伝いだ。
準備を終えた俺と霞姉は席に着く。
「いただきま――」
「――ちょっと待って」
夕食を食べ始めようと手を合わせるところで霞姉からストップをかけられた。
「どうしたんだ? 霞姉」
「その……、えっと……」
「ん?」
何やら言いにくそうにモジモジとし始める霞姉。そして、少し時間が経ってから意を決したように口を開いた。
「颯くん。私とお付き合いしてください」
「…………ん?」
今、霞姉なんて言った? 私とお付き合いしてください? うん……?
「ど、どういうことだ⁉︎」
霞姉の口から出た思いもよらない発言に俺は驚き勢いよく立ち上がった。
いや、本当にどういうことだよ⁉︎ 俺が霞姉に告白された⁉︎ 聞き間違いかと思ったが、霞姉の顔は恥ずかしさからさくらんぼのように赤くなってるし、それに、瞳も濡れていることから間違いなく告白された。
「どういうことって、そのままの意味、だよ……? 私と付き合ってほしいの」
「付き合うって、男女の交際的な……?」
「……うん」
うん、余計にわからん。
「あのなあ、霞姉。俺たちは姉弟――」
「――じゃないよ」
「えっ……?」
霞姉の言葉の意味がわからず、俺は立ったまま呆然とする。
俺たちは姉弟じゃない……? じゃあ、なんで一緒に暮らしてんだ?
俺の疑問に答えるように霞姉が付け足す。
「姉弟だけど、血は繋がってないよ」
「つまり……」
「うん、義理の姉弟だよ」
俺と霞姉が血のつながらない姉弟? 嘘だ……。
「十六年間、一緒に育ってきたじゃないか?」
「ううん、正確には十四年みたいだよ。お母さんたちの話によると」
そういうことか……。十四年前ということはつまり、俺は二歳。物心がついてない歳だ。そして、霞姉も。だから、十六年間と思い込んでいたんだ。
「でも、何で霞姉がそのこと知ってるんだ?」
「中学三年生の時にお母さんたちから聞いたの」
「じゃあ、何で俺には教えてくれなかったんだ?」
「それがさっきの告白に関係してくるの」
もう、わけわかんねえ……。情報量多すぎる……。霞姉からの突然の告白。それに加えて霞姉と俺が実の姉弟じゃない。そしてそれが、告白に関係してくる。理解できない。頭がてんやわんやだ。
俺の困惑を解くように、霞姉が話を続ける。
「私は颯くんに対して恋愛感情を持ってるって気づいた時にお母さんに相談したんだ。その時に実の姉弟じゃないって教えてもらった」
「でも、それだったら、俺に教えてくれてもいいんじゃないか?」
「そんなの無理だよ。だって、私が颯くんに恋愛感情を持ってるって、颯くんにわかっちゃうから」
「あ、そっか……」
流石にそれは気まずいな……。想像しただけでわかる。
「だから、自分でタイミングを見計らって颯くんに打ち明けるってお母さんたちに言ったの」
「それで、どうして今日なんだ?」
「だって、お昼言ってたでしょ? 彼女欲しいって。だから、今日なの」
なるほど。目の前で好きな人が、彼氏欲しい、彼女欲しいってなってたら、まあ、チャンスあるかもって告白するかもな。
普段から身内贔屓無しにしても十分に可愛い。だが、告白された今、俺のことが好きな女の子として見た時、その何百倍もの可愛さがあった。まさか、こんなにも近くに俺のことが好きな女性がいたとは。
「改めて言うね。颯くん、私とお付き合いしてください」
霞姉が改めて想いを伝えてくる。素直に嬉しい。容姿はもちろんだけど、性格も面倒見がよくて、包まれるような、温かくなるような、なんでも打ち明けたくなるような優しさがある。それに加えて、努力家で。その中に方向音痴だったり、抜けている部分があったりするのもギャップがあってまた可愛い。だけど、
「ごめん、霞姉……。やっぱり、身内としてしか見れない……」
義姉と言われても、やっぱり俺にとっては姉だ。どうしてもそれが変わらない。きっと付き合ったとしても、恋人ではなく家族として接してしまうだろう。それは、霞姉に申し訳ない。
俺の気持ちを聞いた霞姉は、
「やっぱりそうだよね」
少し残念そうに笑った。でも、すぐに気を取り直して言ってきた。
「そう言われると思ってた。だから、颯くん。今この時から私のことをあなたのことが好きな女の子として見てほしい。家族としてではなく、一人の女の子として。あと、これからアプローチするから覚悟しててね」
そう言って、早速アプローチのつもりなのか、可愛らしくウインクをしてきた。まあ、両目とも瞑っていたが。しかし、そんなことを言われてもなぁ……。
目の前の霞姉は、今しがた告白したばかりだというのに、すでに通常運転に戻っているようだ。
一人の女の子として、かぁ……。
俺は手を合わせ、霞姉が作ってくれたご飯を食べ始める。ご飯はやっぱり、温かいうちに食べた方が美味しい。すると突如、霞姉が、一口サイズにしたハンバーグを箸でつまみ、顔を火照らせ俯きながら、無言で差し出してきた。世間一般で言う、あ〜ん、だ。その行動に俺の心臓が跳ね上がる。霞姉がそれをしちゃダメだ! 美しさの中に恥じらいという可愛さが混じった破壊力抜群の攻撃! こんなの他の男がされたら完全にイチコロになるだろ!
しかし、一応のため、念のため、霞姉にその行動の意図を尋ねる。もし違ったら恥ずかしいからな。いや、間違い無いと思うけど。
「か、霞姉……? それって……」
「い、言わせないで……」
ズッキューン! ……じゃねえ! 俺、チョロすぎだろ! さっきまで、家族としてしか見られないとかほざいときながら、何ドキドキしてんだよ! いや、でも! ドキドキするなって方が無理だけどな! だって今の霞姉、瞳を潤ませ上目遣いで見てきてんだもん! 今の霞姉の破壊力を例えるなら、HPバー十本を一回の攻撃で仕留めるほどのものだ。多分、義姉ってわかっていなかったら家族のスキンシップ(そもそもこんなことしないと思うけど)だなと捉えて流せるのだが、先ほど告白された相手ともなると、攻撃力が違ってくる。というか、
「恥ずかしいならやらなきゃいいのに……」
無理をしてまで今することではないと俺は思ってしまう。
「い、意識してもらうためには、告白したあとの方がいいかなぁって……。そ、それに、男の子はこういうの嬉しいんでしょ……?」
小首を傾げて可愛く尋ねてくる霞姉。
やばい! やばいやばいやばい! 可愛すぎる! 今すぐ抱きしめたいぐらいだ!
しかし、霞姉の攻撃は終わらない。さらに、トドメと言わんばかりの追撃を喰らわしてくる。
「わ、私もされたら嬉しいけど……。颯くんっていう条件付きで……」
もう、意識が飛んでくわ……。これだけは断言できる。霞姉以上の可愛い生物は、この世どころか宇宙全体を探してもいない。
「は、恥ずかしいから早く……」
そう言って、食べて? と懇願するような視線を送ってくる霞姉。
ごめんなさい、先ほどの発言撤回します。もう、一人の女の子として意識し始めてます。
俺は口を開き、霞姉が差し出してきたハンバーグを食べた。
うわぁ……。ラノベで、主人公がヒロインに食べさせてもらった時に味がしないっていう文章読むたびに、そんなわけないだろ! って突っ込んでたけど、本当だわ、これ……。本当に味がしない……。味がしないというか、味はするんだけど、料理の味ではなく、幸せの味がする。
「どう?」
「お、美味しいです……」
「よかった……」
はにかみ笑いを浮かべる霞姉。
「じゃあ……」
そう言って、垂れた栗色の髪を耳にかけ、目を瞑りながら、その小さくて可愛らしい口を開く。もちろん、その行動で霞姉が何を求めてるのかをすぐに察した。本当はこんな恥ずかしいことできないのだが、してもらった挙句、女の子がこうやって行動してくれてるのだ。応えないと男が廃ってしまう。
俺は緊張で震えながらも、箸でハンバーグを掴み霞姉の口へと運ぶ。
「あ、あーん……」
「……ん」
霞姉が俺の差し出したハンバーグを咀嚼する。そして、頬を桜色に染め、恥ずかしそうに、味……、わかんないね……、と言ってきた。
もう勘弁してくれ。俺まで熱くなる。と言うか、もうすでに猛暑日レベルで体が火照ってる。恐らく、霞姉はそれ以上だろう。第三者から見たら、俺らの今の雰囲気って、胸焼けするぐらい甘ったるいと思う。それこそ、俺が読んだ主人公、ヒロインのイチャイチャラブコメぐらいに。アニメなら、そこら中にハートが浮いているレベルだと思う。これぞ、二人だけの空間なんだろう。まあ実際、俺と霞姉の二人だけなんだけど。両親は仕事関係で別々に暮らしているから。
あ〜ん、以降、特に霞姉からのアプローチはなかった。
私の別作品『声優とファンの百合付き合い』と2作品週替わりで公開していきたいと思います。できるだけ、続けて連載ができるように頑張ります!
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