九月

第20話 赤子の声

 残暑が過ぎ去り、植物の緑が少しずつ落ち着き始めた頃から、赤ん坊の泣き声が聞こえることがあった。盛りの付いた猫の鳴き声が人の子供の声に聞こえることがあるけれど、これは間違いなく人間の声だった。声は山の奥から聞こえる。んぎゃあ、んぎゃあ、というあの声だ。夏の終わりから秋にかけて聞こえてくる頻度は上がり、まるで蝉の鳴き声に取って変わるようだった。

 千華子さんが言う。

「こういう時はね、絶対に山に入っちゃだめ。イヌスケやミケスケは良いの。でも人は絶対にダメ。気を付けるとかそういう問題じゃあないの。絶対に駄目。」

 わかっているよ、千華子さん。僕はそんなに馬鹿じゃない。

あの沢山の赤ん坊の声が、尋常じゃあないってことくらい分かっているよ。

 本当にねえ、蝉じゃあないんだから。

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