第8話 カーテン

 家の奥の、日の当たらない部屋の窓辺に影が蠢いているのを見つけた。影の大きさは日によってまちまちだが、常に窓辺の右端に立ち、窓のちょうど同じ高さの体を左右に揺らしたり、体の幅を広げて窓の右半分や、日によっては窓全体を覆っている。

「カーテンよ。」

 千華子さんは面倒くさそうに言った。僕が持ってきたベイクドチーズケーキをつつきながら話す。

「大分古くなったカーテンが、ミケスケに爪を立てられて、ボロボロになったの。だから家でお炊き上げしたんだけど、まだまだ自分は現役だと思ってたんでしょ。ああやって恨みがましく出てくるのよ。」

 ちなみに彼女の言う『お炊き上げ』とは、家の敷地内に作られた簡易焼却炉で物を燃やすことだ。彼女の家では燃えるゴミは焼却炉で燃やされる。焼却炉は家を囲むように複数作られており、それを風向きや天候を考慮しつつ基本的にはローテーションで使用する。これは合法なんだろうか。野焼きって禁止されてなかったっけ。

「まあ、でも、近いうちにその灰を使うことになるから、そうしたら出なくなると思うわ。」

 千華子さんが言った意味が分かったのは、月を跨いでからのことだった。

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