第3話 彼女の家に住むもの達
千華子さんのお家に泊めて頂き、顔を洗って、居間で朝ご飯までご馳走になった。この家は朝からがっつり食べる家らしく、豚肉を焼いたものや煮物が出てきた。さらにおばあさんが僕に、やたら乳酸菌飲料を勧めてきた。おばあさんが淹れてくれた濃い目の日本茶を飲んでほっと一息ついたところで、千華子さんが起きてきた。僕の顔を見て驚いたような、「あぁ、やっぱり」とでも言いだしそうな、そんな顔をした。
「おはよう、千華子さん。」
「おはよう。」
「昨日は客間に泊めて貰ったよ。朝ご飯もご馳走になった。」
「そうみたいね。」
「とりあえず、説明してもらって良いかな?」
何が、という目的語は必要ないと思う。一晩だけでなんか、もう凄かった。
何もないところから犬の鳴き声は聞こえるし、ネコの毛皮が四つ足歩行しているし(毛皮だけであって、中身は不在)、台所からはペタペタと何か小さいものが這っている音がした。客間で机に読みかけの小説を置いたら本がいきなりボタッと落ちた。机の端から大分離れたところに置いたのに。
怪談話のお約束のように、朝になればこういったことも治まると思って無理やり目をつむって眠ったけれど、そういうわけにはいかなかった。夜が明けた今も外から犬の鳴き声が聞こえるし、さっきネコの毛皮に親愛の頭突きを食らった。台所からは千華子さんのお母さんが朝ごはんを支度する音と一緒に這っている音が聞こえた。更に起き抜けに何か気配を感じ、恐る恐る外に面した障子を開けたら、庭の茂みからニホンカモシカが二頭顔だけ出して僕を凝視していた。
「カモシカは妖怪の類じゃないわ。ただのカモシカよ。」
「国の特別天然記念物だよね。」
「仕方ないじゃない。出るものは出るのよ。昔から言うでしょ、出物腫物ところ選ばずって。」
「そんな、魑魅魍魎や特別天然記念物をニキビか何かみたいに。」
「出るものは出るのよ。」
彼女は強気に開き直った。
まあでも、と彼女は続ける。
「私の家族全員に会ったのに、泊まっていけとまで言われたのに、この家の同居人達のことは一切言わなかったのね。それはあんまりだわ。」
その『あんまり』とは、僕に対してだろうか、奇妙な同居人達に対してだろうか。
「まずは、驚かせてしまってごめんなさい。もうご存知の通り、私の家はお化け屋敷よ。そしてお望みの通り、私の家にいるもの達を紹介させて頂戴。」
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