第五章 快晴 12
二人の会話の攻防が収束をみせる中で、園山君が一つの危惧を私たちに告げた。
「あのさ……今はいいけど……おっさんが仕返しにくる可能性があるじゃん。明日以降も雨宮は、バスに乗るんだろ? それって、ヤバくない?」
私も園山君と同じ意見だった。
今日は、みんなが助けてくれたけど、明日以降もおじさんに会うことになる。
ここに来るまでのバス車内は不安だけしかない。
それを考えるだけで怖い。
私の考えとは裏腹にハルさんは笑顔だった。
手に持った黒い物体とクリアケースのような物を見せつけている。
「財布と社員証。財布には、免許証が入っているし、社員証があるから会社もわかるよ」
「おおー、さすがハルさんだね! 私が捕まえている間に、何を
「まあ……ね。あきちゃん……これを持って、警察に行こう? 言いたくないこと……嫌なことを聞かれるかもしれないけど……これからの被害者を減らすためにも必要な行動だと思う」
「うん……行く……」
「警察に行っても、今後の対応を適切にしてくれるかわからないから、コンビニで個人情報のコピーを取っておこうよ。あの人が、また現れるようなら……こっちにも、手はいくらでもあるから。
それと、バス会社にも事情を話して、あの人を乗せないようにしてもらえないか確認。無理なら座席も運転席の近くにして、気にしてもらう方向がいいかな」
「策士だねー、ハルさんは。頼りなるー!」
「私たちの話だけで、警察が信じてくれるかわからないしね。ただ、バスに関しては、バス会社に話しておけば、利用者の要望を無視することはないと思う。難しいことを頼むわけでもないし」
ハルさんの案に聞き入っていると、いつも調子の良い園山君が声量と勢いを落として話し始めた。
「でもさー、晴香の言う通りにしたら、ある程度はいいと思うけど……」
「なに……? バカ猿のくせに、何か意見があるの?」
「――逆恨みってのがあるぜ? 事件になって、会社も辞めさせられて、家族にも捨てられて自暴自棄。襲われたり……いきなり刺されるとか? それ怖くね?」
「ちょっと……! バカ猿! あきちゃんが不安になること言うな!」
「でもよ、実際そういう話だろ? 変なやつなんて、世の中にいっぱいいるんだから」
確かに園山君の言う通り。
私の心に深く暗い感情が広がりをみせる。
今後も不安な日々は続いていくのだと、憂鬱な思いが脳内を掠めていく。
「晴香の言う通り、バス会社に対応してもらったとしても、危険があるじゃん? 雨宮のバス停はバレているわけだし。だからさ……しばらくの間、俺が雨宮のバス停まで行って、一緒に通学するよ」
予想外の発言に、私は「え……?」と、園山君の顔を見ると、少し照れくさそうに頭を掻いている彼の姿がそこにはあった。
「まあ、自転車で行けば……そんなに遠くないし」
「えー? 猿に守れるのかなー?」
「大丈夫、大丈夫。身を挺して守るって、ボディガードみたいで格好良いじゃん」
「凶器を持ったやつとやり合うなんて、普通に厳しいからねー。おじさんが現れたら、あきちゃんを守って刺されろよ? 名誉の死。大丈夫、墓には花を供えてあげるから」
「確かに……誰かに頼るだけじゃなくて、私たちも動いた方が安心だよね」
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