第三章 勇気 7

「――愛衣ちゃん……ハルさん……」


「なんで照れてるのー、かわいい! 小柄で、かわいいから抱きしめたくなっちゃったー!」


「そうだね。休み明けから、髪型も変えて似合っているよね」


 気付いてくれていたんだ。

誰も気付いていないと思っていたのに。

名前を呼ぶこと、呼ばれること、髪型を褒められること。

私には、とても久しぶりで嬉しさが込み上げてくる。

そんなことで普通は喜ばないと誰かに言われても、無防備な体に安全圏から鋭い長槍で攻撃してくる人を怖いと思わない。

そう思わせてくれるのは、ハルさんと愛衣ちゃんの思いやりのおかげだと思う。


「おまたせー!」


 笑顔で小走りしてくる園山君が白い袋を下げて戻ってきた。


「あれ? 雨宮も一緒? なんだ、いいじゃん。多いほうが楽しいからなー」


 私がカバンからお弁当を取り出していると、三人の昼食が机に並べられていた。

ハルさんは、コンビニのおにぎり。

愛衣ちゃんは、手作りのお弁当。

園山君は、売店のパン。

誰かと、ご飯を食べるのは久しぶり。

少しの緊張と楽しさが胸の中で混ざり合って、声を上げている。


「雨宮は、愛衣と同じで母親の手作り弁当かー。

いいなー、そういうの憧れるわ」


「あ……違うの。私……自分で作って……いるから」


「そうなの? マジ? え、ちょっと見してくれよ」


「はしゃぎすぎだよ、猿。でも……私も見てみたい!」


「うん……」


「ちょっと……二人とも、あきちゃんを困らせないでよ」


 今日の献立は、昨日に作ったハンバーグのタネの余りで作っておいたピーマンの肉詰め、アスパラベーコン巻き、玉子焼き、きんぴらごぼう、ミニトマト。

見せることは恥ずかしかったけど、みんなの期待も嬉しい。


「ええ! これ全部、雨宮が作ったの?」


「……うん、そうだよ……」


「わあ、美味しそう!」


「なあ……ちょっと、食べてもいいか?」


「園山……! 調子に乗るな!

……私も食べていい?」


「うん……いいよ、食べてみて」


「ちょっと……二人とも……」


 咎める声を出したハルさんに笑顔を向ける二人。

園山君はピーマンの肉詰めを食べて、愛衣ちゃんは玉子焼きを食べてくれた。


「えっ……うま……マジでうまい。雨宮、料理すげえ上手じゃん。神だわ」


「この玉子焼き、おいしい! 甘めなんだけど、ご飯も進む感じで、おいしーい!」


 作った料理を人に食べてもらって喜ばれることが、こんなに嬉しいということを忘れていた。

お祖母ちゃんに教えてもらった玉子焼き、褒めてもらえたことが誇りに思えるといったら、大げさかもしれないけど。


「俺も玉子焼き食べたい。愛衣、残りの半分食わせてくれ」と、園山君が言った。


 口に残りの玉子焼きを入れた愛衣ちゃんは「やだよー、私もピーマンの肉詰め食べたかったんだから!」と、咀嚼で膨らんだ頬を見せつけていた。


「あ……いいよ。二人とも食べて」


 私が再び弁当箱を差し出すと「いいの!?」と、二人は声を揃えたけど、ハルさんに注意されて申し訳無さそうな表情と隆起していた肩を落とす。


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