第一章 梅雨 3
返事はない。
当たり前。当たり前のこともわからなくなっている。
いつか雨が止むことはあるのかな……。
溜め息をついてから、清々しい境内の対極に位置するような気持ちを押し込んで、バス停へと静かに戻っていく。
バス停の中は三畳くらいの広さで、退色した青いベンチが置かれている。
誰も来ないと思うけど、いつも左端に座るようにしていた。
私は両の手を重ねて俯いている。
余計に緊張や不安が増していくかもしれないのに。
もう少しでバスが来る。
『怖い』
最近はバスに乗る前から、そう思うようになった。
教室に入る前、校内に入る前、バスを降車してからの通学路、バスに乗車する前。
距離は遠ざかっていくのに、恐怖は漆黒を持ち合わせて近付いてくる。
バスが来た。
定刻通りに迫ってくる姿は、今の私には恐怖でしかなかった。
運転手の技術によってバスが定位置に停車すると、空気の抜けていく音が響いて、扉が大きく口を開けた。
手が小刻みに震えている。
早く乗らないと。
早く立たないと。
早く動かないと……。
「乗らないの?」と、口を開けて待っている扉の向こう側の運転手さんが、顔だけをこちらに向けて私を見下ろしていた。
声がうまく出てこなくて、言い淀んで
乗れなかった。
緩徐な動きを見せるバスに目を向けると、眼鏡をかけた髪の薄いおじさんが車内から怪訝な目で、私をしっかりと見ている。
無精髭の周りを舌舐めずりしていることが怖くて顔を伏せた。
いつも見かけるおじさん。
離れた席に座っても、私の後ろの席に移動するおじさんがとても嫌だった。
髪を触られたこともあったし、何度も深呼吸をするようにして、生温かい吐息が首筋に纏わりつくたびに身を
今日も乗れなかった。
先週の木曜日からバスにも乗れない。
乗車してしまえば、学校に送り届けてくれるバス。
利用者が少ない上に学生は無償で乗れるから、本来は感謝するべきなんだろうけど、私にとっては苦悩に向かうための箱でしかなかった。
それも先週まで。
今日も学校へお休みの連絡をする。
電話越しの相手は、学校名しか名乗らずに誰かもわからなかったけど、学年、クラス、名前を告げると事務的な会話は終了した。
しばらくの間、アスファルトに落ちては広がる雨粒を見つめていると、私の心もこのような状態なのかなと寂しくなる。
傘を開いて、変形した道路の水溜りに注意しながら歩き始めた。
髪の跳ねっ返りは、さらに増えてしまったと思うけど、もう誰に見られるわけでもない。
本当は、ボブにしたことを誰かに見てもらいたくて、可愛いねと褒めてもらいたかった。
今は六月下旬。
梅雨の時期なんだ。
私の人生も……雨女という言葉から生まれた梅雨の時期なのかな。
涙は出なかった。
どうしたらいいのかわからない。
頭上から傘を外すと、灰色の空が私の心を反映していた。
冷たい雨が顔を濡らすたびに、一人ぼっちという陰りが私を
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