弥生始動します Vol4

 璃央さんにアプリでメッセを送ってから直ぐにスマホが振動した。

 マナーモードに設定して在るから音は鳴らない代わりに、あたしの鼓動が高鳴った気がするわ。


 ブルブルッブルブルッ


【それじゃ、ターミナル駅に迎えに行くから着いたらコールしてくれるか?】


 えっ? ここまで迎えに来てくれる心算だったの?

 最寄り駅を勘違いしてるみたいで不味いわね。

 このままだと行き違いになってしまう――

 直ぐに連絡して誤解を解かないと駄目じゃない。

 折角のサプライズも計算違いで裏目に出てしまったようだわ。


『誤解を解いて置きたいのだけど、あたしはいまターミナル駅に着いてローカル線を乗り継いで最寄り駅に向かう心算なの。だから最寄り駅って云うのは文字通りの事だからターミナル駅に迎えに来て貰っても行き違いになってしまうわ』


 ブルブルッブルブルッ


【なんだよ。水臭いぞ。その件は後で話すとして、最寄り駅に一時間後に着くのな? 迎えに行くから先に着いても動かない事。オッケー?】


『了解しました。気を遣わせちゃったみたいでごめんなさい。でも、ありがとう。最寄り駅で大人しく待ってます』


 ブルブルッブルブルッ


【彩華さんも水臭いって呆れ半分に笑ってるから小言くらい覚悟した方が良いぞ】


 あれ? 彩華さんもって――もしかしなくても璃央さんはいま師匠のお家に居るって事よね。

 と云う事はお見送りの時みたいに皆さんで迎えに来てくれる予定だった?

 あぁ……凄く嬉しいわ。

 なんて暖かくて優しい方達なのだろう……まるで陽だまりみたい――

 感動して涙が零れそうだけど、ここはそんなところでは無いから我慢よ。


『彩華さんにお伝え下さい。お小言は慶んで頂戴します。いまから愉しみです』

 

 送信っと。




 久し振りに顔を見せた月詠家の居間で、紫音と綾音にじゃれ付かれながら寛ぐ璃央の姿が在った。


 ポキッポキッ!


「紫音と綾音、ちょっと待て。弥生ちゃんからメッセ入ったかも知れないから」


「ねぇね? いつ くりゅの?」


「そうだなぁ、昼前には着く筈だ。だからあと一時間くらいしたら出掛けるから支度しとけよ」


「ぼーんぼーんって じゅう なったら ぶーぶ いくの?」


「あぁ、そうだ。その前に弥生ちゃんから連絡が来たかも知れないからスマホ取ってくれよ」


「はぁい。おにぃちゃん これでしょ」


「サンキュー紫音」



 璃央はスマホを受け取ると直ぐにメッセを確認した。


【弥生です。あと一時間くらいで最寄り駅に着きます。ご予定に変更は無いかしら?】


 やっぱり弥生ちゃんからだったよ。

 あと一時間くらいだと直ぐに出ないと間に合わないな。

 こっちが少し遅くなるかも知れないし、着いたらコールして貰って打ち合わせすれば待ち合わせもスムーズになるし、そう連絡しとくか。


『それじゃ、ターミナル駅に迎えに行くから着いたらコールしてくれるか?』



「璃央君、弥生ちゃんから? なんて云って来たの」


「あと一時間くらいで着くって。だから直ぐに出ないと間に合わないかも? 急がなくちゃいけないな」


「あらぁ。考えてたより早く着いちゃうのね。ほらっ。紫音、綾音。お姉ちゃんのお迎えに行くから急ぎなさい」


「「はーい」」



 ポキッポキッ!


【誤解を解いて置きたいのだけど、あたしはいまターミナル駅に着いてローカル線を乗り継いで最寄り駅に向かう心算なの。だから最寄り駅って云うのは文字通りの事だからお迎えに来て貰っても行き違いになってしまうわ】



「あっ――手遅れだ。全くなんて事を……彩華さん。出迎えは要らなくなったよ。弥生ちゃん、いまターミナル駅に居るって。それでローカルでそこの駅まで来るって云ってる」


「そうなの? 弥生ちゃんったら気を遣ったのね。あの娘らしいけど」


「そうだね。いまから向かっても行き違いになるか、こっちが着くまで待たせる事になるから、弥生ちゃんの云う通りそこの駅まで来て貰うのが良いね」


「それが良いかも。知らない場所で待つのも退屈になってしまうし。だったらローカル線の景色を視ながら来て貰う方が気も紛れるでしょ」


「そうしよう。じゃぁ、それで連絡するよ」



『なんだよ。水臭いぞ。その件は後で話すとして、最寄り駅に一時間後に着くのな? 迎えに行くから先に着いても動かない事。オッケー?』


 ポキッポキッ!


【了解しました。気を遣わせちゃったみたいでごめんなさい。でも、ありがとう。最寄り駅で大人しく待ってます】



「でも弥生ちゃんったら水臭いわね。それにフードコートに行きそびれるのだからお仕置きしないといけないわね」


「まさかフードコート目当てで迎えに行くって云い出したの?」


「そんなこと在る訳ないでしょ。冗談よ。でも水臭い事したお仕置きはしなきゃね」


「了解。弥生ちゃんに釘を刺して置くよ」



『彩華さんも水臭いって呆れ半分に笑ってるから小言くらい覚悟した方が良いぞ』



「彩華さん。このくらいの脅しで良いかな?」


「そうね。丁度良いのじゃないかしらね。ふふふ。」


「これで送って置くよ。」



 ポキッポキッ!


【彩華さんにお伝え下さい。お小言は慶んで頂戴します。いまから愉しみです】



「――あはは……これ視てよ」


「どれぇ――ふふふ。可愛らしいわね」


「りおにぃ。ねぇね は? どーしたの」


「大丈夫だ。予定通りに迎えに行くから準備しとけよ」


「「うんっ」」

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