弥生始動します Vol3

 あたしはホームに到着した新幹線に乗り込み空いてる窓際の席に座ったの。

 車内はガラガラの状態ではないけど空席が目立つ乗車率で、予想通り指定券は必要なくこの先の停車駅での乗客数を考慮しても充分に余裕は在ると思うわ。

 早速トレーを出してコーヒーが入ったカップを置いたらリクライニングを操作してゆったり座れるポジションへ変更する。

 少し長めの停車時間が在ってから定刻通りの発車時間にドアの閉まる音に続きゆっくり動き出したわ。


 新幹線っていつも通勤で乗ってる電車とは別種の異なった加速感なのよね。

 なんて云えば良いのかな?

 ゆ~っくり動き出して気が付いたら凄いスピードなっていて、遠くの車窓の風景が近づいて来るなって思ってるとあっと云う間に後方へ流れてしまうって感じね。

 ちょっと違うけど『千切っては投げ千切っては投げ』って云い方をするとピッタリだと思うのだけどクーデレさんはどう思う?


 ソンナ カンソウ モツノワ アナタ クライヨ。


 え~っ。何でよぉ。そこは同意してくれてお話しが盛り上がる展開でしょ。


 コノサイ ダカラ ハッキリ イウ ワ。

 アナタノ ボケ ワ アサッテニ ムカッテ ボーソー シテル ノヨ。


 ちょっとぉ『明後日に向かってる』って何よっ。

 それにボケじゃなくてウイットに富んだ愉しいお話しでしょ。解らないの?


 アタシ ミタイニ 『シュール&スタイリッシュ』 ヲ メザシナサイナ。


 あたしとクーデレさんの二人でシュールなお話しをしたら、それこそ収拾が付かなくなるじゃない。

 自分でも頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされてしまうのじゃなくて?


 アラァ? ソンナコト イッテルト モウ ヒロッテ アゲナイ ワヨ イイカシラ?


 そうよね――この云うネタ物って誰も拾ってくれないと自虐なだけで自己嫌悪に陥ってしまうわ……


 ヨロシイ。



 え~。気を取り直しまして。


 発車してから暫くあたしは車窓から流れては消える景色を眺めたりしたけど、何となく落ち着かなくて気が逸ってしまうわね。

 だったら何か考えて居れば良いって思って、ローカル線の時刻表を調べ接続の待ち時間を加味した所要時間を計算したりして過ごしたわ。

 スマホのアプリを使えば秒で出来るけど、調べるのが目的じゃなくて何かに没頭する為だからアナログ縛りしてみたの。


 少しずつ近付いて行くって想いながら景色を眺めてるだけだと頭に浮かぶのはあの三日間の事ばかりで、師匠に順序立ててお話しをする為の組み立ても出来ないもの。

 それだけあたしの気持ちは既に向こうに飛んで行ってしまってる事だわ。

 きっと師匠も彩華さんも突然あたしのお話を聞いたら驚くわよね。


 どんな顔をするんだろう。反対されるかしら?

 例え反対されてもあたしはもう決めてしまってるから、ご近所にアパートのお部屋を借りてでもあの場所で暮らしたいわ。

 考えると不安になる事ばかりだから、いまは当たって砕けろくらいの気持ちで丁度良いと思ってるの。


 《アナタ ガ ウゴケナク ナッタラ アタシ ガ セナカ ヲ オシテ アゲル ワヨ。 シンパイ シナイデ マカセナサイ。》

 


 何となく色々な事を考えながら過ごすと時間を持て余す事も無く、新幹線が目的のターミナル駅に到着するようだわ。

 焦れったいほど停まりそうで停まらない車輌が滑り込むホームを眺めながら、あの時あたしが仕出かした失敗に恥ずかしくなってしまったのよ。


 やがて停車すると数テンポ遅れてドアが開き、降車する人の列に並び順番待ちして決意を足元に滲ませるようにホームへ降り立った。

 そのままホーム中央付近まで歩くと立ち止まり、腕を頭の上で伸ばして軽くストレッチしたわ。

 ローカル線への乗り換えは余裕を持って出来るから、焦ったり急いだりしないでゆっくり行きましょうかね。


 途中で視掛けた駅員さんに乗り継ぎの確認を念の為にしたけど、問題はなく親切にも駅構内の順路まで教えてくれたの。

 慣れない大きな駅でも迷う事もなく教わった順路通り駅構内を歩いて行く。

 出口や接続路線の多い慣れていない駅って、地名なんかの土地勘がないと直ぐ迷子になっちゃうわよね。

 その点、番号で順路を聞いてると番号を追いかけるだけだからスムーズだわ。


 新幹線のチケットはターミナル駅までの乗車料金だけどローカル線のパスにもなってるから無人改札機では無く、端っこに在る駅員さんが居る改札を通ったわ。

 駅員さんに消印を押印して貰うとチケットはそのまま市内のローカル線のパスになるのよね。

 あたしは土地勘が無いからパスの適用外になってしまうかも知れないけど、目的地で追加料金の清算が必要か確認して改札を出れば問題ないわ。


 ターミナル駅だとローカル線のホームでもいつも乗り慣れてる通勤電車のホームみたいな雰囲気で、違和感が無いことに違和感を覚えるのよね。

 この慣れた雰囲気の中で視慣れない景色を眺めてるから、迷子になってしまったみたいな感じがするの。

 

 まずはこのホームから電車に乗って二十分くらいの駅で降りると目的地の駅を通る路線に乗れるから、到着時間を璃央さんにメッセして置きましょ。

 あたしは向こうに早く着いて待っているのは構わないし、それも愉しそうなのだけど璃央さんの方にも都合が在るでしょ?

 だからちょっと早めに連絡だけはして置きたいじゃない。

 璃央さんのお店からだと最寄り駅まで車で十分程度だと思うけど。


『弥生です。あと一時間くらいで最寄り駅に着きます。ご予定に変更は無いかしら?』


 送信っと。

 いまあたしがターミナル駅に居るのは璃央さんにも内緒だから、最寄り駅に着くって連絡したらきっと驚くと思うわ。

 こう云うサプライズもスパイスになって愉しいものよね。ふふ。

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