六話 沈黙は擦れ違いの始まり
沈黙は擦れ違いの始まり Vol1
ここ数日はすっきりしないお天気で、あたしの
どうしようもない事は解ってるのだけど……
でも気持ちだけ逸ってしまい焦れったいの。
こんなにも待つだけの時間って永く感じるものなのね。
師匠とお知り合いになる前だったら時間なんてあっと云う間に過ぎて、寧ろ足らないって思っていたと云うのに――
あの三日間は本当に色々な事が在ったわ。
前日に突然思い付いたバイクツーリングもそうだけど、目的地もお泊りする宿もみんなスッポリ抜けて漠然と何とかなるくらいに想っていたのよ。
そんなあたしを導いてくれた視えない何かが、結果的にどうにかなる所か鮮明な記憶になる素敵な事の連続だったわ。
あの時の出逢いは戻って来て以来ずっと考えているけど、導かれて師匠と巡り逢ったのだって答えに辿り着くの。
あれはとても偶然なんて呼べるものじゃ無くてもっと上位な――そう、必然ね。
必然だったのだから〇〇が背中を押してくれて巡り逢わせたに違いないのよ。
いま想い返すとその兆候は在ったのよね。
近付いて行くに従い頻繁になったノイズ混じりのイメージ投影はその証拠よ。
木洩れ陽の樹々のアーチが素敵な林道を疾ってる時から徐々に視始めたのよね。
最初は時々フラッシュバックする程度だったのに、璃央さんに紹介される頃にはもう煩いくらいになってたわ。
だからこんなに待ち遠しいのも全部そう云う事なのよ。
『もうっ。どうしてくれるのよっ!』
あたしはこんなにも気持ちが騒ついて落ち着かないと云うのに――
いっその事あたしから押し掛けてあげようかしら?
それはダメね。だってこれはサイレントターンなのだから。
無理矢理に事を進めたって巧く行くわけ無いのは経験上よく解かってるわ。
いまはじっとして待つだけ。
解かったの? あたしっ! 待つのよ。
こんな事をあたしは同僚から任された企画書の代筆をしながら考えていた。
慣れも在ってか上の空で作業の様に草案を添削したり纏めたりしてるの。
モニターに向かってキーボードをタイプしながら、無意識に向こうで体験して経験出来た事に絡めて璃央さんの顔も浮かんで来るわね。
お仕事中だけどミスタイプもしてないし考えるだけなら良いでしょ?
不適切なのは認めるけど誰も心の中なんて読めないのだし。
あれから課長と何度かお話しをして、あたしの退職の道筋は出来たと云っても過言では無いわ。
時期的な問題が多少残ってはいるけど、クリア出来ない問題では無いのが気持ちを楽にしてくれてる。
もうあたしは動き出してるのよ。
あと戻りなんてしてあげないんだからね。
指を咥える様な気分で璃央さんから作業完了の連絡を待って、それからは飛んで行くだけよ。
ドコ カ トンデモナイ トコロ ニ トンデ イカナイデ ヨ。
タイムリーでナイスな突っ込みありがとう。
いつも大変お世話になって居ります。クーデレさん。
アタシ ガ イツ デレ タノ ヨ。 シンガイ ダワ。
そう云う所が可愛らしいのじゃない。
解かって無いわね。ふふ。
モゥ シラナイワヨ。 オシゴトニ ミ ヲ イレナサイナ。
チューコク ワ シタワ。 ジャァネッ!
やっぱり可愛らしいじゃない。反則よね。
まるで猫ちゃんみたいで気侭だけど構ってあげないと拗ねちゃう所なんかもね。
いま出て来てもあたしは手ぐすね引いて待ってるのだから餌食になるだけよ。
さぁ、掛かってらっしゃいって云いたいくらいだわ。
《ハァ――チョーシ ニ ノッチャッテ。イイワヨ。イマ ワ マケテオイテ アゲルワヨ》
それからあたしは頼まれたお仕事のチェックを兼ねて反復しながら仕上げたわ。
少しだけ残業になってしまったけど、以前みたいに終電近く迄なんて事も無く時間的には一時間くらいかしら。
もう直ぐ暗くなる時間だけどまだ薄っすらと明るいから、まだまだ今日を有意義に過ごせそうだわ。
でもお出掛けしたいって気分でも無いから、早目にお部屋に帰ってゆっくりワインでも傾けようかしら。
帰りがけにスーパーでおつまみ用の食材をお買い物すればバッチリよね。
『何となくだけど、今夜はお家でのんびりすると良い事が在りそうな予感がするの』
あたしは下がってる気分はスッキリしないお天気の所為にしてリフレッシュ計画を実行に移す事にしたわ。
高級品では無いけどお気に入りのテーブルワインとブルーチーズでお洒落に過ごそうと思うの。
お華の薫りのお香も焚いて静かなピアノの調べをBGMにするのも良いわね。
あっ。でも少しだけお料理もしたいかも?
簡単に作れてワインと合うお料理かぁ……何が良いかしらね。
まぁ、いいわ。
スーパーで食材を眺めながらメニューを考えましょ。そうしましょ。
《アタシ モ コンヤ ワ ナニカ ガ アリソーナ ヨカン ガ スルワ》
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