ワン スモール ステップ フロム ゼロ Vol3
追加でオーダーしたおつまみやビールも揃って改めて乾杯したわ。
それにしても愛ちゃんの言葉とは裏腹に、深刻に悩んでるようには視えないわね。
何か秘策でも考えてるのかしら。
「でもお仕事の絡みで、こんな性急に状況を変えないとダメなんて思って無かったのじゃない?」
「そうね。こんな急に状況が変わって行くとは私も思って無かったかな。もう少し先のお話しと考えてたのは事実ね」
「どう打開する心算なの? あたしに出来る事はするわよ」
「無い事もないのだけど。でもそれは一時凌ぎって云うか第一ステップだわ」
「段階的に対処して行くって事なのね。最終的な所は視えてるの?」
「当然よぉ。それが視えてなかったら進みようが無いじゃない」
「それなら良いわ。さっきも云ったけど、あたしに出来る事なら喜んでするから云ってよね」
「ありがとう。弥生。そうそう、あんたこそ例の事は確り考えたの?」
「スパで云わなかったお話しがそれでね。まだ未確定な部分は多いけど、今日はお仕事を辞める件で上司に相談したの」
「やるじゃないっ。そうかそうかぁ。弥生も一歩踏み出したのね。私だって負けないわよぉ」
「それがね、可笑しいのよぉ。聞いてくれるぅ?」
「なによ。気になるじゃない。早く云いなさいよ」
あたしは愛ちゃんにお昼ご飯の後に課長とお話しした事を説明したわ。
アプローチが悪かったのも在って、あたしと課長の認識のズレで結婚話になってしまったって云ったらお腹を抱えて笑うのよ。
もう失礼しちゃうわね。
「おっかしいぃ。なにぃ。その課長さんって、もしかして天然なの?」
「そうなのかも。あたしも今日まで知らなかったわよ。普段は頼りがいの在る上司だしね」
「そっかそっかぁ。それで弥生と課長さんの天然が化学反応を起こして、斜め上どころか突き抜けちゃったのね。可笑しくてお腹が痛くて苦しいわよ」
「愛ぃ。笑い過ぎぃ……あたしは天然じゃないわよ。もう」
「天然なのは皆、そう云って気が付いてないんだから、それが天然の証明なのよ」
「もう。そんな云い方されたら否定しても全部そこに辿り着いちゃうじゃない」
「そうそう。無駄よ。無駄」
「分かったわよぉ。今回だけは百歩譲ってあげる。でも今回だけよ」
「はいはい。でもいまのお仕事の方は道筋が出来て、目途も立ったみたいで良かったわね。そうするとこっちで出来る事ってあまり多く無いように思うけど、他に何か在る?」
「そうねぇ――道筋って訳じゃないけど、向こうで暮らすには下宿させて戴くかアパートのお部屋を借りるかになるの。でも師匠に相談してみない何とも云えないからお引越しの準備も出来ないかな」
「引っ越しの準備って何よ?」
「大袈裟な事じゃないのだけど、下宿させて貰うのとアパートを借りるのでは必要な家具が違って来ると思うのよ」
「そう云う事ね。アパートを借りたら、いま弥生が使ってる家具を殆んど持って行くって事になるから、流動的で規模が未定だと業者さんに見積もりも取れないわね」
「それそれ。新しい生活になるのだから最初の出費は少ない方が良いでしょ? だからねぇ、持って行くにしても処分するにしてもまだ動きようが無いのよ」
「持って行かない家具は処分する心算だったの? それじゃぁ渡りに船だわ。ねぇ、もしもだけど、持って行かない家具を処分するなら私が引き取るわ。勿論、格安になってしまうけど、それでも処分料払うよりお得な筈よ」
「愛、それって――もしかして……実家を出る事も視野に入れてるって事?」
「その通りよ。理由はさっき云ったでしょ。私はもうそっちにシフトしてるって事なの」
「それでかぁ。早く云いなさいよ。実はね、さっきのお話しで愛が悩んでるように視えなかったから違和感が在ったのよ。でもそのお話しを聞いて納得したって訳なの」
「あぁ。ゴメンねぇ。云い忘れてたみたいだわ。私の内ではもうそっちが濃厚で、前提みたいに考えていて抜けたのね。それより家具の処分の方は考えてくれるかな?」
「それよりってねぇ……あたしは必要ない家具はどなたかに差し上げても良いって思ってたから必要なら異存は無いわ。それにお金も要らないし。愛だって新しい生活になるのだから出費は抑えなきゃ」
「助かるわ。それじゃ甘えさせて貰うわね。あっ、でも無理する事ないから。不必要な物だけで良いわよ」
「それは約束するから安心して。今度向こうに行って師匠に相談したら必要な物も決まるわ。だからその後でまた愛に声を掛けるわよ」
愛ちゃんったらもう一歩も二歩も進み出してるじゃない。
あたしも負けられないけど、いまは何も出来ないし焦る必要も無いわね。
璃央さんからあたしにお呼びが掛かるまで待つしかないのだから。
『璃央さ~ん。頑張って早くバイクのカスタム作業してねぇ』
遠くからエールを贈って置きましょ。
思いがけず不必要な家具の件は愛ちゃんの申し出で片付いてしまったわ。
まだ何が必要で何が必要ないかは分類できないけど、懸念材料がひとつ減ったと思えば感謝したいくらいよ。
きっとあたしと愛ちゃんがそれぞれの新生活の時期は同じ頃ね。
そんな予感がするの。
だって学校を卒業する時のように、お互い希望に溢れてるのだもの。
『愛ちゃん。頑張るのよ。あたしだって負けずに頑張るんだから』
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