後の祭りなんかにしてあげない Vol4
あたしは意を決する様に軽く深呼吸してお話しを始める。
先ずは切り出しから慎重に順番を間違えないようにしなきゃね。
「最初にあたしの希望から云わせて戴きますね。あたしを次の大規模プロジェクトチームから外して貰いたいのですが宜しいでしょうか?」
「ほう。そう云う話しか。うん。続けてくれないか」
「あたしの方で準備もしなければいけないのでメインで進行するプランニングも減らして戴いて、サブの立場でサポートに廻るお仕事を多くして貰えれば理想的ですが、それは都合が好過ぎますよね?」
「う~ん。そうだなぁ、今日の明日みたいな事じゃ無ければ可能だと思うが、反対にいつ頃なら理想的なんだ?」
「あたしが考える理想は、出来るだけ早くとしか云えないです」
「なる程ね。この後の話しは予想出来るが念の為に聞いて置くのだけど、神駆絽。その後はどうしたいんだ?」
「そうですね。お仕事のキリが良い所で会社を退職させて戴きたいです」
「いつ頃からそうなったんだ? 俺の見落としかも知れんが、そんな気配なんて無かったから少し驚いてるよ」
「この前の長めの有給休暇を戴いた時ですね。そこでお知り合いになったのが切っ掛けになりました」
「う~ん……お前の人生だから他人の俺がとやかく云える立場じゃないが、人生の先輩として確認したい事が在るんだが良いか?」
「はい。何でしょうか?」
「そんな短い期間で大事なこと決めても良いのか? もう少し考えてみたら冷静にもなるだろうし。それと親御さんは何と云ってるんだ?」
「お知り合いになってからの期間は短いですが、鉄は熱いうちに打てって云うじゃないですか。今じゃないと動けなくなってしまう気がしてます。それとあたしの両親には話をして了承済みですね」
「ふむ。親御さんは賛成してるのか。まぁ少し時期尚早とは思うがそれでお前が幸せになるのなら良しとするしかないだろう。しかし若い時分ってのは盲目的なるのも仕方のない事なのかも知れんな」
「課長にご理解戴けて良かったです。急なお話しなので怒られると思ってましたから」
「いや、怒りはしないだろう。普通にこう云うのは目出度い事なんだから。そうだ。聞き忘れてしまったけど結納はいつ頃なんだ?」
「はいぃ? 結納ですか? 結納なんてしませんけど。必要なのですか?」
「そりゃぁ形式ばった風習だけど、やって置いた方が良いのではないか? なにせ一生に一度の事だからな。その後に式場やら招待客やら、諸々の準備を進めても遅くないと思うがな」
「課長。ちょっと良いですか?」
「あぁ。構わんぞ。何だい」
「先程から少し認識のズレが在るので確認と訂正をしたいのですが、結納とは結婚前にするあの結納ですよね?」
「そうだが。他に結納なんて無いだろう。それで訂正と云うのは?」
「課長の誤解であたしが結婚すると思われてますが、あたし結婚しませんよ」
「はぁ? さっき、こないだの有給休暇の時に知り合った男性と結婚するって云って無かったか?」
「云ってませんよぉ。お知り合いになった方達には男性も居ますけど、結婚するような間柄では無いんですからぁ」
「知り合ったのは複数名なのか。ちょっと待て。神駆絽、お前は寿退社する訳じゃないんだな?」
「違いますね。会社を退職したいのは間違いないですが、それは向こうに移り住む為なんです。移り住んだ先から通勤出来る距離では無いので」
「そうか。少し要点を整理した方が良さそうだな。俺は早合点して、神駆絽は結婚で寿退社したいのだと思い込んで話してたからな」
「そうですね。あたしも少しお話しを急ぎ過ぎた様です。事の顛末からお話ししますね」
あれぇ~? いつから課長はあたしが寿退社するんなんて考えてたのかしら。
結婚のケの字も出してないのにおかしいわね。
アプローチをミスったのかな?
これがクライアントさんとのプレゼンだったら、致命的なミスで大目玉を喰らいそうよ。
あたしは気を取り直して課長に事の顛末を説明したわ。
バイクツーリングの事から始まって、師匠や彩華さんとお知り合いになった事でしょ、月詠家の皆さんの暖かい人柄や紫音ちゃんと綾音ちゃんが可愛らしくて良い子なんて事もお話ししたの。
クーデレさんの事だけは流石に云わなかったけどね。
だって愛ちゃんも云ってたけど理解出来ないと思うし、精神疾患と勘違いされて心配されても困るでしょ。
あと璃央さんの事は仄かに薫るピーチウォーター並みに、かな~り希釈して置いたけどね。
また結婚ってお話しを戻されてもややこしくなるだけだし。
あたしにとって課長は上司なのだけど、気さくでお話しのし易い方だから殆んど聞いて貰ったわ。
さてさて、反応はどうでしょうかねぇ?
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