後の祭りなんかにしてあげない Vol3
午前中のお仕事はメインで任されてるプランの進捗状況の確認や業務連絡、同僚のサポートで発注書を作成したりと、至ってスムーズに進んでる案件ばかりで何事も無く捗ったわ。
時間も丁度お昼休みになる頃で、何となく部署内が騒めいてる感じなの。
きっとお昼ご飯をどうしようかって考えてるのだわ。
「神駆絽、今朝の件だけど昼飯しながらで良いか?」
「はい。構わないです。有難う御座います」
「それじゃ、それで行こう。ところでお前は弁当か?」
「はい。食堂のおばちゃんから豚汁だよって聴いてたので、おにぎりを作って来ました」
「おぉ。今日は豚汁か。A定食じゃなくて豚汁定食にするかな」
「ウチの食堂の豚汁は美味しいですものね。大人気ですけど月に一回か二回しか作ってくれないのが珠に瑕です」
「あのおばちゃん何か云ってたな。確か仕込みに手間が掛かるとか他のメニューが出なくなるからとか、そんな感じの事だったと思ったな」
「あたしも聴きました。その両方みたいですよ。栄養のバランスも悪くなるからって云ってましたね」
「日替わりの定食はバランスを考えたメニューになってるからな。そこが気になるのは仕方ないのだろう」
「そうですね。食堂のおばちゃんはお母さんみたいな気質ですから」
あたしはバッグからお弁当のおにぎりを入れたランチパックを取出し、課長と一緒に社員食堂に向かったわ。
歩きながらの話題は専ら食堂のメニューやおばちゃんの事ばかりで、今朝の件に全く触れて来ないと云うのは腰を据えるお話しと認識して貰ってるのかしら?
それだけ取っても充分に頼り甲斐の在る人柄だと尊敬できるわね。
食堂に着いて課長は宣言通りに豚汁定食を、あたしは単品で豚汁を購入して少し奥まった周りに空席の多いテーブル席に座った。
あたしは課長に付いて行っただけなので、お話しがし易いようにって配慮してくれたのだと思うの。
いつもながら細かな気配りを忘れない課長は本当に頼もしい上司よね。
こう云う時にこういう事を自然に出来る旦那さんを持った奥さんは幸せだわ。
なんて思うのかも知れないけど、お仕事で繊細な気配りしたり人望の在る方でも良き家庭人である事とイコールでは無いのが現実なのよね。
課長の場合はワーカホリックだから、お家に帰ったら無口で寡黙なんて可能性も在るかも知れないけど。
少しお話しが反れてしまったわ。
今日の豚汁定食はっと……
豚汁がメインなのに違いないけど、小鉢が二品にお漬物と焼き海苔ってメニューだわ。
小鉢はきんぴら牛蒡と短冊に切ったさつま揚げの煮物で美味しそうね。
おにぎりを作って来なかったら、あたしも迷わず定食の方にしてる筈よ。
「随分と小さいおにぎりだな。そんなんで腹減らないのか?」
「これってそう視えるかもですけど、小さなおにぎりを何種類も作ってますのでボリュームは在るんですよ。ほら」
「ほう。そうだな。普通サイズのだと二個ちょいって感じのボリュームか」
「そうなんですよ。最近教わったアイディアなんですけど、素敵なので真似してます。ふふ」
「何でも良いアイディアはどんどん取り入れる
「お褒めに与り光栄です」
お食事中のお話しは本題に掠りもしない取り留めも無い話題に終始して、和やかな雰囲気で大人気の豚汁に舌鼓を打つ。
丼くらいの大きさで深いお椀に具沢山の豚汁が盛付けられ、お野菜もたっぷり入ってボリューム感満点のお品。
具材の里芋はねっとりした食感でお出汁の沁みた大根や人参に薫りの良い牛蒡、お野菜と違うアクセントになる蒟蒻と、ひとつのお椀で色々なお味が愉しめて皆さんが絶賛するのも頷けるわね。
お食事も終わり食器を下げに行ったついでに、セルフサービスの緑茶を二つ持って席に戻ったわ。
「さてと。飯も食って腹一杯になったところで本題と行こうか」
「はい。お願いします」
「そうだなぁ。話しの予想も出来ないから、先ずは神駆絽の話しを聴くの先決だな」
「その通りですね。それではお話しします」
「うむ。頼む。それから上手く話そうなんてしなくて良いぞ。疑問点が在れば質問するから」
「はい。有難う御座います」
こうして課長とあたしのお話しは口火を切られたの。
お昼休みが終わるまで三十分以上は在るから、全部といかない迄も要点をある程度まではお話し出来ると思うわ。
さてっと。どうなる事やらだけど、出たとこ勝負くらいの気持ちでね。
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