四話 後の祭りなんかにしてあげない
後の祭りなんかにしてあげない Vol1
耳障りな電子音が遠くから聴こえて来る。
なんだか身体が宙に浮いてるような感覚で、自分のものじゃないみたいだわ。
この電子音ってどこかで聴き覚えの在るのだけど――
何だったかしら?
「――――さい。――きな……いな。は――くおき……さいってば――」
えっ? なに? 幻聴まで聴こえるなんておかしいわよ。
また前兆みたいな事が起こってるの?
そんな次から次へとあたしに理解出来ない事ばっかり起こらないでよ。
「起きろぉぉぉおおおっ!!」
へっ!? 何なのよっ。
アサ ヨ。アラーム トメテ オキナサイナ。チコク スル ワヨ。
おはよう、クーデレさんが起こしてくれてたのね。ありがとう。
さっきの幻聴もクーデレさんだったの?
ゲンチョウ ダナンテ シツレイネ。
ごめんね。でも助かったわ。またお寝坊したらお願いね。
アタシ ワ アラーム デワ ナイ ノヨ。
イソガシイ ノ ダカラ テマ カケサセナイデ。
忙しいってあたしとお話しして無い時って何をしてるのよ。
ナイショ。
まぁ良いわ。そう云う事にしとくわよ。
さてっ。起きてカーテン開けたら洗顔しましょ。
ベランダ側のカーテンを開け、レースのカーテンを捲ってお天気を確認すると雨が降ってるわね。
こんなお天気の時は湿気で髪が取っ散らかってしまい纏まらないだろうから、いっそのこと結ってしまおうかしら?
両サイドを三つ編みにして後ろでお団子にするシニヨンなら崩れないわ。
問題は時間だけど……
うん。大丈夫そうね。では早速。
洗顔の後にブラッシングついでに、左右と後ろの三つに分け両サイドだけ三つ編みに結い上げる。
そしてポニテより低い位置にヘアゴムを使い後ろ髪を纏めたら、サイドの三つ編みも一緒に巻くようにお団子にして――――完成っと。
お仕事じゃなくお部屋にいるだけなら、バレッタを使ってもっと簡単にしちゃうけど、流石にラフ過ぎるから職場向きではないわ。
結い上がって軽く鏡で確認すると、変な後れ毛も無いからこんなものね。
このシニオンは綾音ちゃんも似合いそうだわ。
今度行った時に結ってあげたら喜ぶかしら?
図らずもまた愉しみな事が増えちゃったじゃない。
小さな女の子に着せ替え人形みたく、色々と着飾らせたくなるママさんの気持ちが解かるわぁ。
お天気も良くなくてちょっと憂鬱な気分だったのだけど、愉しみな事が出来ると心成しか気分も上がって来るわね。
この調子で課長に今後の事をお話しして、あたしがやりたい事の為に少しでも出来る事からして行かないと。
お世話になった課長には申し訳ないけど、避けて通れる路では無いから当たって砕けろって覚悟で相談してみるわ。
愛ちゃんも落し所の視えないお話を、小父さんとするって云って頑張ってるのだから、あたしだってやってやろうじゃない。
『愛ぃ。これからどうする心算なの? 帰って小父さんと顔を合わせるの気不味いならあたしも付いて行ってあげるわよ』
『そりゃぁ、良い気分はしないけど、少しでも話し合わないと何も解決しないでしょ? もう逃げて何となる段階じゃないのよ。一晩経ってお互いに冷静になれたからまた話してみる心算よ』
『そう。いまのあたしには頑張ってとしか云えないけど、出来る事が在るならバックアップするからいつでも云って来てよね。また泊まりに来るのだって全然構わないんだから』
『本当に昨晩は助かったわよ。ありがとう弥生。一筋縄じゃ行かないから一時退避が必要な時はまたお願いするわ』
『水臭い事を云わないで。あたしの方はいつでも構わないからね。遠慮なんてしないと思うけど念の為よ』
『これから弥生が面白い事になるって分かったから、そっちも愉しみよ。私も負けられないわ。それにあの頃みたいに毎日楽しい事を探して行きたいじゃない』
『懐かしいわね。些細な事ばかりだったけど、楽しいものや愉しい事を探して素敵な経験もいっぱいしたわ』
『そうよ。だから弥生も確りプランを練りなさいよ。そっちは私がバックアップするから。これはある意味ギブアンドテイクね』
『昨晩のお話しだと、あたしが
『勘違いしないでよ。私に出来る事はバックアップするけど、実際に動くのは弥生なんだから、頑張るのもあんただって事は忘れないようにね』
『その通りね。あたしも愛に負けられないから一歩ずつ進めて行くわ』
あれから連絡は来てないから、お話し合いもまだ平行線って事よね。
一朝一夕で進展するお話しでもないし、心配だけど愛ちゃんを信じてあげるしか出来ないわ。
そしてあたしは自分の出来る事を精一杯する。
そう。これよね。
今日、出社したらまず課長の予定を聞いて時間を取って貰い、相談する事が最初の一歩になるのよ。
頑張れぇ。あたしっ。
うん! 頑張っちゃうわよぉ。
な・ん・て・ね。
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