鮮明な記憶は翼を広げ Vol5
とっても美味しそうにソフトクリームを食べてる姿は、どこか小動物のような愛らしさに溢れて眺めてるだけでも飽きないわね。
食べてる時にお行儀は悪いけど、カシャカシャって運動会を観に行った保護者のような気分でスマホに収めるあたしです。
双子ちゃん達は慣れてると云うか流石と云うか、少し食べては阿吽の呼吸で三種類のソフトクリームを入れ替えるのだから驚きだわ。
二人共示し合わせる素振りも無くアイコンタクトすらして無いのに、完璧なタイミングでソフトクリームが周ってるのよ。
ちょっと違うかも知れないけど、椀子蕎麦の給仕さんみたいに間髪入れずって形容をしたくなるし、お餅つきの合の手を連想してしまう。
想像するだけでも凄いでしょ。双子ちゃんって皆こんな感じなのかしら?
その光景に圧倒されると云うか、いつまでも視ていたいって思ちゃってあたしは手を伸ばすのも忘れてしまいそう。
冷たいから食べ過ぎてお腹が冷えたり、壊したりしなければ良いのだけど……
あたしの分なんてどうでも良いけど、そっち方が心配よ。
双子ちゃん達はソフトクリームを無我夢中で食べ終わると、紫音ちゃんがあたしにこんな風に聞いて来たの。
「おねぇちゃん。こんど いつ くる?」
「そうねぇ……三週間だから二十日くらい経ったらかなぁ」
「はつか? にじゅう の こと?」
「あらっ。良く知ってるわねぇ。そうよ二十の事を二十日って云うのよ」
「ねぇね、なんでも しってりゅ。おりゅこ……あたま いいの」
「綾音ちゃんは偉いのねぇ。さっきの事をちゃんと覚えていて云い直したのね。良く出来ました。ふふ」
「弥生ちゃん、ごめんねぇ。綾音ったら何でも真似したがるから、突然変な事を云っちゃうのよ」
「彩華さん気にしないで下さいね。可愛らしくてあたしも愉しんでますから」
「そぉ? それなら良いのだけど。もし気に障ったら遠慮しないで叱ってね」
「気に障るだなんて無いと思いますけど、教育上好ましくなかったらそうしますね」
「私の眼の届く所は私が叱るけど、そうじゃない時はお願いね」
「まぁ、なんだぁ。あたしらも気を付けて物を云わないといけないねぇ。自分でも気付かない内に変な言葉を使ってしまわないようにって事さね」
「お義母さんの云う通りだわ。私も気を付けないと駄目ね」
少し自覚が在る璃央は聞き役に徹し、火の粉が降りかからないように気配を薄くしている。
そして何となく視線を泳がしてると、綾音が何か面白い事でも閃いたように紫音にそっと耳打ちする様子が眼に留ってしまう。
その事に気付いてるのは璃央だけらしく、普段通り素っ気ない態度を装い聞き耳を立てる。
『ん? こいつ達また悪戯でも思い付いたのか?』
「しおねぇ。にじゅう でしょ。だから しおねぇが さいしょ かぞえるの。じゅう かぞえたら わたしの ばんよ」
「いいよ。あやねが かぞえおわったら おねぇちゃん くるんだよ」
「それでね。じぃじに おはなの わっか おしえて もらうの。ねぇね あげりゅの」
「おはなの わっか? じぃじ くれた あたま のせる わっかのこと?」
「そうよ。ねぇね きたら あげりゅのよ。ないちょよ」
「うん。ないしょね。しぃぃぃ」
『あぁ、それって、前に慎爺が暇つぶしに編んでコイツ達にあげた花冠の事だな。悪戯の計画でもないし聴かなかった事にしとくか』
最初は悪戯の計画でも相談してるのだろうと高を括り、もし度が過ぎるようなら事前にその芽を摘んでしまおうと考えていた璃央は、どうやら内緒話は弥生へのサプライズだったと解かり知らない振りを決め込む事にした。
もしかしたら本当に透真より弥生ちゃんに懐いてるのじゃないか?
まぁ、そうなったらなったらで透真のヤケ酒くらいには付き合ってやるさ。
これでまた透真の奴を揶揄うネタになるんだから悪くないな。
その前に俺は、
ちゃんと間に合わせてやるから、無邪気にサプライズでも考えてると良いさ。
「こらぁ。紫音に綾音。ひそひそ話なんかしてぇ、悪戯の相談しちゃ駄目よ」
「ママ ちがうよぉ。イタズラしないもん」
「「ねぇ~」」
「これ こどもの おはなし なのよ。おとな ダメ なの」
「子供のお話しなんて聴いた事もないわよ。良い? 悪戯したらお仕置きだからね」
ソフトクリームも食べ終わって二人とも満足したみたいね。
全然気が付かなかったけど、ひそひそ話なんてして飽きちゃったのかしら?
おしゃまさんだけど、まだ小さいから興味が色々移るのは仕方のない事だわ。
それにしても、彩華さんは気配りが行き届いていて感心する他ないわね。
きっとどんな時でも、眼の端に紫音ちゃんと綾音ちゃんを置いてるんだわ。
そう考えるとお母さんって大変なのね。
随分前にあたしの母さんが云ってた事が在ったわね。
『子供を産んだだけでは母親にはなれないのよ』って。
『子供を産んでから母親になって行くのもの』なんだって。
あの時は実感が湧かなくて理解出来なかったけど、彩華さんを視ているとそれが真実なんだって解かる気がするわ。
やっぱり先達から学ぶ事って多いって思うわね。
機会が在ったら、母さんにこの事をお話しをしてお礼を云いたいわ。
でもあの時のお話しには、もうひとつ蛇足が在ったのだけど……
『父親はどうなのかは知らないけど』って。
母さんらしい照れ隠しなのは知ってるけど、それを云わなければとても含蓄の在る尊いお話で締め括れたのに。
残念な母さんだわ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます