鮮明な記憶は翼を広げ Vol3
「ねぇね。わたし これよっ」
「わたし こっち なんだ」
「どれどれぇ。『アニゆき』と『クラウドダック』かぁ。ネズミィーが好きなのね。あたしも大好きよ」
「ねぇねに みせて あげりゅわね。しおねぇと いっちょよ」
「わたしも わたしもぉ」
「紫音ちゃん、綾音ちゃんありがとうね。こんど一緒に観ましょ」
双子ちゃん達はそれぞれにお目当てのパッケージを両手で掲げるように持って、あたしに自慢するみたく視せて来るのよ。
そして大事そうに持ったままキラキラした瞳で、だけど少しソワソワして。
遅れてゆっくり歩いて来る彩華さんと師匠を待ってる姿は『もう待ちきれない』って全身で訴えてるようだわ。
「ママァ。これっ」
「わたし これよっ」
「どれどれぇ貸してみて。あぁ。これねぇ。これなら良いわよ。それじゃ……はい、これ。在った所に戻してらっしゃい」
「「はぁ~い」」
彩華さんは手熟れた手つきでサンプルのパッケージからそれぞれカードを抜き取ると、二人にパッケージを返して元の場所に戻すようにって指示したわ。
二人共ちゃんと理解してるみたいで素直に従って、それぞれに元のディスプレイラックへ戻しに行く。
最初から迷わずこのラックに直行してたから、いつもこんな感じでお買い物してるのだわ。
「紫音ちゃんと綾音ちゃんがネズミィーが大好きなのは不思議では無いのですけど、マッキーとマニーちゃんでは無いのが謎ですね」
「それねぇ。マッキーとマニーちゃんはもうボックスセットで持ってるのよ。お義父さんと透真さんのプレゼントって一番メジャーなのに落ち着いちゃうから。あの娘達もそれを知ってて自分達で選ぶ時は違うのにしてるみたいなの」
「それは賢いですねぇ。しっかりしてます。ふふ」
「それぇ『ちゃっかりしてる』の間違いよぉ。ふふふ」
「男連中は何とかの一つ覚えってやつだ。それしか買ってやらないんだから学習しないにも程が在るさね」
師匠は容赦なく袈裟斬りに一刀両断したわ。
お祖父様と透真さんが『ぐほっ!』って云いながら倒れる姿が眼に浮かぶようね。
そして璃央さんは少し横を向きながら『マッキー』とか『マニーちゃん』ってワードが微かに聴こえるから、プレゼントリストから削除してるに違いないわね。
きっと、そうよ。
双子ちゃんがパッケージをラックに戻すのを待ってから、皆でキャッシャーのカウンターの方へ移動する。
お会計は師匠がするって事になったわ。
璃央さんが持ってる雑誌も一緒に会計したのだけど、アルバイト代って称したから見張り番してるのはもうバレバレなのよ。
悪戯を視つかった時みたいな顔してバツが悪そうだったけど、また次の時も同じ事をするに決まってるわね。
あたしは期待を込めて『今度はもう少し上手くやるんだぞぉ』って心の中でエールを贈ってあげましょ。
お会計を済ませ商品を受け取ると、彩華さんは持っているショルダーバックから小さめのリュックサックを二つ取り出したの。
そしてDVDを一枚ずつ入れてから紫音ちゃんにはオリーブ色のを、綾音ちゃんには赤いバックを背負わせると『自分のなんだから自分で持つのよ』って優しく云ったわ。
二人とも素直に『はぁ~い』って良いお返事と共に頷き、そして嬉しそうにする様子は何とも印象的で輝いて視えたわね。
師匠の『喉が渇いたからフードコートで一服しよう』って提案にショップを出て移動する事になった。
大人が四人と子供が二人の大人数で歩いてると、何となく大名行列のような感じがしちゃったのは内緒。
フードコートはお昼ご飯の時間を外れてるのと平日と云うのも在って、テーブル席は空席の方が多かったわ。
周りに座ってるお客さんが居ない大きめのテーブル席を確保出来たのは理想的ね。
あたし達大人四人のオーダーは直ぐに決まったのだけど、紫音ちゃんと綾音ちゃんは真剣で難しい顔をしながらすごく悩んでるわ。
ソフトクリームなのは決まってるけど、チョコとストロベリーとバニラの三種類をどれにするか検討中なの。
二人で半分コするのは確定してて、でも食べられるのは二種類になっちゃうから真剣さが尋常じゃないわ。
それを相談しながら決めようとするのだけど、なかなか踏ん切りがつかないって感じでコロコロと表情を変えながら可愛らしく悩んでるから、あたしはいつまでも視ていたくなるわね。
でもそろそろ決めないと叱られちゃうのも可哀想だし、ここはあたしが助け舟を出す事にしたのよ。
「ねぇ。紫音ちゃん、綾音ちゃん。二つだから悩んじゃうのよね? あたしもソフトクリームにしたら全部のお味を食べられるわよ。でも半分コじゃないから少しずつ減っちゃうけど良いかな?」
「うん。いいよぉ」
「ねぇね おりこうしゃんね。すごいのよ。ぜんぶの たべたいの」
「こらぁ。綾音。お姉ちゃんに向かってお利口さんは駄目でしょ。それは自分より小さい子に云う言葉なの。分かった?」
「はぁい。ねぇね。ごめんなしゃい」
「良いわよ。大丈夫。でも今度からは叱られないように気を付けようね。ふふ」
こうして皆さんのオーダーが決定したので、あたしと彩華さんの二人でカウンターを周ってオーダーを揃える事になった。
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