鮮明な記憶は翼を広げ Vol2
皆さんがとっても暖かくて居心地も好くて、何より愉しかったのよ。
あたしがどうしたいかなんて決まってるわ。
その為にクリアしなければならない事をひとつひとつ積み上げて行けば必ず……
こんな事を考えながら、あのツーリングでスマホに撮り溜めた写真を視ているの。
こうして改めて視ると、紫音ちゃんと綾音ちゃん写ってるのが圧倒的に多いわ。
何となくそんな気はしてたけど、こんなに撮ってたなんて気付いてなかったのよ。
でもみんな可愛らしく写っていて惹き込まれてしまう――――
『ママ わたし アレみてきて いい?』
欲しい玩具がなくてDVDのお店に着いたら直ぐに、我慢できなった綾音ちゃんが云ったのよね。
きっと最初からアニメのDVDがお目当てだったのだと思うけど、仲良く紫音ちゃんと綾音ちゃんの二人だけで探しに行ったの。
璃央さんは後ろからくっついて行って遠巻きに見張り番してたけど。
「あやねは なに しゅるの?」
「わたしは『ネズミィー』決まってるの。おひめさま だもの」
「じゃぁ わたし アヒルさんにする。クラウドダック。あやねも みたいよね?」
「わたしも しおねぇに みせて あげりゅわ。アニゆき は すてき にゃんだから」
「ママが いいって いったら じゃんけんだよ」
「どっちが さきか しょうぶねっ」
気付かれないようにそっと着いて行った璃央は、夢中で相談する紫音と綾音の会話を『いつもの事だな』と聴き流し、見張るのに都合の良い定位置である雑誌のラックを目指した。
誰が視ても不審がられないカモフラージュの為、毎月購入してる月刊誌を手にしてパラパラとページを捲る。
記事を眼では追っているが全く頭に入って来ないのもいつもの事。
少し雑誌を眺めては視線を紫音と綾音に向け、異常がないか確認するとまた雑誌に視線を落とす。
こんな事の繰り返しだから記事の内容など頭に入る訳はなく『どうせ買うのだからいつでも読める』と割り切って文字列として眺めている。
『俺も相当な過保護だわ。これじゃ透真を笑ってられないよな』
あたしは時々、紫音ちゃんと綾音ちゃんの方へ視線を向けるとDVDのパッケージを視ながら、パァっとお華が咲くようにニコニコしたかと思うと一転して難しい顔して悩んだり、コロコロ表情が変わるのが可笑しくてにまにましちゃってる。
両手に持ったパッケージの表裏を交互に見比べ、一生懸命に吟味してるのよ。
まだ漢字は読めないだろうからイラストで選んでるのだと思うけど。
そして璃央さんは……
また二人の居る方をチラチラ視てるわね。
あっ。また視線が合った。
素知らぬ振りして直ぐに雑誌に視線を落とすけど、バツが悪そうな横顔をしてるのはバレバレよっ。
もうここまで
「璃央君って可笑しいでしょ? きっと私達にバレてるって思ってる筈なのに、素っ気なく雑誌のラックに行って来るなんて言い訳して見張り番するのだもの」
「そうですよねぇ。もう何回もあたしと視線が合ってるのに、その度に慌てて雑誌に眼を落とすんですよ。笑っちゃいますね。ふふ」
「まぁ。璃央なりの抵抗なんじゃないかい? 透真みたく明け透けに過保護じゃ無いってパフォーマンスなのさ」
「そのパフォーマンスも透真さんにしか通用してないけどね。お義母さんも私も随分前から見張ってるんだって知ってるんだから」
師匠も彩華さんもそしてあたしもだけど、視線だけは双子ちゃん達か璃央さんに向けたままお話ししてるの。
声のトーンから察すると、師匠は呆れ半分に彩華さんは揶揄い半分にって感じでお話ししてるわね。
そんな璃央さんと双子ちゃん達を遠巻きに眺めてるあたし達も、きっと同じ穴の狢なのだわ。
こんな井戸端会議をしてると、紫音ちゃんと綾音ちゃんがこっちへ戻って来る様子に気が付いたの。
その後ろには璃央さんもぴったり付いて来るのだから、もう笑いを堪えるのがやっとよ。
そんなあたし達を知ってか知らずか、璃央さん的にはカモフラージュの心算だと思うけど雑誌を手にして辻褄だけは合わせてるみたいね。
「ママぁ。きまったの。わたしと あやね一コずつ いい?」
「それじゃ、選んだのをママに視せるのよ。行きましょうか」
「「うんっ」」
「ねぇね。こっちよ。はやくぅ」
「りおにぃも おねぇも もっと はやく くるのぉ」
「あ~ん。そんなに急がないでぇ。DVDは逃げたりしないわよぉ」
「いいの。だからはやく」
「ねぇねに みせりゅのよ。はやく」
紫音ちゃんと綾音ちゃんに引っ張られるように、あたしと璃央さんはDVDのラックに連行されました。
もうじっとしてるが歯痒いのね。
可笑しくなっちゃうけど可愛らしくて好いわ。ふふ。
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