謎の存在Xと〇〇 Vol3


 クーデレさんに確認して良かったわ。

 これはあたしの単純な妄想じゃないって証明だもの。

 〇〇は言語ですらない何かふわっとしたものなのね。

 きっとあたしが〇〇と出逢えた時にインスピレーションで感じるのが正解なのよ。

 だからその時までお預けって事なんだわ。

 ふふ。これでまた愉しみな事が増えたじゃない。


 

「ねぇ。ふっとした拍子に我に返るとやっぱり落ち着かないから戻して欲しいのだけど」


「そんなの気にする事じゃないし、可愛らしいから新鮮な気分でしょ?」


「可愛いって云ってくれるのは悪い気はしないけど、こう云うのは紫音ちゃんや綾音ちゃんみたいな小さな娘の特権だからあたしじゃ無理が在るじゃない」


「アタシが愉しいからこのままで良いと思うわよ」


「クーデレさんの玩具にしないでよっ! もう戻す気がないみたいだから諦めるけど、せめてもう少し大人っぽくしてくれない?」


「まぁ、少し待ってくれればそのくらいの譲歩はしてあげなくもないかな……手間だけどしてあげるわ」


「いま手間って云った? 云ったわよね? 勝手にクマにしておいて、なんて言い草なのっ」


「手間なのは事実だし、貴女のリクエストに応えるには段階的にしなくちゃならないのよ」


「そんなに手間なら最初からクマ耳なんて着けないで! と云ってもクーデレさん次第でエスカレートされても困るから待つわ」


「賢明ね。ちょっと魔法を組み替えるから大人しく待ってるのよ」


「はいはい。それじゃぁお話しの続きだけど、あの時のお話しを整理すると〇〇があたし達を選んで生れるって云ってたわよね」


「そう云ってたわ。それで?」


「スピリチュアルな事だから、現代の科学や医学では説明出来ないじゃない。だからそこから切り離して考える必要が在ると思うの」


「それは当然だと思うわよ」


「あと、まだトンネルの中に居るって。それってどう思う?」


「そのままの意味で良いのじゃないかしらね。貴女はまだ妊娠してないのだから、お腹に宿るまではトンネルの中って表現で合ってると思うわ。これは重要では無いのかも知れないけど、トンネルの出口はお腹に宿る事なのか物理的に産まれて来ることなのかは判断出来ないけど」


「そうね。それは解らないけど、どちらでも構わない気もするわね」


「整理すると益々謎の存在Xだっけ? それが〇〇にしか思えないのよ」


「そうよねぇ。〇〇があのイメージを全部、あたしに視せてるって考えるのが自然よね。他に考えられるのは漠然として神様って事になっちゃうじゃない」


「神様って括りだと『どの神様よ』ってなるから合理的ではないわね」


「仏教も含めて考えると仏様まで広がってしまうわね。それは流石に広すぎるわ」


「仮に神様や仏様の仕業だとしても、それを特定するメリットも必要性もアタシは感じないのよ。もっと云えば〇〇が産まれて来ても特定する必要ないと思うわ」


「それはあたしも同感だわ。だって〇〇があたし達を選んで逢いに来てくれるのだから過程には拘る必要はないのよ」


「そうね。それじゃぁ、このお話しはその時が来れば解かる。そう云うことで問題無いわね?」


「それで良いわ。考えたところで仕方ないし、例え特定出来てもそれが大きな意味を持つとも思えないもの」


「アタシも同意見ね。貴女がよっぽど退屈して暇つぶしに考えるのは良いけど、その程度のプライオリティして置きなさい」


「了解したわ。ここまであたしの仮説を元に整理してみたけど、これで良いわよね?」


「良いのじゃないかしら。言語でもないものに執着して考えたり悩んだりするなんて時間の浪費でしかないのだから、いまはもっと考える必要が在る事が多いでしょ?」


「その通りだわ。あたしがいま一番に考えないといけない事は、どうやって向こうで生活基盤を築くかって事よ。それにはお仕事の件が最優先になるもの」


「貴女が変な事を考えたり悩んでくれないのはアタシとしても助かるわ。意外と頑固だから方向修正させるのって大変なのよ。それを省けるだけでアタシは他のタスクに割り振れるもの」


「他のタスクってなによ? 重要な事なのかしら?」


「貴女はまだ知らなくても良い事よ。いままで通りその時になったら解かるから」


「そうやってクーデレさんはあたしを操ってるのね。気を付けなきゃだわ」


「勘違いしないで欲しいのだけど、操ってるなんて心外でアタシは導いてるだけよ」


「物は云い様って事で同じじゃない」


「うーん……これは見解の相違だからいつまで経っても平行線ね。止めましょ」


「そうね。あの夜の再現はしたくないわ。違う意見も在るって事で良いわね?」


「これからも平行線のお話しになったら、アタシもそれで行く事にするわ」




 あの夜の喧嘩腰の対話から随分と理解し合えたわよね。

 これも紫音ちゃんと綾音ちゃんのお陰かも知れないわ。

 だって一卵性双生児は、元々一つの細胞から分かれて違う個性に成長するのでしょ。

 あたしとクーデレさんは、双子のような関係性って考えれば意見が違っても冷静で居られるわ。

 あの夜は突然だった事も在って混乱してたし、あたしの中に居るのだから当然あたしと同一って考えてしまってたもの。



「昨日、両親と愛ちゃんに貴女の本心を話したでしょ。それを纏めて置くのに、これからの事を優先度が高い順に並べて整理してみない?」


「そうね。あたしも勢い任せで打ち明けた感が在るから、きちんと整理して置きたいわね」


「あらっ。素直で良い子じゃない」


「だ・か・らっ。その学校の先生みたいな口調で云わないでよ。もぉ」

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