謎の存在Xと〇〇 Vol2

 これってクーデレさんなりの歩み寄りなのね。

 不器用過ぎてちょっと笑っちゃうけど。ふふ。

 でもあたしを映す鏡でも在るのよね。

 これは反面教師として真摯に受け止めて是正しないと駄目だわ。



「何が是正よっ。全部聴こえてるのだから、反面教師とかって勝手な事ばかり云わないのが得策よ」


「あたしが想った事も全部聴こえてるの? 不味いわねぇ。少しは自重しなさいプライバシーの侵害よ」


「プライバシーも何もアタシと貴女は切っても切り離せないのだから仕方のないのよ。諦めなさい」


「早速意趣返しで来たわねぇ。まぁ良いわ。あたしも仲良くしたいもの」


「そうね。永い付き合いだしこれからもずっと続いて行くのだから、この辺りで手を打ちましょうか」


「オッケー。喧嘩した訳じゃ無いけど仲直りね。それじゃぁ本題に入ってくれて良いわよ」


「その前にちょちょいって。あらっ可愛い」

 

「えっ? なに何? なんなのよ! これっ」

 

「貴女クマ好きでしょ? 今日だってずっとクマのプリントTシャツ着てたじゃない」


「だって実家に置いてある着替えって、もう着ないのばっかりだから」


「そうね。一時期クマに嵌まって一生懸命に集めてたものね」


「もう高校の時のお話しだから時効は成立よっ」


「アタシは忘れて無いし、どうせ実害もない夢の中だけなんだから愛ちゃんと久ぶりに逢った記念の想い出にしなさいな」


「クーデレさんの云う通りだけど釈然としないから戻してよ」


「考えておくわよ。それで本題に移るけど、愛ちゃんとお仕事の計画を相談しながら練ってたのは知ってるから省いて、貴女のしたい事ってそれだけじゃ無いでしょ? お仕事の件は厭くまでも生活基盤を築く為の前提条件でその先はどうしたいの?」


「その先ねぇ。ぶっちゃけ何も考えて無いわ。現状いまはただ、師匠や彩華さんの傍で暮らしたいって思ってるだけよ。それだけじゃ駄目なの?」


「アタシに隠し事なんて出来ないのだから、そんな通り一遍の事を云っても無駄だって解って無いようね」


「じゃぁ逆に聞くけど、隠し事が出来なくて知ってるならワザワザ聞く必要ないでしょ。それは何で?」


「貴女の覚悟を知りたいのよ。この先、貴女が手の届きそうな所で逃げ出そうとか起ち止まってしまうかもでしょ? その時にアタシは貴女の背中を押すのかしたい侭に任せるか判断しないといけないの。その時になって迷わないように、いまの時点での本当の望みへの想いを知って置く必要があるのよ」


「本当の望みねぇ……どれも本当の事なのよ。それは解かるでしょ? でもクーデレさんが聞きたいのはそんな事じゃ無いのも解ってるわ。さっき愛ちゃんに指摘された通りなんだとあたしも思うけど、でもそれだけじゃ無い何かも在るのよ」


「綾音ちゃんと一緒に眠った二日目の夜に視た夢の事なのでしょ? あの子。〇〇が来てメッセージを残して行ったあの夢よ」


「あの夜の事は眠って居たから解らないって云ってたのに、やっぱり知ってたのじゃない。人が悪いわよ。全くっ」


「あの時はアタシも混乱してしまって取り乱したの。悪かったって思ってるから赦してよ」


「仕方ないわね。でもこれが最後よ。お話しを戻すけど、あたしにとってはあの夢だけじゃ無くて、偶にフラッシュバックするように視るスピリチュアルなイメージも全部含めてあれが何なのか確かめたいって想ってるの」


「アタシは全部が繋がってるのだと考えてるけど、貴女はどうなの?」


「確かに全てが繋がってるって、そう考えるのが一番スッキリするし本当にそうなんだって想うわね」



 あのバイクツーリングで視たノイズ混じりのイメージは、クーデレさんの仕業では無くてもっと別の……

 もっと、こう……高次元の存在Xが送って来たような感じで、強いて云うならあの子〇〇があたしに観せてるのだと仮定するとパズルのピースが綺麗に嵌まっていく気がするわ。


 これまであたしは視た事もないし、クーデレさんも理解出来ないと云う事は忘れてしまった事でも無いのよね。

 唐突で漠然としているし荒唐無稽なのかも知れないのだけど、考えれば考えるほど璃央さんが無関係に想えないの。

 璃央さんと物理的な距離が近くなって行くに従い、あのイメージを頻繁に視るようになったのだから。

 極めつけには〇〇が『出逢ってはいる』って云ったのよね。

 まだお互いに気が付いてないだけって。


 本当は〇〇が謎の存在Xなのかも知れないわ。

 〇〇は名前だってあたしもクーデレさんも共通する認識だけど、言葉にしようとすると夢の中ですら発音が出来ないの。

 まるで日本語では無い……いえ、言語ですらない気がするわ。

 〇〇とはちゃんとお話しも出来たし、名前以外は思い出してもちゃんと発音も出来てるから全てが謎の言語では無いのよ。


 そう云えば、あの夜の夢の中であの子は名乗ったのだったかしら?

 ううん。違うわ。

 あたしはあの子の名前を知っていて当然のように呼んでいたわ。

 あたしの意識に耳を傾ければ名前は解るの。

 考えちゃうとモヤモヤするけど、あの子を呼ぼうとすると自然に〇〇って云えるのって不思議だわ。

 だからこそ不思議過ぎて混乱するから、これについてはいまは考えず棚上げしてもっと頭の中が整理できた時にまた考えれば良いわよね。

 きっとまだ必要ないから発音出来ないって理解して片隅に置いておきましょ。



「ねぇ。〇〇とお話しした夜の事は覚えてるのよね?」


「覚えてるけど、誤解しないように念の為に云っておくと、あれはアタシが貴女に視せたのじゃないわよ」


「そんな事じゃないのよ。あのね、あの夜に〇〇としたお話しをクーデレさんは理解出来てる?」


「普通に〇〇とお話ししただけでしょ。アタシが理解出来ないと想ってる方が不思議よ」


「そうじゃないのよ。普通に〇〇って呼んでるけど、発音出来ない事に気付いたから、お話し全部があたし以外には理解出来ないのかって想ったの」


「そう云えばそうねぇ。アタシもいま気が付いたわ。〇〇って言語じゃないわね」


「そうなのね。解ったわ。ありがとう。これであたしの仮説が正しいって確証が持てたわ」

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