第二章 零れる星の行方

一話 謎の存在Xと〇〇

謎の存在Xと〇〇 Vol1

 すっかり話し込んでしまい、とっくに日付が換わってるわね。

 愛ちゃんとお話しするのは愉しくて時間を忘れる程だけど、明日もお仕事はお休みと云っても生活のリズムを崩す訳にはいかないわ。

 名残惜しいけど、そろそろお布団に入らないといけない時間。

 もう学生時代みたく無理しちゃうと、お肌もカサカサになってリカバリーするだけでも時間も手間も掛かるんだから嫌になっちゃうわよねぇ。

 紫音ちゃんや綾音ちゃんのように若かったら、何もしなくてもツヤツヤのピカピカなのにぃ。羨ましいわぁ。

 でもあの双子ちゃん達は『ぷにゅぷにゅ』って擬音も含まれるわね。

 まるで猫ちゃんの肉球みたいにっ。ふふふ。



「もうこんな時間よぉ。そろそろお布団に入らないと、明日の朝に鏡を視ながら後悔する事になっちゃうわ」


「いっけない。もうこんな時間になってたのっ。弥生と話してると時間が経つのも忘れちゃうわね」


「あたしもいま同じ事を考えてたわ。高校生の頃はお互いのお家でよくお泊り会してたもの」


「懐かしいわねぇ。あの頃は朝まで二人でお話ししてたわね。懐かしい……ってまだ数年前なのにっ。いまそんな事したらエステ代が掛かって仕方ないから無茶できないわぁ。ちょっと睡眠不足になっただけでもお肌がカサカサになるんだから嫌になる」


「そうそう。あたしもお化粧のノリが悪いと、ファンデをバターナイフでパテみたいに塗っちゃおうかって本気で考えるくらいなんだから」


「嫌だぁ。そんな事したら乾いて鱗みたいにボロボロ剥がれ落ちるわよ。冗談にも程が在るっ……もぉ」


「考えるだけなんだからそのくらい良いじゃない」


「弥生ならやっても不思議じゃないから恐ろしいのよぉ」


「いくら何でもそこまでしないわよっ。失礼しちゃう」


「そんな事よりお布団敷く準備しましょ。弥生、テーブルのそっちの端を持ってよ」


「そうね。明日、本当にファンデ厚塗りしないといけなくなる前に、お布団敷いて眠りましょ」



 あたしと愛ちゃんでローテーブルを持って壁際に寄せ、お布団を敷くスペースを作ったわ。

 このお家を出て独り暮らしする前は、お泊り会の度にしてた慣れた作業なの。

 ベッドがシングルじゃなくてもっと広ければ一緒に眠るのだけど、大人二人だと流石に狭いから愛ちゃんはお布団で寝て貰うの。

 おつまみに作ったカナッペも綺麗に無くなり、空いたお皿とタンブラーそれにビールの空き缶を一緒にキッチンに下げに行ったわ。

 シンクで洗い物を済ませると麦茶のボトルをお部屋に持って帰って来たわ。


 お互いに『おやすみぃ~』って軽くご挨拶してお部屋の灯りを暗くするとベッドに潜り込んだの。

 深夜の静かなお部屋ですぐに愛ちゃんの規則的な寝息が聴こえて来るわ。

 やっぱり少し疲れてたのね。

 小父さんと口論になってしまったのだから無理もない事……

 同じお話し合いでも、出口が視えないと神経って擦り減るのよね。

 今夜はゆっくり眠って。愛ちゃん。



「やっぱりアイちゃんは少し疲れてたようね」


「クーデレさん? 起きてたの。珍しいわねぇ、こんな時間に」


「まぁ、疲れた顔をしてたからアタシも少し心配してたのよ」


「優しいわね。ふふ。ありがとう。でも何で普通にお話ししてるの? カタカナじゃないのね」


「これは貴女の夢の中だからよ。理解出来たかしら?」


「了解よ。理解したわ。何か忠告でも在るのでしょ? 聴くからどうぞ」


「察しが良くなったわね。流石アタシの一部だわ。理解が早くて宜しい」


「宜しい。ってねぇ……学校の先生じゃないんだから。全く……ってチガァァそうじゃなくて! あれは何の心算なのよっ」


「あれって何のこと?」


「あれはあれよぉ。さっきアルバム視ながら三人でお話しした時の事よ。あの写真はアルバムから剥がして別の所に隠してた筈なんだけど!」


「あぁ、あれのこと。いつか愛ちゃんとこんな夜を過ごすかもって想ってたから、貴女には内緒で戻したのよ」


「クーデレさん、それってあたしを乗っ取ったって自白してるのと一緒よ! 怖過ぎるんだけど……」


「貴女の意識にフィルターを掛けて極短時間だけ無意識状態にしただけよ? だから乗っ取りなんてして無いし、貴女が自分で戻したって事になるのじゃないかしら?」


「それは……そうとも云えるけど、クーデレさんがあたしの意識にフィルター出来るなんて聴いてないわよ。もしかしてちょいちょいしてるとかって無いわよね?」


「安心して、あの時だけよ。つい出来心が疼いたの。お望みが在ればまたしてあげても良いけど?」


「ちょっと安心したけど……『またしてあげても良いけど?』って何よ! あたしが望む事なんて無いからもうしないで。お願いだからぁ」


「まだ隠してる写真は何枚も在るわよね? 今度のお泊り会用にネタを仕込んで置きましょうか? アタシのメモリーを見縊みくびらないで。まだストレージに貴女の黒歴史は山のように在るのだから」


「やめてぇぇぇぇえええ!」


 こんな自由過ぎるクーデレさんとは、あの夜以来ちょいちょいお話しするけどカタカナじゃなく普通にお喋りするのはあれから始めてね。

 何か重要な事をお話しする心算なのかしら。



「そろそろお話しを進めても良いかしら? まず前提の確認で、貴女は向こうで暮らしたいって考えてるのよね?」


「そうね。母さん達や愛ちゃんに云った通りよ。聴こえていたと思うから説明は要らないでしょ」


「それは大丈夫だし解ってるわ。それに対して反対したりしないから安心して良いわよ。アタシがお話ししたいのは貴女があっちで何がしたいかって事なのよ。そこは間違えないでくれるとスムーズにお話し出来ると思うわ」


「うん。承知してる。クーデレさんが反対して無いのは解かるから。これって以心伝心でしょ」


「まぁそうね。その前にクーデレさんって止める気はないの? アタシは一度もデレた事なんて無いわよ。愛ちゃんにもそう紹介したでしょ。心外だわ」


「愛ちゃんだって云い得て妙って云ってたじゃない。諦めなさいよ」


「デレて無いのに『クーデレ』なんて、貴女のネーミングセンスは壊滅的だわ」


「はいはい。解ったわよ。改める気は無いけど、抗議だけはしたって議事録には記載して置くわね。これで良いでしょ?」


「これ以上このお話ししても進展は無さそうだから、今夜のところは勘弁してあげるわよ。でも諦めた訳じゃ無いからリベンジはします」

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