転がり出した思惑 Vol3

 愛ちゃんって昔からこういう所だけは、頼もしいって云うか親分肌なのよね。

 気に入ったらトコトンまで付き合ってしまって、損な事を押し付けられちゃったりするから放って置けないのよ。

 危なっかしくて心配になっちゃうわ。

 でもそれを云うとあたしの方がよっぽど危なっかしいって云われちゃうけど。

 そんな事よりこの件ではお互いに社会人なんだし、特にお金に関して曖昧にしては駄目な所はちゃんとしないとね。



「相変わらず頼もしいわ。でもこれはお仕事になるのだから管理料って云えば良いのかな? それは請求しないと駄目よ」


「そうね、お互いにお仕事絡みになるのだからそれは当然よね。でもちゃんとサービスはするわよ」


「サービスって? 単純に割引するって事なの?」


「そんな事はしないから安心しなさい。そうねぇ。例えばオプションプランになるサービスが在るとするでしょ。普通なら追加料金が発生するけど、多少ならそのままの料金でやるって感じかな? サービスはお仕事の内容でするものよ」


「愛は直ぐそうやって損する事ばっかり云うんだから、変わって無いわね」


「良いじゃない。私だって気持ちよくお仕事したいのよ。ここからここまでなんて杓子定規にやってたら良いサービスなんて出来ないわよ。なんでも匙加減って云うでしょ。ふふ」


「どんなお仕事でもそう云うのは付き物だと思うけど、損しない程度に程々にするのよ」


「弥生の心配する事じゃないわよ。それに素人が視てたって、どこまでがプラン内でどこからがオプションかなんて分かりっこないもの。あんたがクライアントなら完全に売り手市場なんだから覚悟しときなさいよぉ」


「ふふふ。お手柔らかにお願いします」


「うむ。苦しゅうない。良き計らえっ」


「なぁにそれ。さっきの意趣返しの心算なの? 愛ったら本当に照れ屋さんなんだから」

 


 なんか良いわねぇ。

 愛ちゃんとお話ししてると世の中に溢れてる難題はもっと単純なのかもって想えて来るわ。

 こうした雑談みたいなやり取りでもポンポンと問題が片付いてしまう感じなのよ。

 あれっ? これって師匠があたしに『今晩は家に泊まれば良い』って云って戴いた時と似てる気がする。

 類友ってやつで、愛ちゃんなら師匠や彩華さんとも気が合いそうだわ。



「ウェブページの件はまだ未定だから、先走ってデザインとか創らないでよね。あたしがお料理屋さんを本当に出来るかって問題も在ったりするのだから。いまは手探りでリサーチを始めたばかりって感じよ」


「オッケー。そんなに心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと決まってから目的に適ったページを創る心算だし、それにお店を出す為の必須条件でもないでしょ」


「そうね。先に用意して置くメリットは殆んど無いわ」


「それでぇ。ウェブページの件とは関係なく、どんなラインでバイク屋さんとお料理屋さんを絡ませる気なの?」


「さっき愛とお話ししながら考えた事だからザックリとしか云えないけど、あたしが考えてるのはバイク屋さんと同じ敷地に在るお料理屋さんがコラボする感じね。敷地内にテントを張って宿泊できるキャンプ場スペースを確保して、バイクツーリングのお客さんを呼び込むの。宿泊をするって事は当然お食事もするでしょ。そこであたしの出番ってワケよ」


「悪くないプランだし、コンスタントに集客出来れば商売になると思うわよ。詰めて考えてみる価値は充分に在るわ」


「そうなのよぉ。検討する価値は在るでしょ? でも真冬とかのバイクやキャンプのオフシーズンは閑古鳥が鳴くと思うからそこをどう補うかなのよね」


「確かにそれは考えないと駄目ね。でもバイク屋さんとして何年も営業してるのでしょ? なんとかなるんじゃないの?」


「バイク屋さんと云っても璃央さんは、農耕用の機械や作業車なんかの修理もしてるらしいのよ。だからオフシーズンでもお仕事には困らないみたいだわ」


「そっかぁ。それだとキャンプ場の計画はプラスアルファの部分になるわね」


「あたしもその心算だったわ。お料理屋さんとしてきちんと採算ベースに乗ってる事が前提だと思ってるの」


「お店が軌道に乗ればキャンプスペースの他にバンガローを建てたり、ペンションって構想も夢じゃないわねぇ。愉しそうじゃないのっ。ちょっと真剣に考えて損益分岐点を探しなさいよ」


「バンガローもペンションも発想すらなくて、全然考えて無かったけど面白そうね。まだ思い付きって良いくらいだからちゃんと構想を練ってみるわ」



 急速に案が浮上しただけのまだ妄想のようなものだけど、夢は広がって行くわね。

 バンガローもペンションもお食事は付き物だから、どちらかと云うと宿泊出来るお料理屋さんってイメージだわ。

 キャンプ場にしたって野外でバーベキューするのも魅力だし、グリルや炭をレンタルしたり食材やお料理と併せて『BBQセット』にすれば、バイクツーリングでもお手軽にバーベキューが愉しめるわね。

 他にもう一つくらい売りが在ると良いけど、それはこれからリサーチしてみないと判からないわよね。

 元々はあの場所で透真さんがバイク乗りの集まるバーを開店させる計画だったのだから何かしら在ると思うけど。

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