五話 転がり出した思惑
転がり出した思惑 Vol1
あたしも愛ちゃんに何かお返し出来ないのかしら?
いま何が一番必要なのかなぁ。
やっぱり生活のスタイルが変わるから不安は当然在るわよね。
サポートまでは出来なくても相談や愚痴を聴いてあげる事は出来ると思うわ。
幸い殆んどの事情は把握してるし、探りなんか入れなくても単刀直入に聞いちゃうのが変な勘繰りされる事もなくスムーズだしお話しの論点も明確になるわよね。
「ねぇ、愛ぃ。立ち入った事を聞いても良いかな?」
「なによ。今更ねぇ。弥生と私との間に立ち入った事なんて在るの? 構わないから云いなさいよ」
「その通りね。遠慮なく聞くわ。これから離婚して生活スタイルが変わるけど不安な事って無いの?」
「不安が無いなんて事ある訳ないでしょ。不安だらけって云って良いわね」
「当然よね。あたしに何か出来る事って無いの?」
「いまここに居させてくれてるじゃない。それで充分よ」
「あたしは何もして無いじゃない。愛の愚痴を聴いてるだけよ。その他には何か無いの?」
「そうねぇ。強いて謂えば私の味方で居て欲しいかな」
「あたしが愛の敵になる訳ないわ。少しだけお話しの論点を換えた方が良さそうね」
「ん? どうしたのよ。弥生の意図しない方に話しが進んでるの?」
「そうじゃないわ。アプローチを間違えたから仕切り直すだけよ。それでね。お仕事の件で独立を考えてるのでしょ? それっていまの会社のクライアントさんを引っ張るって事なの?」
「そんな事が出来るわけ無いじゃないの。独立して直ぐにそんな事したらあっと云う間に干されてしまうわ。いまの会社ってそれなりに大手なのよ。クライアントさんだって会社が後ろ盾になるから私を信用するんだし、それが無くなったら惨めなものなのが現実だわ」
「世間ってそう云うものよねぇ。それじゃぁどうやってお仕事を貰って来る心算なの? やっぱり営業攻勢で?」
「営業も掛けるけどウェブデザインってそれなりに時間が掛かるのよ。プラットフォームやフォーマットは作って簡略化はするけど、トップページなんかそれぞれ違うデザインになるしそこに時間取られるから一人だと廻せないわね」
「うん。それは何となく解るわ。以前に愛から聴いてるし。それでぇ?」
「私が狙ってるのは隙間なのよ。例えば中小企業でウェブページの管理に適切な人材が居ない会社って結構在るの。そう云う所の管理委託をメインに安定した収入を確保して、それ以上はプラスアルファとするって感じね」
「なるほどねぇ。蛇の道は蛇? それとも餅は餅屋に聴け? そんな感じなのね」
「流石、弥生ねぇ。察しが良いわ。ウェブページの管理委託ならネット環境が在れば何処に居ても出来るのよ。それこそ世界中の何処に居ても良いって事なの。自由に行きたい所に行けるんだから素敵でしょ」
「素敵だし、それが現実になるなら羨ましいって思うわよ。でもそれが出来るかどうかは別のお話しよね? 安定収入のボーダーにも依るけどそこは視えてるのよね?」
「贅沢しなければ、五十件くらいクライアントを抱えれば事業として収益可出来ると思うわよ」
「それって多いのか少ないのか、あたしには判断出来ないけど……」
「そうよね。私的には少ないわ。結構こう云う需要って在るのよ。現代社会だとホームページの無い企業やお店って信用度が低くなってしまうから、何処も持ちたがるのだけどただ起ち上げて公開しただけじゃ意味が無いの。継続して更新をしないと駄目なんだけど継続するのって難しいのよ。そりゃぁ営業の人間は誰でも簡単に出来るようなアプリを開発してるって謳うけど、時間的な問題で更新が滞るウェブページって多いのよ。弥生も視た事ない? 最終更新が数年前のページとかいっぱい在るでしょ?」
「あるあるだわ。折角調べてそのページに行ってみたら、リンク切れで何処にも飛べないページなんてちょいちょい在るわね」
「そうそう。勿体ないのよ。折角初期投資して創っても放置してたら集客なんて見込めないどころか、ランニングコストを増やしてるだけって事になるの」
「そう云うページを発掘して活かすって事ね。その紹介をして貰う根回しをしてるって事?」
「ほぼ正解ね。正確にはもう時代遅れのデザインで発掘しても集客を見込めないページは、リニューアルを提案してその制作と管理を請け負うって囲い込みよ」
「時間的な問題で放置してるお店って結構在りそうね。物品販売ならカートも設置すれば直接売り上げに繋がる訳だし……確かに勿体ないわね」
「そう云う事よ。需要は在るけど管理委託って人件費も掛かって売り上げも地味だから、大手は出来ればやりたくないサービスなの。管理にはタッチしないで集客出来なくなったら『リニューアルしましょうよ』って提案してそっちの売り上げで廻すの。車の新車販売みたいな感覚で、商品としてホームページを制作するのが実態よ」
「愛ぃ。あたし、一度で良いから云ってみたい台詞が在るのよ。云って良いかしら?」
「えぇ。なになにっ。云ってみなさいよぉ」
「お主も悪よのぉ」
「なぁ~にぃ。それぇ。あははっ。ばっかじゃないのぉ」
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