内緒話は時間も忘れ夜も更けて Vol7

 それにしても愛ちゃんは、あたしが向こうで暮らしたいって云っても全然驚かないのね。

 母さんも父さんもそうだったけど、信用されてる証って考えれば悪い気はしないわ。

 でも何かもうちょっと在るでしょ。

 んー……軽く流されちゃったのかな? そこははっきりさせたいわねぇ。



「あたしが向こうに行っちゃうって云っても愛は驚かないのね?」


「充分驚いてるわよぉ。降って湧いたような結婚話を、弥生がして来るなんてねぇ」


「驚く所はそこなのぉ。違うでしょ。もっと、ほらぁ『寂しくなるね』とか色々と在るんじゃない?」


「そりゃ寂しくなるけど、でもそれは重要じゃないでしょ? 考えてもみなさいよ。今だって電話やメールで話してるけど、こうして顔を視るのは久し振りよ。だったら変わらないじゃないの」


「それはそうだけど……住む場所が離れちゃうのよ。それでも変わらないの?」


「そんなの物理的な距離でしょ? 弥生がどこに住んで居ようと、私達が親友で在る事に何も変りは無いのだから大差ないわよ。顔が視たくなったら逢いに行けば済むことだし。それに私の保険でも在るわねぇ。ふふ」


「なぁによぉ。保険って。あたしが向こうに行く事がなんの保険になるって云うのよ」


「私が離婚して父親と決裂しちゃった時の保険よ。弥生が居れば知らない土地でも心強いじゃない。って云うのは半分以上は抉じ付けよ。本当の理由は弥生が幸せになるなら私は応援するって決めたのよ。って恥ずかしいから云わせないでよねぇ」


「ありがとう。改まって云われると確かに恥ずかしいわね。良いわっ。その時はあたしが愛の受け皿になってあげる。やっぱり離婚ってなったら小父さんとそうなりそうなの?」


「五分五分かなぁ。私だって強硬策は最後の手段って考えてるけど、今のままの膠着状態が続くようだったら仕方ないって思ってるわ。私の人生設計もだけど旦那もまだ再婚できる年齢なんだし、私の父親の為に犠牲になって良いものじゃないわ」


「そうよね。二人の人生設計も絡んでるお話だものね。これは確認なんだけど二人の間では離婚の方向でお話しが進んでるのよね?」


「別れる方向で進んでるわ。私達だけの問題なら明日にも離婚届を提出できるくらいよ。元々お財布も別だし共有財産って云う程のものは無いし、何より子供が居ないのが問題を簡単にしてるわね」


「そう。二人で話し合って問題が無いなら少しは気が楽になるわね。でも離婚しても会社で顔を合わせる事には変わらないでしょ? わだかまりは無いの?」


「う~ん。そこだけが微妙なのよ。蟠りは無いけど会社での立場って云うかなぁ。私が居るとあの人の立場がないって云うか……もしチームが再編成されたら間違いなく私の部下になってしまうから、会社側としても人選が難しいと思うのよね。いま以上にあの人の自信を奪いたく無いからきっと私は会社を辞めて独立すると思うわ」


「愛はそこまで考えてるのね。凄いわ。尊敬する。あんたの事だからもう根回しは始めてるんでしょ?」


「それはやってるわよぉ。当然じゃない。離婚したからってあの人に不幸になって貰いたくは無いもの。それに時間と距離を取ってみれば、また友達くらいにはなれると思うのよ。愛情は醒めてしまったけど友情なら育めるわ」

 


 高校生時代には考えられない内容のお話しをしてるわ。

 あの頃はよく二人で素敵な事や楽しい事を毎日のように探してたわね。

 美味しいケーキのお店だったり、可愛らしい雑貨が並んでるお店だったりと些細な事ばかりだったけど、愛ちゃんと居て凄く楽しかった懐かしい想い出よ。


 今だって愛ちゃんとこうしてお話しするのは愉しいし、気も遣わないから関係性は変わってないけど偶に凄く大人の女性に視えてしまう事が在るの。

 あたしも少しはそう視えてるのかな?

 これはノスタルジックでセンチメンタルな気分ってだけ?


 あの頃のあたしと愛ちゃんは、ずっと一緒に居るものだと思ってたしずっと一緒だったわ。

 でもお互いに就職してからは時間も無くなって、週に数回メールで連絡し合うだけになり実際に顔を視るのは半年ぶりくらいになるわね。

 そうかぁ。あたしが向こうに行っても連絡し合う頻度は変わらないし、逢う頻度だって半年に一度くらいなんだから、物理的な距離が離れるだけって愛ちゃんの云った通りだわね。


 愛ちゃんは言外にあたしの背中を押してくれていたのね。

 こんな親友を持てた事をあたしは誇りに想うわ。


 ワスレタラ ダメ ヨ。

 アタシ ノ シンユウ デモ アル ノ ダカラ。


 うん。そうね。これからはあたし達の親友よね。

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