内緒話は時間も忘れ夜も更けて Vol5
ヤヴァイッ! 愛ちゃんがお説教モードにシフトしたっ。
実は愛ちゃんのこのお説教モードってあたしの天敵なのよ。
だってあたしが何も云えなくなるツボを心得てて、そこをピンポイントで攻めて来るんだから怖いわよぉ。
本当にあたしは『はい』と『わかりました』しか云えなくなっちゃうのよね。
「――ゃよ生、弥生っ。ちゃんと聴いてるの? 解ってるなら返事くらいしなさいよね。もう」
「うん、ごめん。確かに愛の云う事はもっともだと思うわよ。でもね、あたしが納得出来ないのよ」
「納得なんてしなくたって良いの。認めちゃえばそれで済む事なのに、何をそんなに抵抗してるのよ」
「だって璃央さんの事を何も解って無いのだから、それなのにあたしの気持ちがどうかなんて判断しようがないって感じなの」
「さっき自分で云ったでしょうに。お話しの流れで軽はずみに弥生が変な事を云ってしまって、璃央さんを怒らせた時に嫌われたくないって思ったのでしょ?」
「うん。そう想ったわ」
「そんなの嫌だからって、世界の半分は滅ぶとまで思ったのでしょ」
「何も考えて無かったけど、直感的にそう想ったのだから仕方ないでしょ」
「あんたが直感的にそう感じたら、それは恋であって理屈じゃないのよ。相手の事は少しずつ解って行けば良いの。気持ちを大事にするあまりに怖がって理性的に振舞ってもそんなのは邪魔なだけ。だから悩む前に跳び込めっ! ほらっ簡単でしょ」
「そんな簡単に愛してるなんて云えないわよ。そういう気持ちは軽々しく口にして良いものじゃないでしょ」
「えっ? あっあっぁっ――ごめん、弥生。私が前提を間違えてたみたい。あんたのはもう恋じゃなくなってたのね。そっちだったのぉ。そうぉ。ふふ」
「そっちってどっちよっ。恋じゃないってどう云う意味? いままで云ってた事を全否定するって支離滅裂じゃない」
「それは悪かったって思ってるし、私が少し勘違いしてたって事だから許してよ。いまからそれを説明するわね」
「まぁ、許すも許さないもないけど、それで愛の気が済むなら許すわ。それで?」
「あのね。恋って刹那的な過程でしかないのよ。簡単に云うとスタートラインとか始まりの扉って感じかな」
「うん。それで? 聴いてるから続けて」
あたしは時々相槌を打ちながら愛ちゃんのお話しに聴き入ったわ。
少しお話しの論点がズレたり、横道に反れたりしたから要約するわね。
愛ちゃん曰く『恋』とは『愛』に続く路の始まりの扉で、スタートラインになるものらしいわ。
この二つは似て非なる全くの別物とまで云い切ったの。
恋から愛に発展することは在っても、それが逆転する事は無いって。
まぁ、そこには少し疑問を感じたけど、愛ちゃんの持論だから敢えて反論はしなかったわ。
重要なのは、好意やそれに似た感情を持たなければ扉が開く事は無いし、そもそも恋愛対象として興味すら持たないでしょって。
これは確かにそうだなぁって思ったけどね。
あたしの身近な男性って父さんを除けば、課長でしょ、同僚でしょ、お友達も少しは居るけど頻繁に連絡を取り合ったりしてないわねぇ。
何しろ会社のお仕事の関係者は業務連絡くらいしか話題も無いし……
話題と云えば、共通の趣味とか価値観とか基本的な事が合わないとお話ししても途切れ易いのよね。
そう考えるとあたしの周囲でそう云うのが合う男性って誰か居るかしら?
あたしの趣味と云えるのはお料理とバイクとピアノくらいかなぁ。
バイク以外は男性の比率が少ない趣味よね。
男性が七割以上は占めるバイクも、そういうコミニュティとあたしは接点が殆ど無くて、故障した時に修理をお願いするのにバイク屋さんへ行く程度だし。
友人、知人を併せても周りには乗ってる人は居ないから、趣味のどれをとっても男性との接点がないわ。
もっと知りたいって思う身近な男性は、出逢ったばかりだけど璃央さんだけね。
あぁ……なるほどね。確かに愛ちゃんの云う通りだわ。
「弥生。顔が真っ赤よ。どうしたのよ」
「なっ……何でも無いわ。愛に云われたことを頭で整理してたら、なるほどねって気付いて納得しただけよ」
「それで何で真っ赤になるのよ? さては……ふふふ。ホント中学生みたいなんだから嫌になっちゃうわよぉ」
「ちょっと璃央さんに当て嵌めて考えただけだからっ。そんなんじゃ無いからねっ」
「私は誰かなんて言及してないけど? ふふふ。でもまぁ~だ抵抗するつもりかぁ。早く素直になりなさいって。後悔する事になるんだからね」
「ねぇ、愛ぃ。これが恋ってことなの?」
「そうよ。それが『恋』よ。でもね。弥生のはもう恋じゃなくなってるのよ。それは『愛』と云う気持ちに換わってしまってるの。つまりは動き出しちゃってる事なのよ」
「動きだしてるって? 何がぁ?」
「ああ。もうっ! 焦れったいわねぇ。あんたはその璃央さんを愛し始めてるのよ。ここまでハッキリ云わないと解らない朴念仁は、馬にでも蹴られてしまえば良いわっ」
「それって酷くない? あたしはそこまで朴念仁じゃないわよ」
「そう思ってるのはあんただけよ。本当に自分の事になると何にも視えて無いんだからっ。弥生に比べたら中学生の方がよっぽど恋愛に長けてるわよ。ほんと不器用にも程が在るわぁ」
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