内緒話は時間も忘れ夜も更けて Vol4

 師匠のお宅にお泊りした初日の夜の事を、愛ちゃんにお話ししたわ。

 あたしが初めてクーデレさんと向き合って、喧嘩腰な平行線の話し合いをしたあの夜の事よ。

 それから少しずつ歩み寄りみたいに、お互いに折り合いをつけて行く過程も忘れずに順を追ってね。

 ただ、ここだけは現在いまも続いてるから進行形なのだけど。



「――と云う事なのよ。不思議でしょ?」


「あのね……弥生。凄く聞き難い事なんだけどね。あんたって統合失調症では無いのよね?」


「違うわよ。人格はあたしだけだし。解り易く云うと心の声って感じかな? 愛もそう云う経験って在るんじゃない? 例えば何かしようするでしょ。その時それとは相反する考えが浮かんで来たりで、自分の中で解決するような事ってないかな?」


「そう云うのなら普通に在るわよ。それで?」


「その感覚に近いのよ。あたしの場合は、いまこうして愛とお話ししてるみたいに頭の中でもう一人の自分と会話してるの」


「ふ~ん。完全には理解出来てないと思うけど『何となく?』感覚としては解った気がするわ」


「それが約二週間前に初めてお互いに向き合ってお話ししたから、新しいお友達が出来たって感じよ」


「なんで今更なのかって所が気になるけど、突然だったの? 何かトリガーになるような事が在ったとか?」


「そうねぇ。トリガーと云えば『あれがそうなのかなぁ?』って事は在ったわね」


「何よそれ。勿体ぶらずに云いなさいよ」


「勿体ぶってる訳じゃ無いけど、恐らくだけど切っ掛けは師匠のお家にお泊りした事かな?」


「ちょっと待って。また解らない事が出て来たわ。そのお師匠様って誰よ。お華とかお茶とかのお師匠様なの? あんたそんな習い事してなかったと思うけど……最近になって始めた?」


「あぁ。それも云い忘れてたみたいね。ごめん。そこから話さないとお話しが継がらないわよね」


「あんたってこんなに話下手だった? 今夜は全然と云っても良いくらい要領を得ないわね」


「悪かったってぇ。ちゃんと説明するわよ。晩ご飯の時に父さんと母さんにも云った事だから、愛にも話してる前提になってたみたいよ。勘違いだから勘弁して」



 それからバイクツーリングに行った経緯と、その日から始まったノイズ混じりイメージの件を時系列に沿って、重複するのは仕方ないけど説明して行ったわ。

 当然、師匠とお知り合いになってお家にお泊りして、その晩にクーデレさんとの対話した経緯いきさつもね。

 そうやって時系列に沿い整理しながらお話ししたらちゃんと納得してくれたわ。



「最初からこうして話してたら一度で済んだのに。色々すっ飛ばしちゃって慌て過ぎよ。もう」


「ごめんってさっき云ったじゃない。それくらいで勘弁してよ」


「それじゃぁ最初の所に話しを戻して。スピリチュアルな事を信じるかって事よね」


「それに加えてそう云った体験もしたかどうかもね」


「スピリチュアルの括りにも由るけど、運命って事も含めたら在ると思うわよ。私も旦那と知り合った時は運命だって漠然と感じたもの。でもそうじゃなかったけどねぇ。ふふ」


「そう云う自虐はしなくて良いからぁ」


「私はね、偶然と云うのは無いのかも知れないって考える事が在るの。それは必要な事だから与えられるんだって感じの広い意味なんだけど、だから在るのは必然なのよ」


「あたしも時々そんな感じに考える事は在るわよ。それで?」


「弥生が云ってる事は、バイクのツーリングで行った先で起こった事ばかりでしょ。それまで何らかの前兆みたい事は無かったのだから、きっと出逢った人達は無関係じゃないのよ」


「そうねぇ。それが一番大きいと思ってるわ」

 


 二人であたしのぼんやりとして曖昧な存在について、解らないなりに意見交換をしながらこの不思議な体験を整理しようとしてる。

 誰でも気軽るに使うニュアンスでの『運命』ってワードや、少し重厚な感じのする『必然』ってワードも織り交ぜて、まるで占いの結果を二人でどう解釈するかって分析してるみたい。



「それでね、愛ぃ。一番解らないのがノイズ混じりのイメージと璃央さんが被って……いいえ。そのものって云って良いわね。デジャヴュかって思うくらいなのよ」


「弥生ねぇ。それを何て云うか知ってる? それとも惚気のろけたくて私から云わせたいだけとか?」


「含みなんかないし、惚気って何の事よ。それでなんて云うの?」


「本っ当ぉにもうっ! ここまであんたが乙女だったなんてねぇ。イイ? よく聴きなさい。一般常識的にそれを『恋』って呼ぶのよ」


「へっ? 恋ぃ? なんでそうなるのよぉ。揶揄ってるの?」


「まさかこの歳になって……中学生の初恋じゃないのよぉ。そのレベルの話しなんだから理解しなさいよ」


「だって知り合って間もないのよ。そんな事が在る訳ないでしょ。お話しをした時間だって全部足しても数時間よ」


「あ・ん・た・ねぇ。馬鹿なの? 死ぬの? 色恋に時間なんて関係ある訳ないでしょうよっ。時間で計れるのなら一目惚れなんて言葉は必要ないのだから」


「あぁ、そう云えばそうよねぇ。愛の云う通りだわ。一目惚れなんて言葉は要らないじゃない」


「そこじゃないわよっ。全っ然っ違う! あぁ駄目だわ。弥生。懇々とジックリと納得させるまでお説教してあげるから覚悟しなさい」


「なんでそうなるのよぉ……」

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