内緒話は時間も忘れ夜も更けて Vol2

 お布団をあたしの部屋に持って行って少しするとインターフォンが鳴ったわ。

 愛ちゃんが来たのに間違い無いと思うけど、念の為にインターフォンのマイクボタンを押しながら応答する。



「はい。どちら様?」


『夜分にごめんねぇ。私よ。愛望っ』


「すぐ開けるからちょっと待ってね」


 あたしは出迎えを兼ねて玄関のドアチェーンやロックを外して愛ちゃんを迎え入れたわ。


「こうして逢うのは久し振りね。まぁ、取り敢えず上がりなさいよ」


「うん。お久ぁ~。悪かったわね。小母さんは何か云ってた? ご挨拶出来るならさせてよ」

 

「久し振りって云ったくらいで大丈夫よ。父さんは部屋だけど母さんはリビングに居るから」


「これ。おみやげ代わりのビール。弥生も付き合ってよ」


「その心算だから安心しなさいよ。いつまでも玄関に居ても仕方ないからリビングに行きましょ」



 さっきの連絡はアプリで文字だけだし、もし深刻な状況だったらって心配したけど、こうして顔を合わせるとあっけらかんとしていつもの愛ちゃんで安心したわ。

 あたし達は二人でリビングに入った。



「小母さん。ご無沙汰してます。夜分にごめんなさい。父親と揉めちゃってお邪魔させて貰いました」


「愛ちゃん、久し振りね。そんなの気にする事ないから構わないわよ。それに今日は弥生が居て良かったわ」


「ありがとうございます。お変わり在りませんか? お元気そうなので良かったです」


「私達は相変わらずよ。愛ちゃんも元気そうで良かった。それよりお母さんには連絡して在るのよね?」


「はい。母にはメールしてここに泊めて貰うって云いました。返事も来たのでご迷惑にならないようにしてます。あっ。夜分にお邪魔しちゃってるからもうご迷惑かけてますよね。済みません」


「愛ちゃんの顔を視れて私も嬉しいから迷惑なんかじゃないわ。まぁ今晩は弥生とゆっくりしなさいな」


「そうさせて貰いますね。一晩お世話になります」


「ねぇ、愛ぃ。おつまみ作るけどお腹は空いてる? 晩ご飯は食べたの?」


「ええ。晩ご飯は食べてるから軽いので良いわよ」


「了解よ。サクっと作っちゃうからあたしのお部屋に行っててよ。変わって無いから分かるでしょ?」


「うん。大丈夫よ。それじゃ小母さん失礼しますね」


「遠慮しないで羽根伸ばして行きなさい」



 さてっと。何を作ろうかしらねぇ。

 軽いものだからぁ……クラッカーが在るしこれでカナッペ作るのも良いわね。

 ハムにスライスチーズでしょ。

 キュウリにプチトマトにオニオンスライス……

 カッテージチーズの方があたし的には好みだけど、在りもので作るからそこは妥協して……

 オリーブやミントの葉もトッピング出来たら完璧――

 なんだけど、それは流石に贅沢ってものだわ。


 ハムとスライスチーズを適当な大きさに切ってお野菜のスライスね。

 大きめの平皿にクラッカーを並べてスライスチーズ、ハムの順に載せたらひとつ置きの交互にキュウリやプチトマト、オニオンを載せて行けば彩りも綺麗ね。

 サニーレタスも在ったから、これは手で摘まめるように適当な大きさに千切って――サラダボウルに盛付けたら――軽く塩コショウを――振って出来上がり。

 所要時間は全部で十分って所かしらね。

 これで足らなかったら、またその時に考えましょ。

 カナッペとサラダボウルと一緒にタンブラーをトレーに載せ、あたしの部屋に持って行けば久し振りのお泊り会の始まりよ。



「それじゃぁ、母さん。あたしはお部屋いくわ。なにか在ったら呼んで」


「なにも無いわよ。それより愛ちゃんの話しをちゃんと聴いてあげなさいよ。私は適当に休むから勝手にやりなさい」


「解ってるわ。ちょっと早いけど、母さんおやすみなさい」


「はい。おやすみなさい」



 あたしは母さんにおやすみを云って、愛ちゃんが待ってるあたしのお部屋に向かった。

 ドアを開けると愛ちゃんは、懐かしそうにお部屋を視る廻してにやにやしてるけどちょっとだけ恥ずかしいわね。



「お待たせぇ。取り敢えずカナッペ作ったけど、足りなかったらまた考えるわ」


「綺麗に盛付けてるじゃない。お店で出て来るのみたいよ。やるわねっ」


「褒めてもなにも無いわよ。さぁ乾杯にしましょ」


「そうね。久し振りに逢った親友に乾杯しましょうよ」


「それが良いわね。じゃぁ、乾杯っ」


「かんぱぁ~い!」



 あたしにとっては今夜二度目の乾杯をして、久し振りに逢った親友と飲み始めたわ。

 いきなり口火を切ってお父さんとの喧嘩の理由なんて核心部分を聞くわけに行かないから、愛ちゃんが切り出すまで近況報告や昔話なんか雑談をお互いにして、笑い合いながら待つ事にしたの。



「それでねぇ弥生、聴いてよぉ。うちの父さんの事なんだけど、また始まったの」


「やっぱりねぇ。そんな事じゃないかって思ってたわよ。相変わらずの平行線なの?」


「そうそう。相変わらずよ。だから喧嘩になっちゃうんだけどね」


「この件に関しては愛と小父さんの考えは水と油だものねぇ。どこかで折り合いがつくと良いのだけど難しいわね」



 こんな感じにあたしと愛ちゃんの間では、色々と主語や言葉が抜けても通じる共通の認識が在って、前提や説明をかなり省略しても会話が成立するわ。

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