やりたいこと 出来る事 Vol4

 あたしも少し混乱してるけど先に訂正しないとややこしくなるから、根拠のない誤解をしてる父さんと母さんを尻目に二週間前の事を説明する事にしたわ。

 師匠の事や璃央さんの事。そして何より月詠家の暖かな家族の絆の事。

 出来るだけ丁寧に話して行かないと解って貰えないと思うの。

 幸い明日もお休みだし長いお話しになるのは覚悟するとして、順を追って説明する時間はたっぷり在るわね。


 先ずはノープランで行ったバイクツーリングの事からかな。

 これは呆れられると思うけど、ここから話さないと辻褄が合わなくなって更に誤解されても困るから仕方ないわ。



「あのね。これは少し前に有給休暇が溜まってしまって、強制的に取らされたのだけどその時のお話しでね。何しろ急に決まった纏まった日数の有給だったから、計画も何もして無くて暇を持て余したのよ。ウェブサイトで何か無いかなぁって徘徊してた時にバイクツーリングのブログを見て『これだ!』って思い立って次の日にツーリングに出掛けたの」



 こんな感じに切り出すと案の定呆れられたけどね……

 それから師匠とお知り合いになった事や、お家にお泊りまでさせて戴いた事も包み隠さずに話したわ。

 こうした出来事や経緯を聴いて貰った後、あたしは核心となる重要な部分を打ち明けたの。



「ここからが本題で、さっきの地方で暮らすってお話しと繋がるのよ。凄く素敵なご家族であたしもその土地で暮らしたいって云うか近くに居たいって思ったわ。帰って来てからずっと考えてる事で、先ずあっちであたしに出来るお仕事が在るかって調べてみたけど、地元の会社の事務とかお店の販売員とか色々と求人も在るし何とかなりそうなの」


「弥生。ちょっと待ちなさい。その先を聴く前に確認したいのよ」


「良いわよ。母さん。確認ってなに?」


「その何とかさん? バイク屋さんの。その方と結婚するって話しじゃないのよね?」


「そうよ。璃央さんと結婚どころか恋愛関係すらないわよ。それで?」


「あんたはそこに定住して……何て云うの? 移住って云えば良いのか判らないけど、一時的じゃなくずっと暮らすのが前提よね?」


「そうしたいって思ってるわ。師匠のご一家の近くで暮らしたいって考えてるの」


「その覚悟は出来てるのね。いまの会社を辞めてあっちで生活基盤を築くって事は、やってみて駄目だったから戻って来るなんて気軽に出来ないわよ。それも考えてるのでしょうね?」


「考えてるわ。それに覚悟も在る。あっちが駄目だったらこっちでなんて、気軽に考えてないのは約束できるわ」


「そう。それなら良いわよ。先をお話しなさい」



 あたしが説明を始めてから、父さんは一言も挟まずにお話しを聴いてくれてるわ。

 表情や雰囲気から察するしかないのだけど、怒ってたり不満が在るって感じではなくて、真剣に考えたり頭の中を整理しながら耳を傾けてるのだと思う。

 母さんも同様に苛立ったりする様子は無いわね。

 割と淡々と疑問が在ったら水を差してきて、それに対してあたしは自分の考えを説明したり付け加えたりしながら冷静にお話し出来てるの。

 


「いま云った通り、お仕事の方は何とかなると思うから今度は住む場所ね。これは師匠のお家に下宿させて戴こうと思ってるの。当然お家賃を毎月払うのが前提よ。これは今度向こうに行った時に相談してみて、駄目ならご近所にアパートを探しても良いと思ってる。だからいまの時点では住む場所は流動的になるわね」


「あんたは勝手に下宿するって考えてるみたいだけど、あちら様のご都合も在るのよ? ご迷惑なるんじゃないの?」


「そうよね。それが一番心配だわ。ご迷惑はお掛けしたくないもの。でもアパートを借りて暫く生活出来るくらいの貯金は在るから、下宿がダメでも大丈夫よ」


「覚悟と貯金の事は分かったわ。他にも在るけど細かい事はいま話しても仕方のないから省くとして、いまのお仕事を辞めるにしても、いつぐらいを目途にしてるとか具体的にどうする心算なのかとか聴かせなさい」


「いまの会社を辞める前提の事になるけど、丁度プロジェクトの谷間だからキリも良かったりするのよ。近い内にあたしの上司で課長に相談してみるわ」


「あんたねぇ。そこまで考えてるなら意見を聴きたいってレベルじゃないわよ。相談ですらないわ。だってもう自分で決めちゃってるじゃない。全く――」


「父さんもそう思うぞ。しかし弥生が自分で決めた事に反対する心算も無いんだ。お前は私達の娘だけど私達の所有物ではないのだから、遣りたい事は自分で見つけてそして考えて出来ると判断したならやれば良いんだ。その責任は付いて回るが、それは当たり前の事だから弁えてるよな?」


「はい。あたしの責任でやります。後悔はしたくないから」


「そうだな。もう決めてるみたいだから必要はないかも知れんが、相談なら聴くからいつでもして来なさい」


「ありがとう。父さん。あたしだけじゃ出来ない事が在ったら相談させて貰うから」

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