やりたい事と出来る事 Vol3
母さんと一緒にお料理するのも久し振りだわ。
人参とジャガイモを蒸しながら唐揚げを揚げてる母さんの横で、火を使わないポキや温野菜サラダにのっけ盛りの冷奴を盛付けたりしてるの。
昔から母さんはキッチンは私のテリトリー的な感じで、あたしにも譲らなかったりするのって妻や母親としての自負とかプライドなのかしら?
そう云えば基本的なお料理は母さんから教わったのよね。
普通の家庭料理でお店みたいな味じゃ無いけど、母さんのお料理は懐かしい味って云うかな食べていて安心する味なの。
これが俗に云う『おふくろの味』なのかも知れないわ。
いつでも直ぐに帰って来れる距離だから望郷の念は微塵も無いけど。
「弥生。そろそろお父さんを呼んで来てくれない?」
「おつまみを盛付けてテーブルに運んだら行って来るわ」
「それで良いわよ。お父さんはビールだけど、あんたもそれで良いの?」
「ビールで構わないわよ。母さんは相変わらず飲まないんでしょ?」
「私は下戸だもの。飲んだら酔ってしまって眠くなるだけよ」
「お酒が苦手ってだけで人生の半分くらい損してるんじゃない」
「そんな事は無いわよ。飲めないなら飲めないなりの愉しみは在るのだから。分かって無いわねぇ」
「そんな物かしらねぇ。まぁ、母さんがそれで愉しいならあたしがどうこう云う話じゃないわね」
あたしは父さんを呼びに行きリビングへ戻ると、お取皿やタンブラーなんかの食器を用意したり出来あがったお料理を運んだりと晩ご飯のお膳を整えて行く。
父さんが席に着く頃にはテーブルの上はすっかり整い、冷蔵庫からビールを取り出しお酌ついでに『冷奴にはお醤油を控えて』って忘れずに伝えなきゃね。
母さんはまだキッチンで唐揚げを盛付けたりしてるけど、これはいつもの事なの。
晩酌する父さんを先に始めさせて、少し遅れて席に着くのがいつもの光景。
父さんは直ぐにお米のご飯に手を付けないから、時間を見計ってるのだと思うわ。
「父さん、その冷奴はお醤油を掛けないで食べてみて。味が足らなかったら少しだけ使うと良いわよ」
「おお、そうか。分かった。まず味見してみてからにするよ」
「しらす干しの塩分と大葉の風味で、意外と味は足りてると思うわ」
「そうだな。これに醤油を使ったら塩っぱいな。先に聴いて良かったよ」
「そうでしょ。これで丁度いいのよ。それじゃぁ、こっちのポキも摘まんでみて」
「これはマグロとアボガドかい? 前にどこかの店で食べたなぁ。旨いよな」
「食べたこと在るなら安心だわ。今日は唐揚げも在るから胡麻油は風味付けしただけで控え目にしてるの」
「店で食べた時もピリッてしてたけど、弥生のみたいに山葵の辛味じゃなかったな」
「きっとそのお店では辣油を使ったのじゃないかしらね。このお料理はレシピが定まってないって云うか、作る人に由って微妙な違いが在るのよ」
「そうみたいだな。山葵の風味だと和食のメニューって云われても信じるだろう」
父さんに説明しながら、お料理の感触を確かめるように感想を引き出してみたわ。
やっぱり作ったら食べた人の感想を聴いてみたくなるでしょ。
あとは母さんからも感想を引き出せばミッションコンプリートねっ。
父さんの晩酌に付き合いながら、あたしも手を伸ばしお料理を摘まんでると母さんも席に着いたわ。
お茶碗にご飯をよそってお味噌汁も用意してるから、母さんは晩ご飯になるわね。
いつもながら唐揚げは大皿に山盛りにして在って豪快だわ。
癖なのか拘りなのか判断出来ないんだけど、母さんって唐揚げだけは大皿に山盛りで出すのよね。
エビフライとかカキフライそれに天麩羅なんかは個別のお皿に盛り付けるから、揚げ物全般の括りじゃないのが不思議なの。
晩酌で少しお酒が入ってるのも在って父さんは上機嫌。
家族団欒の和やかな雰囲気でテーブルを囲む。
お食事中のお話しはそれぞれの近況や、あたしも知ってるご近所さんの誰それが結婚したとかって云う世間話で取り留めもない事ばかりね。
こっちに帰って来たのは二か月振りだけど、そのくらいの期間では大事件なんてそうそう起きる筈も無いわよね。
あたしは最近少し考えてる事も在るから、良い機会だしちょっと意見を聴いてみようかしら。
「ねぇ。父さん、母さん。もし。もしもなんだけど、あたしが地方で暮らすって事になったらどう思う?」
「なぁに? 弥生。いつの間に結婚する事になったのよ。この前の電話じゃ何も云って無かったし、匂わせてすら無かったじゃない」
「ほうぉ。弥生も結婚する歳になってたんだなぁ。まだまだ子供だと思ってたのに早いものだ。なぁ、母さん」
「ちょっと待ってぇ。そうじゃ無いのよ。ちゃんと説明するから落ち着いて」
何かあたしの思惑とは別次元のお話しがフランクに展開されつつ在る状況に、頭の中で言葉にならない単語がグルグル飛び廻ってるのって気の所為なのかしら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます